第17話 覚悟
真相解明に大きく近づいたブラントたちは、その後も独自の調査を続けていく。
とはいえ、あとはもうほとんど答え合わせのようなもの。
ただ、肝心なのは――今回の事件のバックに存在するメルツァード商会の悪事を暴き、一網打尽とするためには、どうしても騎士団の力が不可欠だとブラントは感じていた。
自分たちも、書類での所属は騎士団となっているが、さすがに四人だけの部署で対応するには限界がある。
そこで、ブラントは騎士団に協力を要請すべく、ある人物のもとを訪ねた。
その人物とは、
「失礼します――アイゼンバーグ副騎士団長」
「ブラントか……今日はどうした?」
かつて、ブラントに遺失物管理所への異動を通告したアイゼンバーグであった。
「遺失物管理所でも、張りきって仕事をしていると聞いたぞ」
「おかげさまで、思っていた以上にはこなせていると思います」
騎士として大成することを望んでいるブラントは、まだ出世をあきらめたわけじゃない。今も自分にやれることを精一杯やろうと、できる範囲での鍛錬は続けていた。
――しかし、遺失物管理所で日々を過ごしているうちに、こちらでの仕事にもやりがいを覚えるようになっていった。
だからこそ、初めて受け持ったこの仕事は最後までやり遂げたいと思うし、何より、ブラントの推理が正しければ、騎士団が見逃してよい事件が隠されていると感じたからだ。
「今回はお願いがあってまいりました」
「例のぬいぐるみの件か?」
「っ!? ご、ご存知でしたか……」
「噂になっているよ。それが原因で襲われたっていうのもな」
「でしたら、話は早い――今回の件、裏にはとんでもない事実が隠されている可能性があります」
「……聞こうか」
真剣な表情で訴えるブラントを前に、アイゼンバーグは耳を傾ける。
彼が己の保身のために軽薄な嘘を重ねるような人間性でないことくらい、よく理解しているからこその判断であった。
そんなアイゼンバーグの対応に感謝しつつ、ブラントはこれまでの調査から分かったこと、そして、そこから導きだされる最悪の可能性について説明した。
「――以上になります」
すべてを話し終えると、アイゼンバーグはしばらく沈黙。一分ほどしてから深く息を吐きだして、ブラントの推理に対する見解を述べる。
「なるほど。確かに、君の言う通りならばすべての辻褄が合うし、馬車の中にぬいぐるみが放置されていた理由も納得できる」
「では!」
「しかし、確証がない」
「その確証を得るために、騎士団の力をお借りしたいのです」
「バカな……それでもし空振りに終わったらどうする? 今度こそ、騎士団にはいられなくなるぞ?」
ただでさえ、怪我をして満足に戦闘のできないブラントの評価は、騎士団内で急降下している。それでもなんとか左遷で済んだのは、彼の才能を信じるアイゼンバーグらの尽力があってこそだった。
今回の失態が明るみとなれば、もはや庇いきれない。
――しかし、ブラントはそれを承知して提案していたのだ。
「覚悟の上です。俺は――騎士としての命をかけます」
「なっ!?」
「それくらい重大な事件に発展する可能性があると、俺は睨んでいるんです」
たとえ騎士団にいられなくなったとしても、それはつまり自分の推理が外れていた――つまり、最悪のシナリオは存在しなかったということになる。
それならそれでいいとブラントは考えていたのだ。
この覚悟を耳にしたアイゼンバーグは俯く。
「……やはり、ブラントをあそこへ送ったのは正解だったな」
「はっ?」
「いや、なんでもない。それより……君の覚悟は受け取った」
「っ! そ、それじゃあ!」
「手配しよう。――君が望む戦力を」
こうして、ブラントの騎士としての命をかけた説得は成功。
いよいよ、事件の真実へと切り込む。
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