#17 音
「あっ、いたいた! ユーマきょーかーん!」
「きょーかーん」
シンジとマイコの新米コンビが、大きく手を振りながらかけ寄ってきた。
「おまえたち、どうしてここに──って、そんなことはどうでもいいか。なにがあったか知らないか? 町がずいぶん騒がしいみたいだが」
「大変なことになってるみたいっすよ。なんでも、モンスターの大群が町に押し寄せてるとかなんとか」
「モンスターの大群だって?」
「はいー。防衛隊の人が話してるのを聞きましたー」
「ユーマきょーかんにも教えてあげようと思って、探しに来たってわけっす」
「きょーかんの近くが一番安全だってことになりましたー。いざというときには守ってもらえるしー」
「おいおい、おまえたちも冒険者見習いなんだから、自分の身くらい自分で守れよな。まあ、防衛隊に任せておけば大丈夫だとは思うぞ。バカ息子総司令官のウデを見せてもらおうじゃないか」
とは言いながらも、ユーマは不安を捨て切れずにいた。
大砲の配備された堅固な外壁があれば、並みのモンスターなら簡単に追い払えるはずだ。もちろん、空を飛んで壁を越えてきたり川から侵入してくることも考えられるが、大半のモンスターは町に入ってくるまえに食い止められる。
にもかかわらず、防衛隊員たちが切羽詰まったように走り回っている。もしかすると、それだけの防衛設備がありながらもどうにもならない事態が起こりそうなのではないだろうか。
「念のため、様子を見に行ってみるか」
ユーマは新米コンビに提案した。
「えっ、わざわざ危険なほうに行くんすか?」
「行くんですか―?」
露骨にイヤそうな顔をするふたり。
「ああ。どうにもきな臭い感じがするんでな。怖かったら工房にでも行ってろよ。状況を確認したら、おれももどるから」
「――おれもお供しますよ、ユーマきょーかん。こんなことでビビってたら、冒険者としてやっていけないっすからね」
「やっぱりきょーかんのそばが安心できますー」
覚悟を決める新米コンビ。
そのとき、ドン、ドン、という低く鈍い砲撃音が聞こえてきた。
「はじまったか」
「すごいっすね、大砲ってのは。この距離でもはっきり聞こえるんだ」
「花火みたいですねー。でも大きい音は苦手……」
「この町で本格的に使われるのは、これがはじめてだろうな。おれも大砲の音なんて聞いたことがなかった」
町の外縁部から響いてくるその音は、連続して途切れることがない。
「これなら大丈夫そうっすね」
「いや、そうとも言い切れないな――」
大砲が使われたということは、相手はただの雑魚モンスターではないということだ。スライムではどうにもならず、外壁を突破される可能性のある相手。もしも外壁の門を突破されでもしたら、町にモンスターの大群がなだれ込んでしまう。
カンカンカンカン。砲撃音の鳴り止まぬなか、聞きなれない鐘の音がけたたましく鳴り響いてきた。
「こんどはなんすか?」
「ちょっとヤバそうですー」
不安そうな顔をしてユーマに視線を向ける新米コンビ。
「これは──警報だ。町に危機が迫ってるから避難しろって意味のはず。これはのんきなことを言ってる場合じゃないぞ」
と言って、ユーマが突然走りだした。
「ちょっとまってくださいよ、きょーかん!」
「まってー」
ふたりも走って追いかける。
「避難するんじゃないんすかー!」
シンジは大声を出して問いかける。ユーマの足が速すぎて追いつけないからだ。
「おまえたちはムリして来なくてもいいぞ!」
ユーマも足を止めずに大声で返し、そのまま走り去った。
「行っちゃった……マイコ、どうする?」
「工房に行こうよ―。教官もあとで行くって言ってたしー」
「そうするか」
先にスライム工房に行ってユーマを待つことにした新米コンビ。先立って歩きだしたシンジは、すぐに立ち止まってマイコにたずねる。
「で、工房ってどこだっけ?」
「このへんにあるってことしか知らなーい」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます