第16話 偽りの情報
捕まえた男は騎士団の詰め所にて尋問を受けることとなった。
メルツァード商会所属の商人であることは間違いないので、今後は商会にも捜査の手が伸びるだろう。もともと評判のよくないところだったから、叩けば余罪がボロボロと出て来そうではある、とブラントは睨んでいた。
ただ、捕まえた男は沈黙を貫いているという。
恐らく、ここですべてを吐きだせば次に狙われるのは彼自身なのだろう。騎士として鍛錬を積んだブラントだからこそ、チンピラを撃退することができたが、普通の商人である彼にはあのようなマネはできない。
――しかし、今回の襲撃事件について、ブラントは商会側に感謝をしていた。
これで、止まっていた調査が動きだす。
それから、やはりあのぬいぐるみには何か重要な裏事情があるということが今回の件を通して確定したと見ていい。
一体何が隠されているのか――真相を探るべく、ブラントはすぐに行動へ移った。
翌日。
ブラントが遺失物管理所へ出勤すると、
「ちょっと! 襲われたって本当なの!?」
「お怪我はありませんか!?」
「うおっ!?」
サンドラとエルゲから質問攻めにあう。
無事であることを告げてふたりを引き離すと、今度はシモンズ所長がやってきた。
「今回は災難だったね」
「いえ、一緒に調べていたサンドラやエルゲに被害が及ばなくてよかったです」
「あら、これでも私たちだって騎士のはしくれよ?」
「町のチンピラごときに遅れは取りません」
自信満々のふたり。
とはいえ、実際どうなるか分からないので、自分ひとりで済んだと分かりホッとする――だが、本当の意味で終わったわけではない。
昨日は自分だけが狙われたが、今後狙われない可能性がないわけではないのだ。
そうした事態が起きないためにも、早期決着が望まれた。
――ちょうどその時、ブラントの「仕掛け」が発動する。
「おはざっす~」
軽いノリで遺失物管理所に入ってきたのは、ブラントの同僚で門番をしているジャックであった。
「ジャック、君がここを訪ねてきたということは――」
「お望みの結果を持ってきてやったぜ」
そう言うと、ジャックは一枚の紙を懐から取りだす。
一方、これから何が始まろうとしているのか、皆目見当もつかない遺失物管理所の三人。代表してシモンズがブラントへ尋ねる。
「それは?」
「例の人形屋で、あのぬいぐるみを買った者の魔紋照合した結果です」
「っ! できたのか?」
「かなり強引な理由付けでしたけどね」
商会の人間に襲われたブラントは、自分が遺失物であるウサギのぬいぐるみの持ち主について調べているから狙われたと報告。それから例の人形屋の件も話し、「黒幕が分かるかもしれない。もしヤツらの一網打尽にできたら、騎士団長からの評価も上がるぞ」と尋問する騎士たちを丸め込んで調べてもらったのだ。
「で、その結果なんだが……驚くべきことが分かったぞ」
「何っ?」
「おまえはあの魔紋がクリストフ・コーナーのものだと言っていたが――ところがどっこい。こいつはクリストフのものじゃなかったんだ」
「「「えっ!?」」」
「やはり、か……」
シモンズ、エルゲ、サンドラの三人は驚いた様子だったが、当のブラントはこの結果を予想していたらしく、落ち着いていた。
「では、その魔紋は誰のものだったんだ?」
「これも驚きなんだが……なんと騎士団の中にいたんだよ。名前は――」
人形屋でウサギのぬいぐるみを買った本当の人物の名を聞いたブラントは、一瞬だけ目を見開いた後、「フッ」と小さく笑う。
「そういうことか……これでいろいろとつながったぞ」
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