第13話 手詰まり
クリストフが足繁く通っていたという教会。
あのぬいぐるみは、親をなくした子どもが多いこの教会への寄付だったのか――と思われたが、ブラントはどうしても違和感が拭えなかった。
そこで、そもそもなぜクリストフが教会へ顔を出すようになったのか、その経緯について聞くことにした。
「クリストフがどうしてこの教会へ来るようになったのか、その理由についてご存じないですか?」
「い、いえ、理由までは……あっ、でも、手続きについての質問は何度か受けました」
「手続き? 何のですか?」
「この教会に子どもを預けるためのものです」
「子どもを?」
ブラントは首を傾げる。
資料に目を通した際、妻子の有無に関しての項目もチェックしたが、彼は独身だった。それなのに、子どもを教会へ預けようとしていた――この矛盾が、事件の真相を紐解く大きなキーポイントになるとブロントは読む。
「その子どもについて、彼はなんと言っていました?」
「それが不思議なんです。手続きのことは熱心に質問をするのですが、肝心の子どもについては何も答えてくれなくて」
「えっ?」
思わず顔を見合わせるブラントとエルゲ。
子どもを預けようとしているなら、その子の年齢や性別、性格や特徴などを話していくと思うのだが、クリストフは語らないどころか尋ねられても答えなかったという。
「何か、曰くつきの子どもということでしょうか?」
「どうだろうなぁ……ただ、もしかしたらあのぬいぐるみはその子にプレゼントするための物だったのかもしれないが」
それならば、なぜその子の存在を隠しているのか。
エルゲの言う通り、何か「事情」のある子どもで、クリストフが手続きを進めつつも踏ん切りがつかなかったという可能性もある。
――では、その子どもは今どこにいるのだろう。
ここで、また新たな疑問が生まれたのだった。
教会を出て、遺失物管理所へと戻ってきたブラント。
相変わらず誰も来ないそこは、定時での退所が日常であり、まもなくその時を迎えようとしていた。
「う~ん……」
上司である所長のシモンズたちが帰り支度をする中、ブラントはぬいぐるみをいじりながら持ち主のことを考えていた。
「まだ納得してなかったの?」
そこへ、少し呆れた様子のサンドラがやってくる。
「納得も何も、まだひとつとして分かったことはないじゃないか」
「でも、そのぬいぐるみを店で買ったのはクリストフって騎士なんでしょ?」
「……本当にそうなのかな」
「えっ?」
ブラントの言葉を受けて、サンドラは目を丸くする。
「ど、どういうこと? お店で確認したじゃない」
「名前だけなら簡単に偽れる。……問題は魔紋だ」
「! そうよ! 魔紋を照合すれば、本人かどうか分かるじゃない! 騎士なら入団する時に魔紋は提出しなければいけないし!」
「それができれば苦労はしないんだが……」
魔紋の照合をすれば、確かにぬいぐるみを買ったのが本当にクリストフなのかハッキリさせることができる。――だが、騎士団が照合をしてくれるかどうかは別問題だ。
「照合の許可が下りるか、微妙なところですね」
帰り支度を終えて会話に入ってきたエルゲの言う通り、依頼をするには動機が弱かった。魔紋照合には時間がかかるし、他の重要な案件が優先されがちであるため、仮に依頼が通ったとしても結果が出るのに待たされることとなるだろう。
ぬいぐるみの真相調査は、まさに手詰まりの状況へと追い込まれつつあった。
「何か……きっかけがあればな……」
ブラントはそう考えつつ、帰り支度を始めるのだった。
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