第17話 超上級クエストは少雨決行です
下劣な思考を巡らせている間に、ミストの解説が再開。
「そもそも、【パム】というのは、かつて大陸を蹂躙した巨大怪獣の名前でござる。そいつも、使い魔でござるよ」
巨大怪獣。
そう言われると、どうしても五億円……じゃなくてリグラを思い出してしまう。
「怪獣ってことは、ドラゴンみたいなやつか?」
「いや、全然違うでござる」
仰々しい口調でミストが言う。
「山よりも大きく、
「ん? うーん……。もうちょっと、分かりやすく言えないか?」
「要するに、でっけーウニでござる」
めっちゃ分かりやすくなった。
ていうか、この世界、ウニいるんだ。
ウニ丼とか、食べれるのかな。生食の文化はあるのかな。
誰にともなく呟く。
「ウニってことは、あんまり速くはないのか?」
今度はリズが答えた。
「そんなことないわよ。全身のトゲを脚みたく使って、時速八〇キロで移動していたらしいわ」
「キモっ!」
なるほど、アホほどデカい
また、リズもミストも知っているということは、【パム】という怪獣の出現が、国家間で情報共有すべきレベルの一大事だったということも推測できる。
推測できたとて、さほど役には立たないけれど。
おっと、話を戻そう。
えーっと? さっき、ミストは何て言ってたんだっけ?
『俺が、禁忌魔法などの、この世界の常識に疎い理由』だったっけ?
勿論、転生して日が浅いからだ。
と言った所で伝わるのか?
そもそも、ミストは【転生】を知っているのか?
そこから説明しないといけないのか?
……異世界転生って、こんなに面倒くさかったっけ?
いつも、事あるごとに、良きタイミングでガイド役の説明が入ってたと思うんだけど。
オートとマニュアルの切り替え、間違えてない?
フルオートで説明してもらわないと困るんだけど。
どれだけ念じても、自動説明は入らないため、しぶしぶ口頭で説明。
「ミスト。【転生者】って分かるか? 全く別の世界から、この世界にやって来た連中。みたいな意味なんだけど」
「勿論、常識でござる」
良かった~。これを説明するの、地味に難しそうだからな。
「なるほど。コウジ殿は、転生者だったでござるか。であれば、使い魔さえ知らなかったとしても、仕方ないでござるな」
言いながら、頭の先から足の先まで、俺をじっくり観察するミスト。
「転生者の割には、見た目も能力も、大したことないでござるな」
「ほっとけ!」
大したことないのは、俺のせいじゃねぇ。
スキルをくれなかったクソ女神のせいだ。
「チキショー! 無双してる転生者ども、うぜー! 元の世界では、俺より貧乏人だったクセによー!」
本音を
「アンタみたいなクズが、とんでもない能力とか持たなくて、本当に良かったわ。何しでかすかわかんないし」
「くそったれ! 異世界転生は、やらかすことこそ
健気な主人公が、痛めつけられるだけの鬱展開なんか、読者は喜ばないぜ?
時代が求めているのは、ストレスフリーな物語だ。多分。
つまり、もっと俺を幸せにしろ。一刻も早く。
無垢なる願いを無視して、リズがミストに言う。
「それにしても、ミストは転生者について詳しいわね」
「拙者は、様々な土地の獣とコミュニケーションを取るでござる。さすらば、自然と情報通になっていくでござるよ。特別、転生者だけに詳しい訳ではないでござる」
「……ぶっちゃけ、コウジよりミストの方が、転生者っぽいわね」
看過できない発言だった。
「そりゃそうだよ! 俺、何のスキルも無いからな! ただ物真似が上手いだけの、モンゴロイドだからな!」
にしては、頑張ってる方だと思うよ。
なのに、ミストは俺を褒めてくれない。
「大抵の、賢くてお金持を持っていた転生者は、たとえ能力を貰えなかったとしても、知恵と勇気で人生を切り拓くでござるよ」
「つまり、こういう運だけで生きてきたゴミ野郎が転生すると詰むっていうことね」
「お前ら、言い過ぎだろ!」
だが、これこそ現実。
金を持っていないニートに、価値など無いのだ! ゴミなのだ!
だから! 金持ちニートに、俺はなる!
現代日本に、蘇ってやる!
「――時に。そろそろ、次の超上級クエストに挑もうと思ってるのだが」
◇
俺の提案を受けて、リズとミストは深く嘆息する。
「アンタ、今度こそ死ぬわよ?」
「百歩譲って、行くにしても、もう前回みたいな真似はしないでほしいでござる。心臓に悪いでござるよ」
二人とも、冷たい反応だなぁ。
仕方ないだろ? だって、それをやらないと帰れないんだから。
俺は帰るためだったら何でもするぜ。割とマジで。
「つー訳で【戦神ヘルマン・デイモンの捕縛および連行】に行きたいと思います」
リズとミストが、顔を見合わせてから返した。
「無理そうだったら、ちゃんと引き下がりなさいよ? あんたがピンチに陥っても、アタシは絶対に助けないからね?」
「死ぬときは一人で死んでほしいでござる」
どいつもこいつも薄情すぎるぞ。
まぁ、俺もこいつらが死にかけた時に助けるかと聞かれれば、かなり微妙だけど。
一〇〇%、自分の安全が保障されていたら行く。多分。
なんて言うと、最低最悪のパーティーだと思われるかもしれない。
だが、人と人との関係なんざ、そんなもんじゃね?
その最たるものが、この【ヘルマン・デイモン】とやらじゃね?
「戦争の時は英雄だったのに、戦争が終われば殺人鬼扱い。可哀想な奴だぜ」
「それが世の常でござるよ」
「このおっさん、有名なのか?」
問うと、リズが真顔で答えた。
「【100万人を殺した男】って呼ばれてるわ」
一人で一〇〇万人を殺したっていうのは、流石に嘘だろう。
噂ってのは、えげつないくらい脚色される。それが世の常だからな。
……いや、待て。
こいつが、リズの【パム】みたいな禁忌魔法を持ってたら、あり得るのか?
気になって尋ねてみる。
「こいつ、何がそんなに凄かったんだ?」
今度の質問には、ミストが応じた。
「彼の作ったマジカル・ドールの軍勢が、べらぼうに強かったそうでござる」
マジカル・ドール。一応、知っている。
特定の種類の魔力を流し込むと、組み込まれた動きを全自動で実施する人形。だそうだ。
つまり、俺には無用の長物。
「そういや、この間、行商人にマジカル・ドールを見せてもらったぞ。こういう動きするやつだよな?」
ウニョウニョと、形態模写を披露する。ミストは裏返った声で叫んだ。
「上手いでござるな!」
驚く彼女に代わって、リズが説明の続きを引き取った。
「ヘルマン・デイモンは、一流の剣士であると同時に、超一流の技師だったのよ。一人で一〇〇〇人を殺せる男じゃなかったけど、一体で百人を殺せるマジカル・ドールを、一万体以上作ることが出来たの」
なるほど。そういう話だったら、一人で一万人を殺していても不思議ではない。
神妙な面持ちで、リズは俺に問う。
「アンタが挑もうとしてるのは、そういう相手なのよ。分かってる?」
「うん、分かってる。ちなみに少雨決行の予定だ」
「分かってないでしょ! 遠足気分を改めなさい!」
「大事なのは覚悟じゃなくて、作戦の内容だと思うでござる」
その眼が『作戦はあるのか?』と言っていた。
堂々と返答。
「基本的には、俺の声真似で、ムダな戦闘は避けつつ進む。前回みたいな緊急時は、ミストの操る獣たちで応戦。肝心のヘルマン・デイモンは、リズの【パム】でぶっ潰す。完璧だろ!?」
簡潔な説明に、ミストは眉を上げた。
「ふむ。意外と大丈夫かもしれないでござるな」
そんな訳で、二度目の超上級クエストへ、れっつらごー。
もちろん、少雨決行です。
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