第3話 罪を設定したよ

 罰は最低限決まった。罪は何にしよう。


 私は自らのアイデンティティで世界の善悪を決めるほど乱暴じゃない。


 あ、規律のために地獄を作るのではなく、地獄のために規律を作るところは乱暴なの、自覚してます。


 なので優しくなるために前例にならうことにしました。そう、神と生物との契約です。これなら生物も無生物も文句ないでしょう?


 試しに神との契約、戒めとかで規律を設定してみる。


 すると千を超える条文が頭に公開されました。


 中でも目を引くのが神から存在抹消刑を受けた生物のものです。文章に穴ができてる。穴は受刑者だけではなさそうだけど、そうした推測しかできず気になって読んじゃう。


『人族に神の名を明らかにする。神の名をみだりにとなえるなかれ。もし神の名を忘却すれば人族を別のもの にする』


『神と は 国皇帝に国民を守る力を与えるかわりに を欠かさぬことを誓う。反故すれば 国皇帝は存在できず、人族は三つ目を失うが一年また続ければ復活する』


『 王との契約により、人族は三つ目を得て、代価として統一された言葉を失う』


『 族は すると人族へ退化する』


 おもしろいね。こんなの知りたくなかったね。


 人を巻き込みたくなって私はそれらを公開することにしました。罪についていつか明らかにしないといけなかったしね。


 存在抹消のせいで、何が原因でそうなったのかわからない。というか『停戦中 は を使わない』だけ残すな。年号も残せ。道具かなにかも存在抹消されとるやんけ。


 ロマンはあるけど、穴を意識すると人生の綱渡り感がすごい。何を気をつければいいんだ。


 あ、一応十戒とかみたいなのあるから全員地獄の根拠にはなりそう。無罪の人はいなさそうなやつだった。生きるだけで有罪。


 神がそんな不完全な生き物を作るなよ。


 というか存在抹消刑を受けたら地獄に行かなくてもすむからそっちのほうが楽なのか?人族も族滅条文にまだ生きてるやつあるな。


 達成したら私も地獄に行かなくて済む。


 ならいいや。地獄の日々より神の罰よ。


 あ、十戒みたいなやつは本当にただの守るべき戒めでペナルティがない。


 ちゃんとやると神の権威が増すだけだし、半分くらい破ったら地獄に来てもらうと明記するか。


 しかしこれ誰が監視してるの?


 ドラゴン族はわかるけど条文にある樹木族って本当にいるの?わからない。


 過去の条文、戒め、小さなアドバイスを読むだけでなんか楽しい!


 どうしたらいいのか分からず泣き叫ぶ人々より気が楽になる!


『アドバイス、異世界からの侵略にはすべてをもって戦うこと』


 地獄の発生は侵略に定義されるのかな。まあアドバイスは神の権威を借りる箔付けで、守ったりしなかったりしても地獄に行けませんけど。






 族滅条項の一つ、神の名がどこの宗教団体に伝わっているかで軽い混乱が起きている。


 イニシャルだけでも数パターンある。


 適当に言っているならかわいいものだけど、神が複数いた場合は重複や齟齬が起きていないか。


 別の族の、長生きのドラゴンとかに神の名を尋ねに行こうみたいな探検団が組まれる話もある。


 同時に人族以外の生き物たちも族滅条文を失伝していたらしく、この星で情報交換が盛んになっている。図書館の略奪ともいう。


 図書館の略奪はなんかに引っかかって地獄に落ちそうとはいえ、族滅よりマシだという狂信的な理性が働いたのだろう。


 地獄って世を脅して平和を作るための必要悪ではないのか?時間がたてば落ち着くおこりなのか。


 今日も教会には人が集まっている。信者を集めて千くらいある条文を思い出させようとしているのだ。


 その生き物が一度読める時間感覚で千くらいのを教えたのだが、その後の極寒地獄で自分とこのやばい条約以外寒さに上書きされたようだ。


 次は地獄体験のあとにしてあげたい。


 しかしこれはビジネスチャンス。


 私も敬虔アピールして旦那様がたの覚えを新たにしていただかないと。


 神の家に入れず玄関先で話を聞いてもらう。


「調理スキルの使用についてはありませんでした」


「できれば条文などを暗記していませんか?」


 無害そうな神様アドバイスを暗唱してみる。


「神様からのアドバイスで、『蛇に花を巻き付かせたければまず茨を切り取るといい』、というのがありました」


「経典の『花に巻き付いた蛇を利用するものもまた茨を捨てる』原典となるものでしょうか。よくやりました。あちらで3つ食べていってください。あなたにご加護を」


 広場で鉄板に火を入れてホットドッグを作っている在家さんへ向かう。


 脇に挟んだ長めの木の枝を杖にしてゆっくり歩く。皮が張って固くなっても足首で歩くのは難儀するものだ。


 持って帰れないし、受け取ったら椅子を借りて3つとも平らげる。


 口の中でさらに調理スキルを使うと栄養もばっちり。


 しかし教会も本気だな。条文とかを把握するためにどれだけ牛豚を潰しているのか。


 家なしたちにも開放してるのはカーニバルくらいだし、本当に珍しく気前がいい。


 地獄体験は生物すべてなので、狂乱したやつを潰さざる負えなかったかもしれんけど。


 帰りに別の教区に寄って何か食えないか考えたけど、足首が痛むから噴水の水を飲んで元の位置に戻った。

 しょんべん横丁の隣壁際。


 みんなは、生物たちはどれくらい気づいてるんだろうか。


 神とのなんやかんやを組み合わせていくと、連鎖族滅が起きかねない現況について。


 あと属名や族名が長い年月で変化しているから、族滅、属滅、科滅もついでに起きそうなのだ。時限式の契約のおかげで。


 もちろん存在抹消もあり得る。


 どちらにしてもそこらからの大連鎖もありえるし、契約以外のやられる前にやれで戦争もありえる。


 地獄って難しいな。罪と罰は平和を作るためのものなのに。


 みなさんは地獄を作るとき気をつけてくださいね。

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