七・五・三分喜劇集

Ａ曜日〜あの日に向かって走れ！ 走れ！〜

夢にはあと一歩届かなかった。

高校サッカーで全国大会初出場を目指していた準天王高校は、県大会ベスト８に終わり、３年生部員は高校生活最後の試合を終える事となった。

選手たちはグラウンドの上で、人目もはばからずに泣きじゃくった。

３年生のメンバーたちは、入部当初は仲間というよりも、レギュラーの座を争うライバル同士であり、お互いに敵対心を強く抱いていた。

だが辛い練習や、様々な難局を共に乗り越えていくうちに、いつしか部員たちは、心からの信頼を寄せ合うようになっていった。

ライバルから仲間となり、いつしか親友、家族と言っても過言ではないほどに、強い絆で信頼し合うようになっていた。

そんな３年間がこの日で終わるのだ。

仲間たちは控え室で、ユニホームから学校指定ジャージへ着替えると、試合会場の近くにある広場へと移動した。

到着すると３年生部員は横一列に整列して、その後ろに２年生部員、そして１年生部員と続いた。

部員たちが整列を終えると、正面に監督が立ち語り始めた。

あのテレビ視聴者の涙腺を崩壊させる、有名な場面である。

テレビを観ている第三者が涙を流すのだから、現場にいる監督、部員たちは、嗚咽、嗚咽の嵐である。

そんな中、監督が最後の言葉を、３年生部員に向けて語り始めた。

「３年間、頑張り抜いた君たち、ここで過ごした日々を誇りに想い、生涯の宝として、この先の人生、自信をもって生きていって下さい。未来にどんな困難が待ち受けていようと、君たちなら必ず乗り越えられると信じています。ありがとうございました！　３年生、この場をもって解散！　あの日に向かって走れ！」

監督は、涙を流しながらそう言った。

それに対して３年生部員も、監督に向かって「ありがとうございました！」と、泣きじゃくりながら頭を下げて、次に体を反転させると、後輩たちに一礼した。

「解散！　みんな、監督からの最後の激励の言葉だ！　あの日に向かって走ろう！」

キャプテンがそう言うと、３年生部員は泣き叫びながら、それぞれが別々の方角に向かって走り出した。

「……え？」

監督と後輩たちは動揺する。

「……おまえたち、オレの言った“あの日に向かって走れ”を、いったいどのように解釈したんだ」

監督と後輩たちは、喫茶店でアイスコーヒーを注文したら、ポリバケツの中いっぱいに入って出てきたかのような、あ然とした表情をしている。

３年生部員たちは、自分が産まれた病院に向かって、それぞれに走り出したのであった。