第19話 運命の再会(泣)

 ルカに付けられた傷は、ミストが持っている、大型動物用のキズ薬で処置した。

 北海道で【牧場王】と呼ばれている大地主が使っていた、牛用の軟膏なんこうっぽい見た目だった。

 異様な粘り気に辟易へきえきしていると、ルカが質問してきた。


「そういえば、三人とも、全く傷や汚れが無いな。モンスターと遭遇しなかったのか?」


 よくぞ聞いてくれた! 

 俺は自慢げに、スーパーウルトラデラックス作戦の詳細を語る。

 聞き終えた直後、ルカは間髪入れず返した。


「マジカル・ドールに遭遇した場合は、どう乗り切るつもりだったんだ?」

「ま、マジカル・ドール?」

「数か月前まで、コントロールを失った何百体ものマジカルドールが、この周囲を徘徊はいかいしていたんだ」


 何そのディストピア。

 身震いしている間もルカは続ける。


「私が出掛けるたびに斬り続けて、ようやく先日、全てのマジカル・ドールを消すことに成功したばかりだ」


 一応、聞いてみる。


「……ちなみになんだけど、マジカル・ドールって、ベノムノドンの声で逃げる?」

「逃げる訳ないだろう。人形だぞ? 毒など恐れないさ」


 瞬間、リズカスが俺の胸倉むなぐらつかんだ。


「ちょっとぉ! この人がマジカルドールを止めてなかったら、アタシたち、死んでたんじゃない!?」

「か、かもしれないな! 止まってて良かったな!」

「ちゃんと調べてから来なさいよ! 馬鹿!」


 荒ぶるリズカスをなだめていると、何者かが扉をノックした。


「ルカ様! 私です! 斬らないでくださいね! お願いしますよ!」

 

 ……何か、聞き覚えのあるハイトーンボイスだな。

 立ち上がるルカ。


「あいつ、また来たのか」


 嘆息交じりに、彼女が扉を開く。

 営業スマイルを浮かべた、壮年男性が踏み込んできた。


「ルカ様! ご無沙汰しております! 今月の配当金をお渡しに参り……」


 男性の表情が凍った。

 俺の思考整理が終わる前に、リズカスは叫んだ。


「コーカッツ! ブッチャもいる!」

 

 ずるがしコーカッツと、小太りブッチャ。

 タツノコンビ、再登場である。

 コーカッツを盾にしながら、ブッチャは反発した。


「ま、また君か!」

「こっちの台詞よ!」


 すかさず、リズカスに加勢。


「お前ら、また性懲りもなく、超上級クエストでの一攫千金を目論んだんだろ! 浅はかなんだよ!」

「我々も同類でござる」


 めぐみんのパチモンは黙ってる。

 味方の裏切りにいきどおっていると、コーカッツが反駁はんばくしてきた。


「貴様らのような、下賤げせんな冒険者と一緒にするな! 我々は今日、ここへ【ビジネス】をしに来たのだ!」

「……ビジネスの話? ルカに?」


 どういうことかと、ルカに眼差しで尋ねる。


「……コウジ、ちょっと、こっちへ来い」


 ルカと一緒に、部屋の隅へ移動。

 また頭蓋骨とか見せられるのかしら。嫌だなぁ……。

 と思っていたら、ルカが耳元に口を寄せてきた。

 吐息が、耳の縁を撫でて、少々こそばゆい。

 同時、気付く。どうやら俺は、耳が性感帯みたいだ。股間にグッときたぜ。

 ヘルマン・デイモンの頭蓋骨を眺めて、心を静める俺に、ルカが言う。


「実を言うと、私は彼らに『自分はヘルマン・デイモンの隠し子だ』と嘘を吐いているのだ」

「……何で、そんな嘘を?」

「『家主を殺して、家に住み着いている、赤の他人です』とは言えないだろう」


 ……うん、そうだね。

 改めて考えると、今まで出会った異世界人の中で、ダントツのヤバい奴だね。


「だとしても、お前にビジネスの話なんか、持ち込むか?」

「何度も【父親の資産を一部、我々に投資しろ】と騒いで鬱陶しかったから、黙らせるために、遺産を一億ダラズほどぶち込んだ」

「……大富豪を殺して、その遺産を勝手に投資してるってことか?」

「まぁ、平たく言うと、そんな感じだな」


 俺たちの内緒話に、いきなり馬鹿が口を挟んだ。


「今、『投資』と仰られましたかな!? であれば、このコーカッツに」

 

そこまで言った所で、ようやくコーカッツは、自分の首元に刀の切っ先が付きつけられていると気づいた。

ルカは、鷹のような目でアホをにらむ。


「不用意に近づくな。斬るぞ」

「す、すいません!」


 即座に深々と頭を下げて、言い訳を並べるコーカッツ。


「わ、私はただ、【我々に投資すれば、楽して金儲けできますぞ!】と言いたいだけなのです!」

「バーカ! 【楽して金儲け】なんて、胡散臭い誘い文句に乗るかよ!」


 俺の発言を受けて、コーカッツは不敵に笑い、横を指さす。


「お仲間は、そうではないみたいですぞ?」


 指した先を見やる。

 リズとミストが、ブッチャから受け取った資料を、正座で熟読じゅくどくしていた。


「おい! 何やってんだよ!」

「し、しまった! 【楽して金儲け】という単語に釣られて、反射で動いちゃったわ!」

「拙者も、右に同じでござる!」


 馬鹿どもめ!


「……お、俺も、ちょっとだけ聞いてみようかな! 後学のために!」


 少ない労力で、最大限の利益を出すという発想自体は、悪いことじゃないからな! 

 リズカスの隣で胡坐あぐらをかく。

 ブッチャが差し出した資料はジェスチャーで断った。

 プレゼン資料なんか、いくらでも誤魔化せる。

 見るべきは、プレゼンター当人の一挙手一投足だ。

 という訳で、俺たち三人の眼前に立ったコーカッツを凝視。

 お手並み拝見だ。


「今回ご紹介するのは、史上最高の投資商品です! といっても、高度な知識は不要! 投資先は、国家の中枢であらゆる投資に携わってきた我々が、安心安全な投資先を選定させて頂きます!」


【ジャ〇ネットたかた】の社長みたいな喋り方だな。


「この商品の凄いところは、何といっても元本保証! つまり、投資したお金が減ることは、絶対にありません!」


 いきなり危険信号が出やがった。

 この手の断言は、現代日本だと、何らかの法律に抵触した気がする。


「更に、この投資の配当には、毎月分配型を採用しています。つまり、毎月、必ず一定額の配当をお支払いするのです!」


 うわぁ……、これはもう、ほぼアウト確定じゃね?


「その金額は、なんと投資額の一〇パーセント!」


 ……年利一〇%と言いたいのか。


「勿論、元本が回収できた後も、毎月、一〇%の配当が支払われ続けます! つまり、半永久的にお金が手元に入ってくるのです!」


 瞬間、俺は叫んだ。


「ポンジスキィィィィィィィィムッ!」

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