第5話 聞き込み

 翌日。


 ぬいぐるみの持ち主が気になったブラントは、なんとなく興味もあるし暇だからという理由でくっついてきたエルゲとともに、マドニール平原でモンスターと交戦したグローブル分団のメンバーに聞き込みを行った。

 

 訪れた場所は騎士たちが利用する専用の診療所。

 念のため、グローブル分団のメンバーはここで一夜を過ごし、今日の午後から現場へ復帰する運びとなっていた。


「あなたも物好きですね」

「……何だか、引っかかるんだよ」

「そんなに知りたいんですか、持ち主が」

「というより、その先かな」

「先?」

「荷台の奥……まるで隠すようにして置いてあったんだ。ただのぬいぐるみとは思えなくて」


 当初、ブラントはぬいぐるみを誰かへのプレゼント用だと思っていたが、仮にそうだとしても、なぜわざわざ遠征に向かう馬車の奥へ置いたのか。それがただの偶然なのか、あるいは意図的に仕組まれたものなのか――ずっと気になっていたのだ。


 まずふたりが訪れたのは、グローブル分団でもっとも若く、今年騎士団に入ったばかりのキースという青年に声をかけた。


「あれ? あなた方は……?」

「い、遺失物管理所の者です」


 名乗るのにはまだ少し抵抗があるものの、今はそんなことを言っていられない。

 すぐに本題へと移る。


「うさぎのぬいぐるみですか? いえ、僕は持ち込んでいません」

「誰か、他に心当たりは?」

「皆目見当もつきません……荷台の管理係は僕が担当していて、王都を出る直前にも見回りましたが、まったく気づきませんでした」

「ということは、遠征中に誰かが持ち込んだというわけですね」


 キースの証言通りならば、エルゲの推測が正しい。

 ともかく、キースは持ち込んでいないと断言したので、ブラントたちは他の騎士たちへ聞き込みをしていくことに。

 ――だが、


「ぬいぐるみ? 知らないなぁ」

「何だってそんな物が紛れ込んでいたんだ?」

「あぁ? 戦闘の役に立たない物を入れても意味がないだろ?」


 結局、他の騎士たちに同じような質問をして回ったが、返ってくる答えはすべて同じ。

 誰もあのぬいぐるみの存在を知らなかったのだ。


「こうなると、現在意識不明となっているクリストフさんという方が持ち込んだ説が有力になってきますね」

「…………」

「? ブラントさん?」

「いや、みんな元気だなぁと思って」

「それはいいことなのでは? 何が気になるんです?」

「……やっぱり、どうしてそのクリストフという騎士だけがそこまで重傷を負ったのかが気になって」


 これまで聞き込みをして回った騎士たちは、誰もがかすり傷程度の軽傷だった。

 さらに不可解なのが、誰もモンスターの姿を目撃していないという点。ひとりの騎士が重傷を負うほどの攻撃を食らっているにもかかわらず、その攻撃をしたモンスターの影すら見た者がいなかったのだ。


 ただ、ひとつ共通している項目がある。

 それは、モンスターを最初に発見したグローブル分団長が、「気をつけろ!」と叫んだ次の瞬間、突風が巻き起こったという点だった。この風により、舞い上がった石などで傷を負う者が続出したのである。


 分かっていることはこれだけで、外見の情報やどこへ逃げたのかなどの詳細な情報は当事者である分団メンバーの誰も把握していなかった。


 それが、猛烈な違和感となってブラントの胸中に渦巻く。


「今回のモンスター襲撃事件……何か、裏がある気がしてならないんだ」

「まさか、彼らが嘘の証言をしていると?」

「何とも言えないが……次の人からはもう少し有益な情報が聞きだせるはずだ」


 そう語ったブラントの視線の先にいたのは――分団長である、ダグラス・グローブルであった。




次回は明日の正午に投稿予定!

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