第11話 同期からの情報

 グローブル分団の怪しげな動きを捉えることはできたものの、まだまだ真相にはたどり着けないと考えるブラントは、新たな動きを見せようとしていた――が、具体的なプランがあるわけではなく、翌日も朝から唸りっぱなしだった。


「悩んでいるねぇ~」


 悩むブラントのもとへ、遺失物管理所をまとめる所長のシモンズがやってくる。


「例のぬいぐるみの持ち主を捜しているんだろう?」

「いや、持ち主は意識不明のままになっているクリストフ・コーナーで間違いないと思うんです。……ただ――」

「彼がなぜマドニール平原を調査する際、ぬいぐるみを馬車へ忍ばせておいたのか――そこが引っ掛かっているんだろう?」

「っ!? その通りです……」

 

 本来であれば、ここから先は職務外の追及になる。

 遺失物管理所とは、あくまでも落とし物を管理するための部署――そこから先の調査は行えない。


 ただ、ブラントはどうしても気になっていた。

 このぬいぐるみの裏には、何かこの国を揺るがすような情報が秘められているという気がしてならなかったのだ。


 ――その時、遺失物管理所をひとりの騎士が訪ねてくる。


「こんちは~。ブラントいます?」


 軽いノリで入ってきたのは、ブラントと同期入団で現在は城の門番をしているジャックであった。


「ジャック? どうしたんだ?」

「今日はオフだからよ。久しぶりにランチでもどうかと思ってな。こっちなら、ゆっくりと飯が食えるだろ?」


 ジャックはブラントを食事に誘うため、遺失物管理所を訪れたのだ。

 昔から明るく、騎士としての実力はそれほどないが、コミュニケーション能力に長けているジャックは友人も多く、仲でもブラントのことを気にかけていた。

出世を何よりも第一に考えていたブラントにとって、能力の低いジャックを当初は見下していたが、付き合ううちに彼の飾らない人間性に触れ、今ではすっかり親友と呼べる間柄になったのである。


「同期との食事か。いいんじゃない? 詰め所へ行っているサンドラやエルゲも、帰ってきたら王都へ出るだろうし」

「で、では、ちょっと行ってきます」

「そう来なくっちゃ! ――あれ?」


 テンションの上がったジャックであったが、遺失物が並ぶ棚へ目を向けると急に真剣な眼差しとなる。そして、例のウサギのぬいぐるみを手に取った。


「お、おい! それについて何か知っているのか!?」


 鬼気迫る勢いのブラントに、ジャックは一瞬驚いて目を丸くするもすぐにいつもの調子に戻って答える。


「いやぁ、彼女が前々から欲しがっていてさ。これって、有名な人形師の作品なんだろ?」

「…………」


 当てが外れ、ブラントはガックリと肩を落とす。

 

「なあ、これってやっぱもらっていったらまずいかな?」

「ダメに決まっているだろ。それに、そのぬいぐるみはもう持ち主が分かっているからどのみち無理だ。恋人に買ってやるなら、もっときちんとした物にしろ」

「うっ……耳が痛いよ。――でも、じゃあ何でその持ち主は取りに来ないんだ?」

「……この前のブロデリック分団の事件は知っているだろう?」

「マドニール平原でモンスターに襲われたってヤツか」

「その中でひとり、クリストフという騎士が意識不明の重体となっている。お前が手にしているぬいぐるみは、そのクリストフが購入した物であることが分かっているんだ」

「ク、クリストフが!?」


 持ち主の名前を出した途端、ジャックの表情が一変する。


「知っているのか?」

「あ、ああ……あいつ、グローブル分団に配属される前は一緒に門番をやっていてな。そっちに異動となってからもちょくちょく会っていたんだ。というか、つい一週間前にも、一緒に酒を飲んだばかりだよ」

「ほ、本当か!?」


 思わぬ情報に、再びブラントはジャックへと詰め寄る。


「その時、何か変わった様子はなかったか?」

「変わった様子と言われてもなぁ――ああ、そういえば、俺と飲んだ翌日は休みで、午後から教会へ顔を出すって言っていたな」

「教会……?」

「何でも、最近はよく行くらしい。信心深いヤツじゃなかったから、珍しいなって思ったのを覚えているよ」

「……ありがとう、ジャック。有益な情報だ」


 魔女がいると噂される森を調査してから、教会へ通う機会が増えたというクリストフ・コーナー。

 その行動が示す謎を解くため、ブラントは午後から教会を訪ねてみることにした。

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