第12話 教会へ

 同期であるジャックからの情報をもとに、ブラントはエルゲとともに教会を訪れる。

 手入れの行き届いた庭園で元気よく遊んでいるのは、何かしらの事情で親をなくした子どもたちだった。

 しかし、そこにブラントたちのお目当ての人物はいない。


「シスターがいないな」

「教会の中でしょうか」

「よし。行ってみよう」


 シスターを捜して教会内へ入ろうとした時だった。


「む?」

「どうかしましたか?」

「いや……裏手から何か声が……」


 話し声を耳にしたブラントは、エルゲを連れて教会の裏側へと回る。

 すると、


「いい加減さぁ、支払ってくれませんかねぇ?」

「も、もう少し待ってください」


 そこにはシスターと、およそ教会と呼ばれる場所には似つかわしくない、チンピラ風の男が話し合っていた。


「何をしているんですか?」


 お互いの様子から、何やらただならぬ事態が発生していると察したブラントはすぐに声をかける。騎士団の制服に身を包んだブラントとエルゲを目の当たりにしたチンピラ風の男は「やべっ」と小声でつぶやいた後、あからさまなつくり笑顔で近づいてくる。


「な、何でもありませんよ。ちょっと仕事のことで話をしていただけです。――じゃあ、俺はこの辺で」


 足早に去っていく男。

 後ろめたいことをしていたというのが透けて見える行動だった。

 この場合、男を尋問するよりもシスターに話を聞いた方がいいだろうとブラントは判断。クリストフの件もあるし、長い話になるだろうからと、未だに体を震わせているシスターとともに教会内へと戻った。



 教会内にある応接室。


「落ち着きましたか?」

「はい……先ほどはありがとうございました」


 ひと息をついてから、シスターはブラントとエルゲに事情を説明し始めた。


「先ほどの方は……メルツァ―ド商会の人です」

「「っ!?」」


 まさに、調査の渦中にいる組織の名前が出て思わず体が強張るふたり。――だが、あの男がやっていた行為はとても商会の仕事とは思えなかった。

 さらに詳しく話を聞くと、最近はいろいろとバックアップをしてくれた近隣の店が次々と閉店し、困っているところに商会から声をかけられて助けてもらうことになったのだが、どうも無償提供だったはずの生活用品が、実は有料だったと聞かされ、その支払いを請求されているのだという。

 

 教会には国から補助金も出るのだが、最近はここに預けられる子どもの数も増え、なかなかうまく回らないという。国としてもどこまで予算を避けるのか、不透明なところがあって不安な毎日を送っているとシスターは涙ながらに語った。


「これは……かなり深刻ですね」

「あぁ……」


 思わぬ場所でこの国の現実を突きつけられるブラントとエルゲ。

 ――だが、その現状を耳にした時、ブラントの脳裏にある可能性がよぎった。


「……クリストフは、この現状を把握していたのだろうか」

「えっ?」

「いや、もしそうだとしたら、少し違った見方ができるかなと思って」

「あのぬいぐるみは、ここの子どもたちへのプレゼントだったということですか?」

「……それは違うと思う。日々の生活に必要な物が足りなかった現状を知っていたとするならば、食料とか、もっと実用的な物を送るはずだ」

「確かに……」


 有名人形師による特注のぬいぐるみ。

 高級感はあるが、この教会に暮らす子どもたちの生活レベルを見ると、必要であるとは思えない物だった。


 ならば、あのぬいぐるみはもっと別の誰かに当てて用意された物なのか。

 真相に近づくべく、ブラントはここ最近のクリストフの様子についてシスターからより詳しい話を聞くことにした。


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