第8話 拝啓、中学生時代の俺へ。

 最寄りの酒場に入店し、奥のテーブル席へ腰を下ろした。


「まず、お互いが出来ることを把握しよう」


 席に着くやいなや、俺はリズカスに告げた。

 世界で最も有名なビーグル犬こと、ス〇ーピーの言葉を思い出しながら。

【配られたカードで勝負するしかないのさ】

 どんな犬だよ。イケメンすぎるって。

 みんなも知っての通り、イヌだろうと人間だろうと、イケメンが言うことは全て正しい。それが社会のルール。

 よって、手札の把握は必須。ゆえに先の発言をしたのだ。

 こんなこと、ロイヤルストレートフラッシュが完成していた現代日本では、考えなくて良かったのになぁ……。

 嘆息しつつ、俺は率先して手の内を明かした。

 こんなアホ相手に隠しても、大して意味ないからな。


「俺の特技は物真似だ。昔から、形態模写が得意なんだ」

「ケータイモシャ?」


 リズカスが首を傾げる。これだから、学のない馬鹿は困るぜ! 

 ……ほんと、困るぜ(泣)


「説明するのダルいから、やって見せるぞ。ビッグトードの断末魔」


 タイトルコールしてから、軽く喉を鳴らし、チューニングを行う。

 ちなみに、ビッグトードとは、カエルとウーパールーパーを、七対三くらいの割合で混ぜたような生き物だ。色は全身ライムグリーン。結構キモいぞ。

 という訳で、キモ男によるキモンスターの熱演、スタート。


「ギョエッ!」


 その完成度に驚いたのか、目を見開くリズ。


「今の声、どうやって出したの?」

「コウヤッテ、ノドヲヘコマセルカンカクデ」

「ビッグトードの声で喋るな! キモいから!」


 じゃあ、普通の声で喋ったらキモくないのかよ。

 そう聞き返せば、傷つくのは自明の理。だから言わない。


「よし、次だ。そこの店員の動きを真似するぞ」


 忙しそうに動き回る店員の挙動を真似しながら、ホール内を徘徊してみる。

 すると、別の店員が話しかけてきた。


「ジャン。ボサっとしてないで、厨房のサポート行って」

「俺、店員じゃないです」

「え? ……あぁっ! し、失礼しました! あまりに似ていたので、つい!」

「ちょいちょい! カンベンしてくだせぇよ~!」

「こ、声と喋り方も、ジャンに似てる……!」

 

圧倒的スキルを見せつけて、リズカスの元へ帰還。


「どうだ? 凄いだろ?」

「総じて地味」

「黙れ!」


 真顔で断言したカスに言い返す。

 俺だって、めっさ強い武器とか、ハイパーつよつよスキルとか欲しかったよ!

 でも、『生前に恵まれてたやつは駄目でーす』って言われたんだよ! 

 あのクソ女神に!

 けどさ! 俺は思うんだよ!   

 そんなこと言い出したら、現代日本で生活してた時点で、そこそこ恵まれてね!?

 例えば、もし仮に。


俺=イーロン・マスク。

ハイパーつよつよスキルを貰える連中=学校すら存在しない辺境で育った小年。


 だった場合は、まだ納得できるよ? 

 そりゃあ、少年を優遇すべきだと思うよ!

 でも、転生してる連中の大多数は、同じ日本の学生とか会社員だろ!? 

 言うほど格差あるか!? 

 それに、俺、童貞だぞ! 

 半端ない十字架を背負ってるぞ! それでも駄目か!? 

 考えを改めて、今から能力を授けてくれてもいいんだぞ!?

 ……駄目っぽいな。

 改めて落ち込む俺と同じタイミングで、リズも肩を落とした。


「こんな奴が頼みの綱かぁ……」

「……」


 カスの癖に、言ってくれるじゃねぇか。

 いいだろう。俺がいかに有用な人材か、そのツルツルの脳味噌に叩き込んでやる!

 店内中央へ移動。高らかに声を上げる。


「パルスの神殿を守ってる、蝋人形の真似しまーす!」


 そして、パフォーマンス開始。

 わずか十数秒で、周囲の客から、レスポンスが返ってきた。


「う、上手いな!」

「関節の動きとか、どうなってるんだ!?」


 動き自体は、コツさえつかめば難しくないぞ。ゴーレムダンスに近いかも。

 最初に反応を見せた客の方へ顔を向け、ダミ声で一言。


「メンテナンス、シテクダサイ」

「あははははっ! そっくり!」

「すげぇ! マジの蝋人形なんじゃね!?」

 

 笑いながら、数多の酔った客共が、俺の足元へ小銭を放る。

 酒場は稼げるスポットの一つだ。

 酔いも相まって、皆、良い具合に財布の紐が緩んでるからな。

 思考力の低い人間から徹底的に搾る! それがビジネスだぜぇ! 

 ビジネスやったことねぇけどな!

 十分後。


「どうだ! これで、今日の宿代は確保できたぜ!」


 戻ってきた俺の成果報告に、リズが感心の眼差しを向けてきた。


「あんた、大道芸人やれば?」

「ざっけんな! 死ぬまで働くなんて御免だぞ! 俺は一秒でも早く元の世界に戻り、悠々自適なニート生活を取り戻すんだ!」


 かつて、小学校や中学校の同級生は言った。

『TIKTOKやったら? 多分、バズるよ?』

『YOUTUBEやれよ! 絶対いけるぞ!』

 俺は言ってやった。

 やるわけねーだろ、と。

 ハッキリ言ってやる! あんなものは、貧乏人のやる仕事だ!

 一〇〇億円あるんだぞ!? 

 何でくだらない動画作って、小金を稼がねばならんのだ!?

 本物の金持ちは、むやみに人前へ姿を晒さないんだよぉぉぉ! 

 心中で絶叫する俺に、リズカスが声をかけた。


「あっ! 見て! 羽振りのよさそうな連中が入ってきたわよ!」

「なぬっ! 見過ごしてたまるか! きっちり搾り取ってやるぜぇ!」


 拝啓、中学生時代の俺へ。

 三年後。貴方は、むやみやたらに人前で醜態を晒し、小金を稼いでいます。(泣)

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