第2話 8月14日
「ぐすっ」
鼻水をずずっとすする日高くんに私は近くに置いてあったティッシュを一枚取り、日高くんに渡した。
「ありがとう」
日高くんは鼻水をかみ、ゴミ箱にティッシュのゴミを入れた。
デートをしようと考えるがどこに行けばいいのか分からない。
「じゃあ、こんな田舎で何が出来るのか……」
都会でしかほとんど過ごしていない私にはカフェとか映画館とかしか思いつかない。あとはモール。
「あ、花畑……」
行きの車の途中で見たあの花畑。確か、ここら辺の近くだったはず。
「日高くん!花畑行こう!」
「え」
私は日高くんを有無を言わず連れて行く。手を掴むだけで顔が赤くなる日高くんが思春期なんだなあと思う。
「綺麗だね」
ヒマワリが一面に広がった光景はつい写真を撮りたくなる程だ。スマホかカメラを持ってくればよかったと少し後悔する。
でも、隣で見る日高くんの顔がとてもいい顔をしている。私はヒマワリよりこっちの方が好きだ。
「やっぱり、私、好きだな」
つい声を出していたことに日高くんが「え」という声を出してから気付く。私は何か言い訳はないかと頭をフル回転させる。
(あああああああ)
何かないか。何か。
「あ」
「えっと、ヒマワリ綺麗だね」
「そうだね」
あ、透けてる。
日高くんの体がヒマワリを透けてた。
「あ、なんで」
「たまに透けちゃうんだ」
日高くんは服で肌を隠した。
「……そうなんだ」
(日高くんは……いつか消えちゃうのかな)
そんなことを思う。日高くんが人間のように思えてしまう。
「おはよう。渚ちゃん」
お盆の時はいつもお世話になっている隣の佐藤さんだ。佐藤さんは私の方を見て挨拶をして、日高くんの方はちらりとも見ずに、「綺麗やね」と言ってヒマワリに近付いていく。
「あ」
そして、日高くんの体を透けて通った。
「どうしたんだい?」
「……」
「何でもないです」
その間、日高くんは寂しそうな顔をして、ヒマワリを見ていた。
「ごめんね。日高くん」
「何が?」
「さっき、話振れなくて」
「そりゃあ、人が居ないところに話しかけても、おかしな人って見られるだけでしょ」
日高くんは笑って言っていたが、その言葉を聞くと私が泣きそうになる。
「辛い時は泣いてもいいんだよ」
「辛くないから泣かないんだよ。今まで、父さんと母さんにさ、何度も会いに行ったんだ。でも、話しかけられるのは仏壇に居る写真の僕で『僕』じゃなかった。だから、他人に無視されたぐらいどうでもいいんだよ」
「……」
何も言えなかった。日高くんの言う通りだと思ってしまった。
その後、私達は数分ヒマワリ畑に滞在し、自販機でイチゴミルクを買った。私は日高くんにもお金を渡して何か飲み物を買おうとしたら「いらん」と一言言われた。
「食べなくても飲まなくてもいい体って……」
ぷしゅっとキャップを開けると音がした。
「え」
炭酸水だった。
「まじか」
イチゴミルクの隣に炭酸水がある。もしかして、それを押してしまったのか。それとも……。
「入れた人の間違い!?」
「なわけないやろ。柊さん、普通に間違ってたで」
とくすくす日高くんは笑う。
ここら辺の方言だろうか。
「方言とか初めて聞いた」
「あ……すまん。出てたか?」
日高くんは口を隠して、そう言う。
「私、そっちの方が私好き。なんだか、日高くんが素を見せてくれた感じがする」
少しの間の後、日高くんが口を開いた。
「そういうこと、他の人に言わんといた方がいい」
「今は日高くんの彼女なので」
自信満々に私は言う。そう。今だけは彼女と名乗っていい。
「そうやったな」
日高くんはその言葉を聞いた途端、少し寂し気な顔をして笑った。
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