第3話 初めてのお仕事
マドニール平原。
リンドレー王国最南端に位置するそこは、ひと言でたとえると「何もない場所」だった。
先が見えないほど広大な土地。
近くに森が見えるものの、それ以外には本当に何もなく、噂通りの場所だった。
「こんな場所にモンスターが出たんですか? というか、なぜグローブル分団はこんなところに?」
「メルツァード商会から、ここでモンスターが暴れていると通報あったらしい。何もない場所ではあるが、交易路としてよく利用されているからね。トラブルの種は早めに摘んでおこうと判断され、派遣されたようだ」
そこで、彼らは返り討ちに遭ったのだ。
しばらく平原を歩いていると、サンドラがいくつかの馬車の残骸を発見する。
「所長! あそこが戦闘現場みたいです!」
「そのようだな。――よし。とりあえずこの辺り一帯を調べてみるか」
「調べるって……」
「先ほど伝えた通り、使えそうな武器やその破片を回収します。どちらも再利用しますので」
エルゲの言葉で、ブラントは自分が改めて遺失物管理所の所属になったのだと実感する。
それから、四人は散り散りになって武器の回収を開始した。
「こっちの盾はまだ使えそうね」
「こちらの剣は素材行きのようです」
遺失物管理所では先輩になるサンドラとエルゲは手際よく落ちている武器や防具を拾っては振り分けていく。
これが初仕事であるブラントには、どの武器や防具が使えるのか――その判断がつきづらかった。
「あっ、ブラントは見つけた物をこっちへ持ってきて。最初のうちは私が判断するから」
「あ、あぁ……」
世話好きのサンドラは、茫然と立ち尽くしているブラントにそう声をかけた。
ブラントは、これまでの仕事とのギャップにまだ衝撃を受けている。命を懸けて国のために戦い続けた騎士が、今ではその後始末役に回っている。
「…………」
思わず、動きづらくなった右手を左手で押さえる。
この腕がまともに動き続けていたら、今頃は大臣の護衛任務のため動きだしていたはずなのに、と。
「? どうかした?」
「……いや、何でもない。俺は荷台の中を探してくる」
「分かった。お願いね」
険しい表情になっていたブラントを心配したサンドラが声をかける。だが、ブラントは弱った自分を他人に見られたくないと隠れるように屋根付きの荷台へと足を運ぶ。
「この中はまだ使えそうな物が多いな」
荷台の中は手つかずの剣や斧といった武器の数々が放置されていた。これなら、またすぐに別の騎士たちに使ってもらえるだろう。
早速運びだそうと、荷台の奥へ足を踏み入れた時、ブラントはある違和感を覚える。
「うん? 今……」
何やら、この場に相応しくない物が見えたような気がして足元をよく見ていると、ついにそれを発見する。
「これは……」
ブラントが手にしたのは――可愛らしいウサギのぬいぐるみだった。
「な、なんでこんな物が騎士団の武器を積んだ馬車の中に……?」
辺りに散乱しているのは、騎士であるブラントも見慣れた戦う道具ばかり。その中になぜぬいぐるみが紛れ込んでいたのか。皆目見当もつかなかった。
しばらくして、ウサギのぬいぐるみを見つめていたブラントのもとへ、手伝いに来たエルゲが合流する。
「お手伝いに来ました――って、どうしたんですか、そのぬいぐるみ」
「ここで見つけたんだよ」
「えっ? ここで?」
あまり感情の変化を見せず、表情も大して変わらないエルゲだが、さすがにあまりにもこの現場に似つかわしくないウサギのぬいぐるみを見て困惑しているようだった。
結局、このウサギのぬいぐるみは遺失物管理所で預かることになり、分団メンバーの誰がこれを持ち込んだのか、ひとりずつ事情を聞いて回ることとなった。
こうして、ブラントの異質部管理所における初仕事が終わったのである。
次は18:00に投稿予定!
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