第7話 度し難いリズカスと御しやすい俺
「カルメラ・リズベッド・ラブラバ・ターナー! 貴様を、城外追放処分に処すっ!」
……リズカスの本名、素敵だね。
しばらく間を置いて、リズが同程度の声量で返した。
「……はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
その反応にも、王は動じない。
「もはや貴様は、王族でも何でもない。無論、貴族でも平民でも、奴隷ですらない。路傍の小石だ!」
この展開を予想だにしていなかったのか、リズカスは口をあんぐりと開けたまま、動けずにいる。
物心が付いてからずっと、あんな狼藉を繰り返していたとすれば、この仕打ちも仕方ないかもしれない。リズカス、ドンマイ。
衛兵が、リズの両手を引っ掴み、連行する。
彼女は両足で懸命に抗おうとするが、焼け石に水だ。
「ちょ、待って! パパ! パパァァァァァァァァ!」
リズカスの姿が、扉の奥へ消えた。
――おそらく、あいつは死ぬ。
あのメンタリティで、この厳しい異世界を生きていける訳が無い。
せめて来世では幸せになれますように。南無阿弥陀仏。
あ、この世界に仏教はないのか。じゃあ、アーメン。
いや、キリスト教もないのか。じゃあ、アッラー大好き。
多分、イスラム教も無いと思うけど。
手当たり次第に祈っていると、王様が俺にも冷眼を向けた。
「貴様も出ていけ。あの石ころ同様、たたき出されたいか?」
「あ、さーせん」
◇
城外へ出てから数分後。扉の前で、しゃがみこんだリズカスに遭遇した。
「うわっ、マジで追放されてる……」
借金して用意した二〇〇万円を、FXに突っ込み、七分で溶かしたニコ生の配信者と全く同じ顔してる……。引くわぁ……。
軽蔑の眼差しを向けていると、いきなりリズが騒ぎ出した。
「パパァ! 話を聞いてぇ! ここを開けてぇ! お願いだからぁぁぁぁ!」
情緒不安定だ……。怖い……。
いや、無理もないか。
親に絶縁宣言されて、無一文で家から追い出されたら、そりゃ情緒不安定にもなるか。
……俺がきっかけを作ったみたいで、ちょっと申し訳ないなぁ。
まぁ、遅かれ早かれ、追い出されてたとは思うけど。
そんなことを考えている間も、リズは醜く足掻いている。
「叩き出すにしても、せめてお金ちょうだい! 100億! いや200億! いや、1000億でいいから!」
同情した俺が馬鹿だった。さらばリズカス。強く生きたまえ。
ニヒルを気取り、城を離れようと歩く。
三〇秒ほど過ぎた頃。
背後から聞こえてくる、駆け足の音。
気付いた時には手遅れだった。
「待ぁてぇぇぇぇぇ!」
怪物めいた叫び声を上げながら、リズカスが飛びついてきやがったのだ。
最初は、何が起きたのか分からなかった。
俺を拘束したリズカスが、下品な笑い声を上げたため、その凶行に気付けたのだ。
「あはははははっ! 逃がさないわよぉ! カス野郎ぉ!」
「は、放せぇ! あっち行けぇ! 当方は貴殿と一切の関係を断つ所存だぁぁ!」
たわわな胸や締まった太ももが密着しているのに、心が弾まない。
むしろギャン萎えだ。
「アンタのせいでこうなったのよ! 何とかしなさい! こらっ! 暴れるな!」
「出来るか! 俺だって、今日を生き抜くだけで精一杯なんだよ!」
激闘の末、一国の姫君を振り落とすことに成功。全力で逃走を図る。
あばよ哀れなカス。
遥か後方から、リズの涙声が聞こえてきた。
「私、まともに働いたこと無いの! 一人じゃ無理! 死んじゃう! 助けて!」
「っ……!」
反射的に足を止める。
死んじゃうとか、言わないでくれよぉ……。
もし本当にお前が死んだら、俺の責任みたいになるじゃねぇかよ……。
俺と関係ない所で、野垂れ死んでくれよぉ……。
『なぜ何も言ってくれなかったんだ!? 俺が付いていれば、こんなことにはならなかったのに!』
って言わせてくれよぉ……。
命を賭して、俺の体裁を守ってくれよぉ……。
振り返り、蹲ったリズカスを見やる。
金持ちの家で生まれ育ったカスニート。
……親近感を覚えてしまう。
俺が目の前に戻っても、彼女はしばらく気付かなかった。
「うえーん! もういやだー! みんな、きらいだー! 国民全員、記録的な飢饉で餓死しちゃえー!」
とんでもないこと言ってやがるな。
お前、仮にも王族だろ。国民の命を預かる側だろ。冗談でも、そんなこと言うな。
……まさか、冗談じゃないのか?
戦慄を覚えながら、こわごわと話しかける。
「リズ、だっけ?」
素早く顔を上げるカス姫。俺は続ける。
「とりあえず、手近な店に移動しよう。ここで騒いでると、逆賊扱いされかねない」
「っ!」
珍しく殊勝な反応を見せたリズは、顔を伏せて微笑んだ。
「……ふふ、御しやすいバカね」
「殴るぞ!」
言うにしても、せめて声を潜めろ。
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