あのドアの向こう側へ

街にはイルミネーションがあちらこちらで冷たい輝きを放っている。


もうじきクリスマスだ。

冬至もすぐそこまで迫っている。

別れの時間が迫っている。

でも瑠那と別れるなんて嫌だ。

一生懸命足搔いてやる。


俺は瑠那と天国(地獄)へ向かう準備を進めている。

グリーンランドへ向かう為にパスポートをとって移動の手配をして・・・


瑠那と二人で旅行なんてある意味ではドキドキなんだけど・・・


初めての海外旅行が例え逃避行でも、好きな人と二人っきりなんてこれ以上の幸せは無いだろう?

でも、その先の事を考えてしまうと本当は不安で押しつぶされそうな気分になる。



俺達は静かにクリスマスを迎えようとしているグリーンランドにやって来た。

時計の時間では昼間なのに北極圏のこの場所は闇に覆われている。

俺達はその闇にまみれて動き回る。


「エージェントさん? これから俺はどうすればヨロシイのですか? 」

俺は重苦しい空気を払おうと瑠那に声をかけた。


「冬至を迎えたら月と繋がって次の使者がやって来てしまうわ。だからその前に扉をくぐらなければならないの。翔、地獄への扉をくぐる覚悟はできた? 」

瑠那は俺をジツと見つめる。

その目はまるで、『ひき返すなら今しかないよ』とでも言っている様だった。


でも俺は今さらひき返す気なんて全く無い。

「あぁ! 瑠那、扉をくぐる時は俺と手を繋いでくれるよね? 」


「モチロンよ。覚悟が出来ているなら行くわよ。」

俺たちは山奥の民家にやって来ると瑠那は持っていたカギを使って家の中に入って行った。

部屋の中にはまるで教会の様な荘厳な大きな扉があった。

どうやらその扉が天国(地獄)への入り口の様だ。

瑠那は俺の手を引いてその扉の前まで来ると、まるで祈りを捧げるかのように手を合わせた。


俺も瑠那の真似をして祈りを捧げた。

「どうかこれからも瑠那と一緒に居られますように・・・」


瑠那は扉の鍵穴に鍵を入れ取手に手をかける。

「さぁ、行くわよ。私から離れないでね! 」


瑠那はゆっくりと扉を開けた。

扉の向こう側はカーテンをかけた様な闇になっている。

瑠那は俺と手を繋ぐと無言で頷く。

俺たちは闇の中に一歩を踏み出すと闇に身体が溶けていくような感覚に襲われた。



###

ここはどこなんだろう?

天国だろうか?

俺は学校の教室らしい場所で机に突っ伏してウトウトしていた。

左隣には瑠那が席に着いている。

その向こうの教室の窓からは雨上がりなのか大きな虹が広がっていた。


俺は無意識に言葉を発した。

「あの虹キレイだな。歩いて渡れないかな~? 」


「えっ、なんで? 私も同じこと考えてた。」

瑠那からも無意識に言葉が漏れたように見えた。


「へ~、そうなんだ俺たち気が合うかもな? あっ俺、青木翔よろしくな。」

俺はこの展開を一度経験している事を思い出して笑ってしまった。


「アッ、私は月島瑠那です。こちらこそよろしく。」


そう俺は瑠那と初めて出会ったあの日に戻っていたのだ。

また瑠那と楽しい時間が始まると思うとワクワクが止まらない。

俺は天国に辿り着くことが出来たんだ。

俺は神様に感謝した。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

あのドアの向こう側へ アオヤ @aoyashou

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ