第14話 奇襲

 その日の仕事終わり。

 なんだか真っ直ぐ家に帰る気になれなかったブラントは、王都にある食堂で夕食を済ませると、何か事件解決のヒントはないか見て回るが特にこれといった発見もなく、結局手ぶらのまま家路につくこととなった。


「ここまでなのか……」


 あと一歩まで迫りながらも、これ以上ぬいぐるみについて調べようがない。

 落胆しながら歩いていると、


「む?」


 気配を感じ、思わず足が止まる。

 今は人通りがない路地裏――その道を進むブラントを何者かが取り囲んでいる。隠れているので姿は見えないが、明らかにこちらへ敵意を向けている連中がいると察していた。

 あまりにも分かりやすいため、恐らくプロではないだろう。

 金目当てのチンピラとも思ったが、他の町に比べて警備も厳しいこの王都でそのような行いをする者など耳にしない。

 

 とすれば、何か別の目的をもってブラントを囲んでいることになる。


「……いい加減、出てきたらどうだ?」


 ブラントが声をかけると、物陰から次々と男たちが出てくる。

 合計で六人。

 全員、漏れなく手には武器を持っている。


「ほぉ、さすがは将来を有望視されていた騎士団の若きエース様だ。俺たちの気配を察知するとは」

「あれだけ分かりやすく殺気を放っていれば、嫌でも気づくさ」


「将来を有望視されていた」――という過去形の言い方に少し引っかかりを覚えたが、現状では何ひとつ間違ってはいないため、特に言い返すことはせず。


「悪いが、金は持っていないぞ。高給取りってわけじゃないからな」

「そうじゃねぇ。……ただ、おまえを黙らせればそれでいい」

「何っ?」


 金目当てではないとすれば、彼らの狙いはなんなのか。

いくら彼らがバカっぽそうに見えても、さすがに真正面から理由を聞いて答えてくれるはずはない。

 ただ、当てはまりそうな条件はある。

 同じく出世を争うライバルが送り込んだ刺客――ではないだろう。何せ、今のブラントは剣を握れない。何もしなくてたって、勝手に落ちていくだけだ。わざわざこんな回りくどくてリスクの高いことをする必要はない。

 となれば、心当たりは例のぬいぐるみか。或いは、重傷を負って意識不明となっているクリストフのことを嗅ぎ回っている件か。

 いずれにせよ、今ブラントが調査している内容が不都合だと感じている者がいて、その存在がチンピラを送り込み、口封じを試みた――ブラントはこの可能性がもっとも高そうだと分析する。

 それともうひとつ――気がかりなのは相手がブロント自身のことを知りすぎているという点だった。

 彼らはブラントがすでにエリート街道を外れていると知っている。だが、ブラントが遺失物管理所へ異動になったのはほんの数日前。公式の発表があったわけでもない。それなのに部外者である彼らが知っているのはなぜか。


 考えられるのは――ブラントと近い存在――すなわち、騎士団関係者。


「悪いな、兄ちゃん。来世に期待してくたばりな」


 大柄の男はそう告げると、手にしていた大剣を大きく振りかぶった。

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