#19 ユーマの決意
「うわあ!」「なんだあいつは!」という驚きと恐れの入り混じった声が、まわりの隊員たちから次々にあがった。
ユーマたち三人も隊員たちの見つめるほうに目をやる。
街道の続く先、林のなかからあらわれたのは、一体のゴーレム。ただし並みのものではない。群れを成してやってきた人間サイズのゴーレムの数倍は大きい、巨大な人型ゴーレムだったのだ。
「うそだろ……」
ユーマですら、巨大ゴーレムの放つ圧倒的な存在感に言葉を失った。
木々をなぎ倒しながら向かってくる巨大ゴーレムが、林を抜けてその全体像を見せる。三階建ての建物ほどの大きさがあるだろうか。一歩進むたびに特大の足跡がくっきりと残り、地面が揺れているような気さえした。
「ええい、ひるむな、ひるむな! 目標はデカブツ! 雑魚には目もくれずに、でかいの目がけて撃ちまくれ!」
総司令官が大声で叫んだ。
「もっと引きつけてからのほうが――」
「撃て、撃てえ!」
部隊長の進言が届いていないのか、ハイになった総司令官はやみくもに攻撃指令を出し続ける。隊員たちは攻撃目標を巨大ゴーレムにしぼって砲撃を集中させ、煙で敵の姿が見えなくなるまでひたすらに撃ちまくった。
「ふっ──これだけの砲撃を食らっては、あのデカブツといえどもひとたまりもないだろうな。ハッハッハ!」
もはやお約束ともいえるフラグを立てた総司令官がふたたび高笑いした。
「――いや、まだだ……」
ユーマがつぶやく。
煙が晴れると、そこには先ほどとほとんど変わらぬ姿のゴーレムが立っていた。なぜあれだけの砲撃を受けても平気なのだろうか。
「なんだと! たかがデカイだけのモンスターの分際で生意気な……そっちがその気なら、倒れるまで撃ち続ければいいだけの話さ。攻撃を再開するのだ!」
「ダメです! 弾薬が尽きました!」「こっちも残りわずかです!」と、あちこちから報告があがってきた。
「なにい? ならば、いったいどうすればよいのだ?」
ズン、ズン、と鈍い音を響かせながら、巨大ゴーレムがゆっくりと、しかし着実に町へと接近してくる。あれだけの巨体に攻撃されたとなると、門はおろか外壁まで破壊されかねない。
「くそう……こうなったら、一時撤退して体勢を立て直すしかないな。総員、ボクに続け――って、あれ?」
バカ息子総司令官がまわりを見渡すと、ほとんどの隊員たちは指示を待たずに撤退をはじめていた。
「こらっ! ボクを置いていくなといつも言ってるだろ! ――おや、キミたちは待っていてくれたのか。殊勝な心がけだ」
ユーマと部隊長がまだ退避していなかったと分かり、ほっとする総司令官。
「いえ、部下を置いてさきに逃げるわけにはいきませんし。そろそろ我々も逃げるとしましょうか、ユーマ教官」
と言って、部隊長がユーマに目を向ける。
ユーマはなにも答えず、ただただ迫りくる巨大ゴーレムをじっと見つめていた。
「ユーマ教官……どうかされましたか?」
部隊長が心配そうに声をかけ、ポンっと肩を叩く。
「――ああ、すまない。ちょっと考え事をな」
「考え……まさか、あれと戦うおつもりではないでしょうね!」
部隊長は問い詰めるように声を大にして言った。
「ああ、そのまさかだよ」
ユーマはどこからか剣を取り出し、すっと掲げてみせた。
「ん? あ、それはボクの剣ではないか!」
ユーマが手にしていたのは、総司令官が腰に帯びていた真剣だった。どうせろくに扱えないのだが、前線に出るにあたって形だけでもと身に着けていたのだ。
「細かいことは気にすんなって。これで足止めをしてやるんだから、文句はないだろう。あんたらは下がって町の住民を守ってやんなよ」
と言って、ユーマは剣を抜き、鞘だけを総司令官に手渡す。
「無茶ですよ! あれは、人の手に負える代物ではない。むざむざやられにいくようなものです」
「大丈夫だって。危なくなったら逃げるからさ」
「――約束ですよ。では、ご武運を」
部隊長はユーマの言葉を、実力を信じることに決めた。階段をおりて指示を待つ部下のもとへと向かい、ゴーレム軍団を迎え撃つ準備をはじめる。
「だからボクを置いていくなー!」
総司令官も騒がしく去っていった。
「さてと──」
外壁の頂上にひとり残ったユーマ。壁を越えて吹き抜けてゆく強い風が、彼の頭を冷やし、心を研ぎ澄ます。
ユーマの後ろにはメイズルの町。彼の生まれたふるさと。ユーミィとともに育った思い出の地。守るべきものたち。
ユーマの見つめる先にはゴーレムの群れと巨大な親玉。町を破壊するもの。やつらに悪意があるのか、進路上に偶然町があるだけなのかはわからない。だが、倒さなければならない存在。
巨大ゴーレムはさらに接近し、もうすぐ壁に手が届きそうな距離までやってきた。目前にせまる敵と向かい合ったユーマは心のなかでつぶやく。
──おれが冒険者として旅立たずにこの町にとどまり、日々の厳しい鍛練を欠かさなかったのは、いまこのときのためだったのかもしれない。あいつを、あいつの大事にしている工房を、あいつを大切にしてくれる町の人たちを、守るために……。
ユーマは剣を構えた。
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