第12話 彼らは陽気なタツノコンビ
「……ねぇ、あれ、ランタンの明かりじゃない?」
「何言ってんだよ。モンスターも、人間も、ベノムノドンの鳴き真似を聞いて逃げ出しただろ? ランタンなんかある筈が……」
そこで言葉が止まった。
数十メートル先の暗中で、確かに、ランタンの灯りが揺れていたから。
様子を見るため隠れようにも、ここは一本道。どうすることも出来ない。
前方から現れたのは、かなりの大所帯だった。総勢二〇人以上。
集団を率いているのは、おかっぱ頭で小太りで青年。
身なりは綺麗だが、肌も髪も
その隣には、参謀っぽい雰囲気の中年男性。
痩せぎすで、安っぽい眼鏡をかけている。髪はパサついた黒の長髪。
ローブを
思わず本音がこぼれる。
「な、何で、人間が……!?」
ベノムノドンの声を聞いて、逃げなかったのか!? アホすぎるだろ!
啞然とする俺たちを見て、小太りの青年が、したり顔で言う。
「ほ、ほら見たことか! ベノムノドンなんかいなかったではないか! 偽物だったではないか!」
「偶然でしょう! 金に目が
痩せぎすの男に素早く否定され、小太り君は、ばつが悪そうに顔を逸らした。
そんな冴えない二人を指さし、リズが甲高い声を上げる。
「あぁ! 誰かと思えば、トントロン王国のブッチャじゃない!? でもって、そっちは
小太り君もといブッチャは、表情を歪ませた。
「げぇっ! き、君は、リリラビア王国のリズベッド!?」
「何故、リズベッド様がここに!?」
コーカッツとやらも口角をひくつかせる。
デブで粗暴そうなブッチャ。
ガリガリで卑怯っぽいコーカッツ。
タツノコプロの子供向けアニメに登場する悪役かよ。
王家のネーミングセンス、終わってるな。
そんなタツノコンビが、醜く言い争う。
「ブッチャ様! 身バレしてしまいましたぞ! どうなさるおつもりですか!? もし仮に、我々が国を追われて、現在は冒険者稼業に精を出していることがバレれば、本当に終わりですぞ! 末代までの恥ですぞ!」
「う、うるさい! 分かり切ったことを言うな! そんな暇があるなら、妙案の一つや二つ、出してみろ! 宰相だろう!」
「また他人任せですか! そんな風だから、王家を追放されたのですよ!」
「君にだけは言われたくない! 国庫の金を着服して、国外追放された分際で!」
耐えかねて目を逸らす。
横を見やれば、リズが下卑た笑みを浮かべていた。
これもまた直視できない醜さだった。
ニタニタと笑いながら、彼女はタツノコンビに歩み寄る。
一挙手一投足から、底意地の悪さが滲み出ていた。
「二人とも、王宮を追放されちゃったの? かわいそ~! これから先、どーやって生きてくつもり? 教えてよ~。気になる~」
コーカッツは淡々と返した。
「ちなみに、リズベッド様が王家を追放されたことは、既に近隣諸国に通達済みですよ」
「なっ……!」
絶句するリズカス。ブッチャが追撃する。
「君こそ、今後どうするつもりだ? これは皮肉じゃないぞ。純粋な疑問だ」
「う、うるさいわね! あんた達には関係ないでしょ! 黙ってなさい!」
その台詞、数秒前のテメェに、そっくりそのままお返しするぜ。
嘆息交じりに、会話へ参戦。
「おい、リズ。こいつらは何なんだ。説明しろ」
「こいつらは、東の辺境にある、【トントロン】っていうクソ雑魚国家の王族よ! ブッチャは、周囲の人間から【王家の面汚し】って言われてるわ!」
国家の要人にあるまじき発言だな。
当然、ブッチャはいきり立つ。
「う、うるせぇ! お前こそ、王族史上、稀に見るゴミクズの癖に!」
「そう言うアンタは、先祖代々のゴミクズでしょうが! あんたが面汚しみたいに言われてるけど、そもそも顔自体が汚らしいのよ!」
こいつ、一族郎党まとめて貶しやがった。せめてブッチャだけにしとけよ。
今度はブッチャとリズカスが、醜く言い争う。
「アンタの方がクズよ!」
「お前の方がクズだ!」
「アンタがクズ!」
「お前がクズ!」
どっちもクズだよ。
これが世に言う【どんぐりの背比べ】か。また一つ、賢くなったぞ。
カスどもを見下していると、コーカッツが仲裁に入った。
「お二人とも、落ち着いてください! 王族の名が泣きますよ!」
「もう王族じゃないのよ!」
「もう王族ではないのだ!」
怒りの矛先が変わっただけだった。
元王族たちの罵詈雑言をいなしながら、コーカッツが俺に言う。
「り、リズベッド様の従者殿。我々と、手を組みませんか?」
従者じゃねぇよ。って反論すると、馬鹿ども二の舞か。
本音を飲み込み、尋ねる。
「けど、そんなことしたら、俺たちも、お前らも、分け前が大幅に減るんじゃ」
「ご心配なく! ちゃんと策を考えました!」
断言し、眼鏡のブリッジを押し上げるコーカッツ。
ランタンの明かりを反射したレンズが、ぎらりと光った。
彼の声が周囲に響き渡る。
「リグラの身体を覆う鱗の中に、たった一つだけ、宝石のような輝きを放つ鱗【僻鱗】があるということは、ご存知ですよね?」
存じ上げません。
リズカスに顔を向ければ、当然のごとく頷いていた。真似しておこう。
無難にこの場を乗り切ろうとしていた俺だが、次のコーカッツの発言には、反応せざるを得なかった。
「この僻鱗は、超高額で取引されており、末端価格でも、五億ダラズ以上の値が付きます」
「……え、えぇぇぇぇぇ!?」
驚愕の叫びに、リズカスが顔を顰める。
「うるさいわねぇ。そんなの、常識でしょ」
「知らねぇよ! 鱗一つが五億!? 信じられねぇ!」
そんな俺に、不親切なリズカスは簡単な説明さえしてくれない。
それどころか、コーカッツに、話の先を促す。
「で、それが何? 早く結論を言ってくれる?」
問われた彼は、絵に描いたような小悪党の笑みを浮かべる。
「思い出してください。クエストの内容は、リグラ本体の討伐。つまり、僻鱗をこっそりくすねても、咎められることはないのです!」
詐欺めいた手口の提案。当然、舞い上がることは出来ない。
俺は眉根を寄せて尋ねた。
「クエストの依頼者は、僻鱗が欲しいから、リグラの討伐依頼を出したんじゃないのか? もしそうだった場合、討伐できたとしても、報酬が貰えなくなるんじゃないか?」
「そうであれば、【リグラの討伐】ではなく【僻鱗を持ち帰れ】という依頼を出すべきです! この依頼内容で、我々がリグラ討伐の証拠だけを持ち帰り、希少な僻鱗を持ち帰れなかったとしても、責任はありません! 報奨金の全額支払いを要求できます!」
「……」
こいつが国外追放された理由、何となく分かった気がする。
俺やリズ、ブッチャや部下達から、冷眼を向けられていることにも気づかず、コーカッツは鼻息を荒げて続けた。
「つまり、リグラをぶっ殺し、僻鱗を別ルートで売り飛ばせば、トータルで一〇億ダラズゲットできるのです!」
一〇億ダラズ=一〇億円。思わず生唾を飲んだ。
つい先日まで、一〇〇億円持ってたはずなのに。
コーカッツが、管弦楽団の指揮者みたく、話を締めた。
「そうすれば、我々も、貴方たち二人も、お互いに五億ダラズをゲットできます。悪い話ではないと思いませんか?」
彼の話の信憑性を、リズでチェック。
「あいつの言ってること、マジなのか?」
「……確かに、僻鱗は高値で売れる」
「ふむふむ」
「……非合法のマーケットで、だけどね」
「え」
「僻鱗の商取引は、国際法で禁止されてるのよ。あれ、魔王復活のキーアイテムだから」
「宰相の提案とは思えねぇ!」
つまり、あの僻鱗とかいう代物は、核爆弾の発射装置みたいなもんか。
唸る俺に、コーカッツが尋ねる。
「お受けいただけますか?」
「断る」
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