第22話 賢者の塔に集いしバカ
「ふむ、賢者の塔でござるか」
俺の提案に、ミストは難色を示した。
リズもまた、眉間に深い皺を寄せている。
ルカは熟睡中だ。アホだ。
今この瞬間、多数決をしたら、絶対に負けるだろう。
だが、譲らない。譲れない。
サクッと五億ダラズを集めるために、このクエストをクリアすることが不可欠なのだ。
……さて、どうやって説得しようか。
そもそも、どうして二人が、賢者の塔へ行くことを嫌がっているのか。
賢者の塔は、戦闘力さえあれば攻略できるタイプの場所ではないのだ。
【敵さえ倒せばオールオッケー】であれば、二人も
こと戦闘においては、かなり強いパーティになったからな。我ながら謎。
しかし、賢者の塔で求められるのは、膨大な知識と、
そして、俺たちのパーティーは、メンバー全員がアホだ。
先日、試しに子供向けの教本をいくつか解かせてみたが、半分も正解出来ていなかった。
そして、もう一人のパーティーメンバーである俺は、この世界の常識を欠片も知らない中卒ニート。
「止めといた方が良いんじゃない?」
声を発したのはリズカスだった。
「いや、行く! 諦めきれねぇ!」
「拙者も、行きたいでござる」
ミストの同意に驚くリズ。彼女は続ける。
「お金はあって困るものではないでござるからな。拙者やコウジ殿、ルカ殿のような、金以外に頼りのない人間にとっては、命そのものでござるよ」
ミストが話を締めた瞬間、俺は叫んだ。
「よし、じゃあ多数決しよう! すぐやろう! 今やろう!」
やはり多数決は正義。数の暴力、最高!
◇
つー訳で、賢者の塔に来ました。
本来であれば半年以上はかかるはずの
どうやって、ショートカットしたのか。
まぁ、それは
まずは言わせてくれ。
「またお前らかよ! いい加減にしろ!」
「こちらの台詞だ!」
眼前のブッチャが
再度、俺は
「ナノマイト金貨は俺たちのモノだ! 一枚たりとも渡さねぇぞ!」
「……くくくっ、これを見ても、そんな大口が叩けるか?」
気色の悪い笑みを浮かべて、ブッチャは言う。
「コーカッツ! 見せてやれ!」
「仰せの通りに!」
応じたコーカッツが、ローブの内ポケットから、ゲームのコントローラーめいたものを取り出した。
彼が、慣れた手つきでコントローラーを操作した直後、空の彼方より、それは飛来し、地上に降り立った。
厳めしい両翼で空を裂き、巨躯で地を
ドラゴン?
にしては、やや機械的というか、人工的な色合いが強い。
「……あ、あれって、ワイバーン!?」
「わ、ワイバーン? 何じゃそりゃ」
問いにはミストが答えてくれた。
「ヘルマン・デイモン自らが、最高傑作と呼んだ、マジカル・ドールの一つでござる! ドラゴンをモデルにしているでござる!」
はえー。すげーな。ジブリのファンタジーに出てくる飛行船みたいだ。
「……ん? 何でそれを、ブッチャとコーカッツが持ってるんだ?」
そのタネは、当人が明かしてくれた。
「ルカ殿のご自宅にお邪魔した際、屋根裏の倉庫へ忍び込み、拝借したのですよ!」
「もはや単なる泥棒じゃねぇか!」
隣のルカが舌打ちする。
「気付いていれば、斬っていたのに」
「気付かれなくて良かったな! マジで!」
最悪の場合、ヘルマン・デイモンの頭蓋骨と一緒に、ブッチャとコーカッツの頭蓋骨も並べられていたかもしれない。いくらコソ泥といえど、それは流石に可哀想だ。
幸運なブッチャが、話の続きを引き取る。
「そして、設計図通りに僕が作った!
「手先が器用ってだけで、どうこう出来るレベルじゃないだろ!」
お前ら、もう盗賊になれよ。多分、そこそこ楽しく生きれると思うぞ。
そんな、盗賊適正フルスコアのタツノコンビは、下品な笑い声を上げながら、ワイバーンの身体にしがみついた。
「ぐはははははは! 我々が億万長者になる姿を、指をくわえて見ているがいい!」
「それでは皆様、ごきげんよう!」
直後。ワイバーンが飛翔。遥か天高くへ消えていった。
……ワイバーンを売ったら、それだけで億万長者になれそうなのになぁ。
嘆息して、リズカスに訊く。
「リズ。この塔、【パム】で根元から折れないか?」
「無理。この塔、魔法が効かないから」
そりゃそうか。魔法が使えたら、知力で競えないもんな。
となると、選択肢は一つ。
「ミスト、あいつ呼ぼうぜ」
◇
我々に追い付かれた瞬間、タツノコンビはあんぐりと口を開けた。
通常時を上回るアホ面だった。
無理もない。ついさっきまで死ぬほど見下していた連中が、嶽神龍リグラに乗って現れたのだから。
賢者の塔まで来るときも、リグラに乗りました。めっさ速かったです。
「ひゃひゃひゃ! ごきげんよう! カスども!」
挨拶してやったのに、返事すらない。ブッチャはコーカッツに命令した。
「コーカッツ! スピードを上げろ!」
「これ以上は無理です! 我々が落ちます!」
一方、俺達も余裕ではない。
後方から、リズカスの悲鳴が聞こえてきた。
「ルカ! 起きなさい! ちゃんと掴まってないと、落ちて死ぬわよ!」
「むにゃむにゃ……また3連単外した」
夢の中でくらい当ててくれ。
溜め息を吐きつつ、虫みたくリグラの背を移動。リズとルカに近づく。
「リズ! 俺に任せろ!」
リズを
「確率変動大当たりぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
「なぬっ!」
よし、起きた。これで大丈夫だ。
◇
『よくぞ、ここまで上り詰めた』
我々を迎えたのは、人間ではなかった。
屋上の中央に置かれた、スピーカーめいた小箱から、やたら厳かな声が響く。
『そう警戒するな。我は塔そのもの。自我を持った魔法だ』
自我を持った魔法。物語のクライマックスっぽいな。
益体もないことを考えていると、寝ぼけ眼のルカが、瞬く間に刀を抜き、小箱へ刀身を叩きつけた。
「うるさいぞ。黙れ箱」
『無駄だ。どんな方法であろうと、我を傷つけることは出来』
「リグラ。あの小うるさい箱を噛み砕いてほしいでござる」
続けて、ミストが指示すると、リグラは器用に箱を口へ入れ、何度も
しばらくすると、リグラは
傷一つない小箱は言う。
『神の名を冠する竜とて、我は壊せない。君たちの
「いくわよ! アルティメットファイヤーシュート!」
リズに負けじと、俺も参戦。
「俺のターンだ! ハイパーつよつよニートーキック!」
『傷つかないからといって、執拗に攻撃するな。我の心が痛む』
心があるのか。じゃあ止めよう。ごめんね。
箱が話を仕切り直す。
『ここまで、幾年もの歳月を費やし、幾多の難問を解き明かしてきたことを、まずは称えよう』
ごめんなさい。秒で来ました。難問は一つも解いてません。
多分、真正面から塔を登ると、それくらいの期間を要するのだろう。
『前置きが長くなってしまったな。そろそろ始めよう。――最後の知恵比べだ』
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