第20話 詐欺師と泥棒とバカ



「ポンジスキィィィィィィィィムッ!」



 絶叫に、室内の全員が呆然ぼうぜんとする中、リズは呟く。


「ぽんじすきーむ? 何それ? 美味しそう」

「美味しくねぇよ! むしろ逆だ!」


 おめでたい姫に、現実を教えてやる。


「ポンジスキームは、詐欺さぎ常套手段じょうとうしゅだんだよ!」


 さすがのアホ二人も、驚愕をあらわとする。


「さ、詐欺!?」

「拙者たちを、騙そうとしたでござるか!?」


 コーカッツが声を荒げた。


「ひ、人聞きの悪いこと言わないでください! 詐欺ではありません! 立派な投資商品です!」

「もう諦めろ! お前らの手口はお見通しなんだよ!」


 同程度の声量で返し、俺は続けた。


「まず、馬鹿どもから、甘いうたい文句で金を集める」

 

 リズとミストの馬鹿二人が頷く。


「その後、すぐに【手数料】という名目で、集めた金の大部分を、自分たちの懐へ入れる。この時点で、自分たちの取り分は確保している」


 要するに、投資で失敗したとしても、自分たちは損をしない構造になっているのだ。

【手数料】という単語を聞いた途端、ブッチャとコーカッツの表情が強張ったのが、確たる証拠だ。


「そして、すずめの涙ほどになった残りの資金を、超ギャンブル的投機へぶち込む。奇跡的に暴騰したら、配当を渡す。暴落したら、高飛びして雲隠れ。これがポンジスキームだ」


 細かい部分は間違ってるかもしれないから、各々で調べろ。

 中卒ニートの言うことを真に受けるなよ。


「そ、そんなつもりはありません!」


 言ったコーカッツの目は泳ぎまくっている。

 ようやく話を飲み込めたのか、リズカスが首を傾げた。


「あれ? さっき、こいつ『投資したお金が減ることはない』って言わなかった? 嘘を言ったってこと? 虚偽の説明をしたってことは、刑法に引っかかるんじゃない?」


 刑法があるのか。凄いね、異世界。


「いや、嘘は言っていない。減っているのは、金そのものではなく、投資対象の価値だからな」

「は、はぁ!? そんな屁理屈、通用するわけ無いでしょ!」

 

 これが、通用しちゃうんだよなぁ……。

 流石に現代日本ではアウトだと思うけど。

 多分、まだ、あの手の発言を規制する法律が未完成なのだろう。

 ミストも声を上げる。


「で、でも、さっきコーカッツは『元本保証』って言ったでござる! 嘘、吐いてるでござる!」

「『元本から手数料を抜いたら、一〇〇万ダラズが一万ダラズになっちゃいました~』って言われるかもしれないぞ?」

「そんなの、ズルでござる!」

「ズルではないんだよなぁー。残念ながら」


 手数料に関する説明を、コーカッツはしていないからな。

 歯噛みするコーカッツに、俺は吐き捨てる。


「ていうか、元本保証で年利一〇パーセント? そんな投資、あり得ねぇから! お前はウォーレン・バフェットより上手く投資できるってのか!? 馬鹿言うな!」

「ウォ、バフェット? 誰ですかそれは?」

「ググれカス!」

 

 常套句を吐き捨てた俺の横から、ルカが歩み出てきた。


「私の金を、全額返金しろ」


 お前の金じゃないけどな。

 恐喝きょうかつめいた要求に、鼻白むコーカッツ。


「い、今は無理です。手元にあるのは、我々の旅費だけでして」

「そんなことは知らん。契約書を見る限り、今この場でも解約と返金は可能ということになっている」

 

 うなった末、コーカッツとブッチャは、手持ちの金品を差し出した。


「何が旅費だけだよ! たっぷり持ってるじゃねぇか! ふざけんな!」


 俺の言葉など、ブッチャとコーカッツは聞いていない。

 互いを罵ることに精を出している。


「コーカッツ! また貴様のせいで一文無しだぞ! 責任を取れ!」

「う、上手くいっている時は何も言わなかった癖に、一度ミスした途端に責めるんですか!? 本当に最低ですね!」

 

 そんな二人の眼前で、ルカが刀を振りかざして一言。


「投資は自分の金でやれ」


 こいつ、マジか。思わず、彼女の顔を覗き込む。


「コウジ? どうした? 腹でも痛めたか?」

「……いや、何でもない。ビックリしただけ」


 その台詞、よく真顔で言えるね。一周回って、尊敬するわ。



 ブッチャとコーカッツを追い払ってから、数十分後。

 ソファで寛いでいると、リズカスが何気なく呟いた。


「それにしても、アンタ、よく気付いたわね」

「腐っても、総資産一〇〇億の家庭で育った男だからな! この手の情報には長けてるんだよ!」


 逆に、お前は王族なのに、金融リテラシー低すぎるぞ。

 俺が持ってる知識なんか、マジで必要最低限だからな? 

 俺を見習え。親の資産が自分の生命線だという自覚はあったから、資産を守るための勉強はちゃんとしてきたのだ。

 全て無駄になりかけてるけどな!(泣)

 ……一方で、思う。

 もしや、この世界、ポンジスキームが広く知れ渡っていないのか? 

 今ここでポンジスキームをやれば、大儲けできるのでは?

 いや、流石に駄目だ! 

 本当に、詐欺をやらないと死んでしまうという状況になったら、やろう。遠慮なく。

 こっそり決意したタイミングで、ルカが立ち上がった。


「助けてもらった御礼に、良い所へ連れて行ってやる。付いてこい」


 どうやら、拒否権は無い模様だ。


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