第18話 運命の再会
超上級クエスト当日。
「ほっほぉ~! これは便利でござるな~!」
俺の十八番である、ベノムノドンの鳴き真似を目の当たりにして、ミストは感心の息を吐いた。
無理もない。出発からここまで、一度たりとも戦闘していないのだから。
ほとんどハイキングだ。
嬉しそうなミストに、隣を歩くリズが尋ねる。
「今更だけど、ベノムノドンの声なんか聞いたら、アンタが使役する獣、逃げちゃうんじゃない?」
「そこは、ベノムノドンの毒にも臆さない獣たちで、何とかするでござるよ。拙者、一応プロの獣士でござるからな!」
無い胸を張るミスト。
ただ、彼女の力量を発揮するタイミングは、しばらく無さそうだ。
ここは超上級クエストの舞台。普段は屈強なモンスターが歩き回っており、手練れの冒険者でなければ、立ち入ることさえ難しい。
しかし、今日は違う。屈強なモンスターどころか、小動物も見当たらない。
じゃあ、ミストは役立たずじゃないか。
そう心配した連中に告ぐ。結論を急ぐな。
かつて俺とリズカスを拘束し、
心配するな。抜かりはない。
心配していない連中は、くたばりなさい。
万全の状態で、俺たち三人は、ヘルマン・デイモンが潜伏しているとされる古家へ辿り着いた。
◇
なぜ、居場所が分かっているのに、誰もヘルマン・デイモンを捕まえようとしないのか。
それは、彼一人の存在が、国家間のパワーバランスを崩しかねないからだ。
現代の地球に置き換えると、万単位の
まぁ、俺には関係ねぇけどな!
この世界のパワーバランスがどうなろうと、知ったこっちゃねぇよ! 好きなだけ戦争しやがれ!
ハイテンションで、
「ヘルマン・デイモンくーん! あーそびーましょー!」
誘い方、合ってる? マジで友達と遊んだこと無いから、正解が分からんぞ。
その時、扉が開いた。正解を引き当てた模様。
ただ、住人の人相を確認することは出来なかった。それどころではなかった。
扉が開いた瞬間、
驚いたり、怯えたりする暇もなかった。
家主は厳然と言う。
「斬られたくなければ、地に伏せて降伏の姿勢を取れ」
……声、高いな。女か?
戸惑いながら、土下座めいた体勢を取った。
後方から、リズとミストの声が聞こえる。
「そいつ、みじん切りにしていいから、アタシのことは助けてください!」
「せ、拙者のことも見逃してほしいでござる! 代わりに、その男は、死ぬまで奴隷として使ってくださいでござる!」
ふざけんな! 助けろクズども!
舌打ちする俺に、
「顔を上げろ」
ゆっくりと、ご
美少女だった。
通った鼻筋や、吊り上がった眉尻のせいか、やや威圧的な印象だ。
リズカスやめぐパチと比べて、日本人っぽい顔立ち。
だからこそ、さらさらとした銀の長髪が際立つ。
服装は、いわゆる着流しに近い。紺色の着物めいたものを羽織っている。この世界にも、こういう衣類が存在したとは知らなかった。
一言で言うと、リゼロのクルシュ様っぽい。和装クルシュ様だな。
……ん? こいつ、ひょっとして。
「……ルカ?」
突然の呼びかけに、女武士は神妙な面持ちで返す。
「……もしや、コウジか?」
結論を言おう。
異世界で、中学時代の同級生と再会した。
◇
「なるほど。ルカ殿は、コウジ殿と同じ、転生者でござるか」
無事に屋内へ入ることを許された俺たちは、居間めいた場所のソファに腰かけ、ルカと談笑に興じている。
無論、話題は尽きない。
「ていうか、お前、随分と異世界に馴染んでるっぽいな。こっちに来てから、長いのか?」
「あぁ、そろそろ三年だ」
話していると、自然に記憶が蘇る。
「そういや、卒業式の日、お前は来てなかったな」
「当日の朝、トラックに轢かれてな。気付いたら戦場に立っていたよ。制服姿で」
何その光景。カッコよすぎるだろ。
ルカが微笑んで続けた。
「あの時、マジカル・ドールと初めて戦ったが、なかなか面白かったぞ。攻撃行動の中にある法則性を見つけるのが楽しかった」
「……マジカル・ドールで思い出したけど、ヘルマン・デイモンは、いないのか?」
話題の方向転換が下手なのは仕方ない。ニートだから。
「いるぞ。あそこだ」
そう言って、ルカが指を差したのは、壁際の台座に置かれた花瓶。
菊っぽい形状の花が活けられており…………。
…………………………………………………いや、違う。あれ、花瓶じゃない。
逆さまの頭蓋骨だ。
……そ、そういうデザインの花瓶かな? だよね? そうであれ。頼むから。
祈りながら近づき、触ってみる。
望みは無為に帰した。触った感触が、モノホンの骨だった。
こわごわルカに尋ねる。
「……どういう意味?」
「私が斬った」
「何やっとんじゃボケェェェェ!」
叫ばずにはいられなかった。
頬を膨らませて、ルカは反論する。
「泊めてもらおうと、この家を訪れた際、扉を開けるや否や『女だぁぁぁぁ!』と叫びながら襲ってきたので、叩き斬ったのだ。つまり、正当防衛だ」
「いや、それは……」
間違いなく過剰防衛なんだけど……。コメントしづらいな……。
言葉に詰まった僕の代わりに、ミストが聞く。
「だとしても、どうして花瓶代わりにしてるでござるか?」
「頭蓋骨が置いてあるだけだと、少し怖いだろう? だから花を活けて、彩りを足したのだ」
その程度で払拭できるかよ! 頭蓋骨の怖さ舐めんな!
ドン引きする我々に、何故かルカはサムズアップする。
「安心しろ。奴が蓄えた知見は全て、あのマジカル・ドールが記録しているらしい」
彼女が指し示したのは、部屋の隅に腰かけたマジカル・ドール。
安心材料になってねぇよ……。お前の存在そのものが不安材料なんだよ……。
ていうか、マジカル・ドールを持って帰ったとて、クエスト成功とみなしてもらえるのか? 報奨金、貰えるのか?
首を
予想は外れた。彼女は喜色満面で、こう言ったのだ。
「同級生男子との、別世界での再会! 何か、ロマンチック! ワクワクする!」
お前、頭蓋骨の話、聞いてなかっただろ。聞いていたら、そんな発想になる訳がない。
人の話を聞かない女が問い重ねる。
「二人は、元々いた世界では、どんな関係だったの!?」
問いに、ルカと顔を見合わせた。
「全く意識していなかったと言えば、嘘になるかな」
目を輝かせるリズ。俺は続ける。
「『いくら積んだら、おっぱい揉ませてくれるかなぁ』と思って、ずーっと胸を見てた。こいつ、発育が早かったから」
刹那、ルカが刀を抜き、その切っ先を二ミリくらい、俺の頬に刺した。
ある意味、鋭いツッコミだった。
「ふぎゃぁぁぁぁぁぁ!」
頬を抑えて、地を転がり、
「しょ、傷害罪の現行犯だぁぁぁぁ! 誰か捕まえてくれぇぇぇ!」
「残念だったな。この世界に傷害罪は無い」
「拾得物横領罪はあるのに!?」
どういう基準で法整備したんだよ。責任者を連れてこい。ボコボコにしてやる。
「いや、あるでござるよ。傷害罪」
ミストの補足に驚くルカ。
「ふむ、初耳だな」
「三年、この世界で生きてるんだろ!? 目ぼしい法律くらい把握しとけ!
令和に暴力系ヒロインは流行らないぜ?
もし流行ったら、俺が死ぬぜ?
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