思想強めな紫蘇山くん

@daibutuhab_

第1話

「はーい、それじゃあ今から席替えするぞ~。お前らくじびき制だから恨みっこなしだぞ~。」


「お前隣になりたくないやついる??」


「は?そんなん迫田に決まってんじゃん!あんな陰気臭いそばかす女のどこがいいんだよ~」


やっぱりだ。校則で化粧が禁止されてるからそばかす隠せないだけなのに、こんなに言われることってある?


そう思ったが口には出せない、恐怖が勝ってろくな言い返しが思いつかない。私はただそいつの顔を見上げる


「こいつ睨んできやがったぜ!!なんかあんのかよ!!言ってみろよ!!」


うっ・・・またこの圧迫感。何も言い返せずまた終わる・・・人生なんてどうせいつもこうだ。


「お疲れ様です。」


ん?


「お疲れ様です。と私は発言しましたがあなた達は聞こえなかったのでしょうか、それとも本来の耳は腐り落ちて今ついているのはただの飾りでしょうか?」


えっと・・・


「お前誰だよ。」


それはそう、このスーツグラサン男は誰・・・?


「もう一度尋ねます。私はお疲れ様です。と発言しましたがあなた達には聞こえなかったのでしょうか?」


さすがに私をターゲットにしていた男子二人組もイライラが募る。


「あ?聞こえてるよ!!そんでもってお前が誰かを俺らは聞いてんの!!」


「今!!聞こえていると申しましたね?」


このスーツグラサンすごい強気だな・・・


「あ・・・あ・・・」


「聞 こ え て い る と ! ! 申 し ま し た ね ! ?」


「ああ言ったよ!だから何なんだよ!!」


圧のかけ方が尋常じゃない・・・

クラスもさすがにやばいと思って静かになり始めた。


「聞こえているならば!!『お疲れ様です。』には『お疲れ様です。』を返すのが社会のマナー!世の中の常識!だと思うのですが、あなた達は耳か常識のどちらかが欠如しているのではないのでしょうか?」


いやそこまで言うのは笑い通り越してトラブルの種では・・・?


「あ?欠如してんのはてめえの頭の柔らかさだろうがよお!!」


興奮した男子の一人がスーツグラサンに殴り掛かる。女子生徒の中には目を覆い隠す人もいた。そりゃ怖いから当たり前だな。


しかし・・・


「どうやらあなたは常識が欠如しているようです。」


拳は入っているのにビクともしないスーツグラサン。


「・・・は?」」


これには流石の殴った本人も動揺している。


「では今からあなたの人生に『お疲れ様です。』しましょうか。」


「ちょ、ちょっと待て!!待ってくれ!!」


「あなた達の命乞いや覚悟などは聞いていませんよ。常識のない人など人ではなく猿です。猿デビューおめでとうございます。」


「いや、殴ったのはそいつで俺は何も・・・」


「私はあなた達に殴られたことに対して何か問いましたか?」


「・・・え?」


「私はあなた達に『お疲れ様です。』と言ったのにも関わらず、『お疲れ様です。』を返されなかったあなた達のその常識のなさを問うているのです!!」


「そ!!!それは・・・」


「言い返せないですよね?だってあなた達、常識ある言葉を返せない猿ですもんね??」


「くっ・・・!」


「では『お疲れ様です。』を始めますね。」


「ちょ」


「お疲れ様です。」


まばゆい光がクラス中を照らし、目がくらむ。


「んっ・・・」


目を開けると、先ほどの男子二人組の姿はなく、そこには学ランを着た猿二匹が呆然としていた。


「・・・え?」


「お疲れ様です。」


スーツグラサンが私の顔を見てそう言い放つ。


「お、お疲れ様です・・・。」


「こんにちは。初めまして、私の名前は紫蘇山、紫蘇山 剛(しそやま つよし)と言います。」


スーツグラサン、もとい紫蘇山くん・・・?は笑顔で私に自己紹介する。


「あ、・・・どうも、初めまして・・・。」


なるべく関わりたくない・・・。そう思っていたら彼の顔がみるみる笑顔から鬼の形相に変わっていく。


やばい!!なにか挨拶が足りていないのだろう!!思い出せ・・・じゃないと次は私がやられる・・・!!


・・・はっ!!名前だ!!私はまだ自己紹介で『名前』を言っていない!!


「すみません!申し遅れました!!迫田 学絵(さこた まなえ)と言います!」


そう言うと、紫蘇山くんはまた笑顔になる。


「実は転校してきたばかりで、知り合いがあまりおらず、挨拶に伺ったのですが、今お時間大丈夫でしょうか?」


そんなんだから知り合いできないのでは・・・?ってか


「今席替え中なのになぁにしてくれとんじゃあああ!!」


担任の石橋先生激昂、紫蘇山くんが悪い。うん。


「先生。私は今迫田さんと会話をしているのです。」


「休み時間にやれええええ!!」


「私は今!迫田さんと!会話を!しているのです!わかりますか!?!?」


「会話をしてるのは見てわかる!だが、授業時間中に関係のない私語を挟むな!!と言っているのです!!」


そりゃそうだよ紫蘇山くん、無理があるって・・・


「では先生!お尋ねしますが、この席替えというなにかを教えるわけでもない時間に私語を挟むことに一体何の問題があるというのですか!?」


「あなたが私語を挟んだことにより、席替えが長引いているんです!!わかりませんか?この視線!?みんな紫蘇山くん、あなたを怖がっていますよ!!」


「はぁ、まだ喋ったこともないそんな人間かもわからないオブジェクトたちの思考など、さっぱりわかりませんね。」


「なにを言ってるんだ・・・?紫蘇山・・・?とりあえず中井と田山と言い合ってた時からあなたは席替えを止めています!!」


紫蘇山くんは難しい顔をして一瞬止まったが、2秒ぐらいしたら口を開いた。


「そしたら私は迫田さんと共に廊下に出て会話の続きをしてきます。それでなんの問題もありませんね?」


なんでこいつ私を巻き込んでんの・・・?


てか・・・


こいつ、やばくない・・・??

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