第7話 調査続行

 結局、グローブル分団の面々から有力な証言は出ず、消去法でクリストフが最有力候補となった。


「しかし、意識がないのであれば届けることはできませんね」

「そうだな……」


 王都中央通りにある店でサンドウィッチを購入し、憩いの場として愛される噴水近くのベンチに腰掛けてそれを頬張るブラントとエルゲ。

 そのうち、ブラントの視線は周囲の風景へと向けられた。


「しばらく来ない間に、随分と殺風景になったな」


 かつてはエリートとして多忙を極めていたブラント。任務のために王都を離れることも多々あり、この中央通りへ来たのも実に半年ぶりのことであった。

 ――が、その場所は以前来た時に比べ、著しく活気を失っていた。


 その原因は一目瞭然。


「店の数がかなり減っている……」


 もともと、ブラントは行きつけにしていた食堂へ入るつもりだったが、そこが知らないうちに閉店となっており、仕方なく近くにあった屋台でサンドウィッチを購入したのだった。

 改めて周囲を見渡してみると、かつていくつもの店舗が並び、賑やかだった建物は廃墟のようになっている。全体的に寂しげな雰囲気で包まれている理由はそれだった。


「しばらく王都を離れている間に何かあったのか?」

「メルツァ―ド商会の手が回っているんですよ」

「何だって?」


 メルツァ―ド商会という名には聞き覚えがあった。

 強引なやり口で急激に勢力を伸ばしており、時には非合法の手段も用いるともっぱらの噂だった。そのため、騎士団も前々から警戒をしていた。

 だが、そうした怪しげな動きも近々できなくなる――なぜなら、外交大臣が各国との貿易体制を見直し、新たな条約を結ぶことで商会の威光に大きな影が生じると考えられた。

 それともうひとつ――マドニール平原にモンスターが出たと騎士団に報告してきたのもメルツァ―ド商会であった。


「……ただの偶然か?」

「? 何がです?」

「諸々の説明はあとでする。さあ、飯を食ったら次は――っ!」


 何かを思い立ったブラントは、突然走りだした。

 周りの様子を見て、ある予感がしたからだ。


 そして――その予感は的中する。


「しまった……」


 ある店の前まで来ると、ブラントは足を止めて呆然と立ち尽くす。そこへ、ようやく追いついたエルゲが声をかける。


「急に走りだして、どうしたんですか?」

「……ここだよ」


 ブラントが指さす先にあるのは、閉店したあるお店。

 未だに掲げられている木製の看板には、かすれた文字で「人形屋」とあった。


「あっ、もしかして……」

「この王都に、人形を取り扱っている店はここしかない」


 それが潰れてしまっているということは、この人形を購入した人物を特定することができないことを意味していた。


「まあ、もっとも、確実にここで購入したという確証もあるわけではないが」

「近隣の町を当たってみますか?」

「……やめよう。途方もない時間がかかる」


 その間、また新しい任務が来るかもしれないし、そこまでして持ち主を探す必要もないだろうとブラントは考えた。

 

 結局、手がかりゼロのまま、ふたりは異質部管理所へと戻ったのだった。

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