第6話 分団長の証言
「うん? ――なんだ。珍しい客だな」
「ご無沙汰しています、グローブル分団長」
診療所の一室。
他の騎士たちのものと比べて少し広めのその部屋には、スキンヘッドで強面の偉丈夫が立っていた。
「怪我の方は?」
「あんなものは怪我のうちに入らんよ」
「では、これから職務へ?」
「そのつもりだ。……とはいえ、たった一日でも体を動かさないでいたらどうにも気持ちが悪くてな。部下の二、三人を連れてウォーミングアップをするつもりだ」
男の名はダグラス・グローブル。
グローブル分団をまとめるリーダーであり、エリート騎士であったブラントがその実力を認める数少ない騎士のひとりだ。
「怪我といえば、むしろ君の方だろう? 包帯は取れたようだが……」
グローブルの視線は、ブラントの横に並ぶエルゲへと向けられる。彼女が遺失物管理所の者であることを知っているらしく、そこからブラントが未だ元の所属に戻れていないことを察した。
「……君のことだ。まだ復帰をあきらめてはいないのだろう?」
「えっ?」
「戦闘の必要がない遺失物管理所勤めになっても、未だに愛用の剣は手放さず、今も持ち歩いている。君の騎士道は折れていないと見受けられるが?」
さすがは歴戦の騎士。
すべてお見通しだった。
「さすがです、グローブル分団長」
「まあ、おまえさんの年齢と同じくらい騎士をやっているからな。――それより、なぜわざわざ可愛らしい同僚を連れて俺のもとに?」
「実は、先日のマドニール平原での戦闘後に回収したアイテムの中に妙な物がありまして」
「妙な物?」
「ウサギのぬいぐるみなんです」
「はあ? なんだってそんな物が?」
やはり、グローブルもぬいぐるみについて何も知らないようだ。
「まさか、その持ち主を捜してここまで?」
「え、えぇ」
「はあ……仕事熱心だねぇ」
呆れているのか、それとも感心しているのか分からないため息を漏らしながら、グローブルは言う。気を取り直して、ブラントは分団の中で唯一の重傷者であるクリストフについて話を聞くことに。
「その件はさっき医者から聞いたよ。……面目ない限りだ。分団長である俺が情けないあまりに大切な部下に取り返しのつかないことをしてしまった」
握った拳を壁に叩きつけ、悔しさをあらわにするグローブル。
今回の件は彼にとっても無念なのだろう。
せめて、重傷を負って未だに意識が戻らないクリストフが元気になってくれることを祈るしか、ブラントにはできなかった。
――と、ここで忘れていたもうひとつの質問をぶつけてみることに。
「騎士団を襲ったモンスターとは、どのようなタイプでしたか?」
「? なぜそんなことを?」
「アイテム回収の際に現場へ行ったのですが……どうにも、重傷者が出るような戦場に見えなかったので」
「それは無理もないかもな。何せ、あれは奇襲だったから」
「奇襲?」
「上空からだよ。相手は大きな翼で突風を起こし、俺たちへ襲いかかってきた」
それは、他の騎士たちの証言とも一致していた。
「モンスターが最初に狙いをつけたのがクリストフだった。彼はその攻撃をなんとかかわしたものの、風で舞い上がった武器のハンマーが後頭部に直撃し、意識を失ったんだ」
「それは……不運でしたね」
エルゲはクリストフに同情していた。
結局、グローブル分団長もぬいぐるみについて何も知らず、持ち主捜しに前進は見られなかった。
これを受けて、ブラントは新たな視点から調査を開始するのだった。
※次は18:00に投稿予定!
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