#22 目には目を。巨大には・・・

「ユーマきょーかん!」

「ご無事ですか―」


 ユーマのあとを追いかけてきたシンジとマイコは戦場にたどり着いた。彼らはその場所で、己の目を疑わざるを得ない光景を目撃する。


「ウソだろ……」


 ひと足さきに到着して防衛隊とともにゴーレム軍団と交戦していたユーマ。その手に握られていたのはただの剣ではなかった。シンジとマイコが受け取ったごく普通のものと比べて、倍以上の長さと何倍もの厚みを持った大剣。並みの人間には構えることはおろか、持ちあげることすら難しい鉄の塊。


「すごーい。あんなものを振りまわしてるー」


 ユーマが剣をひと振りすると、ゴーレムはバゴンっと鈍い音を立てて砕け散る。斬るではなく叩き割るという言葉が正しいだろうか。泥の継ぎ目などお構いなしに岩石のからだをまっぷたつにしていく。


「す、すげえ……あれがユーマきょーかんの本気なのか……」

「わたしたち、よく無事だったねー」

 ふたりはブルブルとからだを震わせた。


 常人離れした戦いを目の当たりにしたよろこび。自分たちの教官が想像以上の実力者であったことへの誇り。そして、一歩間違えば訓練中にゴーレムと同じ目にあっていたかもしれないという恐怖。様々な感情が入りまじり、しばらくのあいだ、ふたりの震えが止まることはなかった。


「シンジ、マイコ。おまえたち、どうして──」

 ユーマは戦いを続けながら、後ろからやってきた新米コンビを横目で見やった。


「助太刀に来たっすよ、ユーマきょーかん!」

「きましたよー」

 と言って、ふたりは剣を抜いた。


「……わかった。ムリはするなよ」

 ここまで来てしまっては仕方ないとあきらめるユーマ。


 新米コンビの実力は彼が一番よく知っている。ゴーレム相手でも十分にやれると判断したのだ。そして、ふたりがこれほどまでにやる気を出すのはかなり稀なことで、その意志を尊重したいという気持ちもあった。


「ゴーレムの倒し方はわかってるな?」

「もちろん、わかってますって!」

「養成所で学びましたー」


「よし。おまえたちは後ろに待機。撃ちもらしの小物をやってくれ」

「りょーかいっす!」

「きょーかんはどうするんですかー?」


「おれは──」

 ユーマは近くの民家を見あげる。


 そのかげから巨大ゴーレムが出てきた。ブオンっと腕をひと振りするだけで、石造りの建物が積み木のように簡単に崩れてゆく。防衛隊が取り押さえようと奮闘しているが、巨人はひたすら突き進む。


「今度はさっきのようにはいかないぞ――」

 噛みしめるようにつぶやくユーマ。初戦は惨敗を喫してしまったが、この大剣ならやれるはずだ。そう信じて巨大ゴーレムに向かって駆け出した。


 ユーマが持ってきた大剣は、冒険者養成所にかなり昔から保管されていたものだった。もともとはどんなモンスターにも対抗できるようにとつくられたものだったのだが、使える人間がいなかったために倉庫の奥でほこりをかぶっていた。


 足を止めることなく小型ゴーレムを軽くさばきつつ、親玉との距離を詰める。自分目がけて振り下ろされる巨大な拳をひらりとかわし、巨人の死角である足元に潜り込む。そして、膝の関節部分に大剣を叩き込んだ。


「くっ……これでもだめなのか……」

 大剣は膝にめり込んだだけで、切断するには至らなかった。


 巨大ゴーレムはもう一方の足を振りあげてユーマを蹴り飛ばそうとする。


「ちっ──」

 大剣を引き抜いて間一髪のところでこれを回避。


 やはりゴーレムのからだが大きすぎるのだ。小型のゴーレムなら一撃で粉砕できる破壊力を持った武器と、ユーマの鍛えあげられた筋肉が合わさったとしても、巨人を倒すにはまだ足りないというのか。


 しかし、ユーマはみじんもあきらめてはいなかった。なぜなら、大剣はまだ折れていないからだ。


「一回で斬れないのなら、斬れるまで振り続けるまでだ!」


 一撃目と同じ場所にもう一発。二撃目はさっきよりも深く入った。


「よし、これなら──」


 巨人のなぎ払い攻撃。ユーマは大剣を盾にして防ぐが吹き飛ばされる。


「ああっ! ユーマきょーかん!」

「だいじょーぶですかー!」

 新米コンビが小型ゴーレムと戦いながら叫んだ。


「おれは大丈夫だから、おまえたちは近づくな!」

 自分に駆け寄ろうとするふたりに対して、ユーマはひらいた手を突きだして制する。ほっとしたふたりは小型ゴーレムとの戦いにもどった。


 ユーマの見立て通り、シンジとマイコはゴーレム相手でもまったく引けを取っていなかった。やる気さえ出せばこれだけの力を発揮できるのだ。彼は教官として、ふたりの教え子たちのことを誇らしく思った。


「おれも負けてられないな。さらにもう一発いくぞ──って、なんだ? なにをしているんだ……」


 ユーマを払いのけたあと、巨大ゴーレムは付近の地面を掘って土を掴み、それを自分の膝に押し当てる。すると、ユーマのつけた傷がすっかり修復されたではないか。


「そんなまさか……あいつは、不死身なのか……」


 時間をかければ再生される。一刀で両断することもできない。もはやなす術はないのだろうか。ユーマの心に絶望という名の感情が生まれはじめる。


 巨大ゴーレムには人間たちの感情など関係ない。ひたすらに進みたいから進む。邪魔なものは排除する。ただそれだけのことだ。

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