第5話 病院における危機管理

2017年11月12日


厚生省の研究班会議に出席するため、築地の国立がんセンターへでかけたおり、大揺れに揺れる飛行機の中で万一のことまで考えてしまった。

飛行機でも船にならってキャプテンやクルーという言葉を使っているが、危機管理という観点からキャプテンには絶大な権限が与えられている。

数百人の生命を預かる重大な責任を果たすためには、強いリーダーシップが必要なのである。


危機管理で重要なことは、「同じ過ちを繰り返さない!」ということである。

つまり、「人間は過ちを犯す」という前提の元に、その被害を最小限にする努力が必要なのである。

ある航空会社では、ECHO(Everybody can help others)というスローガンを掲げて事故防止に努めている。

すなわち、誰かが起こした失敗を全員が自分のこととして反省し、それに対する予防策を立てようという趣旨である。

自分の失敗で事故を起こしたとき、それを内輪で隠そうとしたり、原因を他に求めて責任転嫁しがちである。

しかしそれでは、先に述べたECHOは周囲へ広がらないし、その結果として同じ原因による事故が繰り返されることになる。

同じ様な事故が繰り返し起こるような組織では、現状のシステムを見直すとともに、危機管理体制を強化する必要がある。


患者さんの生命を預かっている点では、病院にこそ強力な危機管理体制が必要なはずである。

ところが病院というのは、非常に多くの職種から構成されるため、セクショナリズムに陥りやすい。

その結果、横の連絡が取れにくいばかりでなく、自分たちの縄張りに立てこもりがちになる。この上さらに、行政機関という側面も持つため、多くの国立病院では同じような問題を抱えているのが現状であろう。

具体的な危機管理体制を考えるうえで、重要なフローチャートをあげてみよう。

1)医療事故の情報が、正確迅速にトップまで伝わること。

2)トップは直ちに方針を決定して、適切な処置を講ずること。

3)事故の経緯と原因を明らかにし、予防対策を立て周知させること。

4)予防対策の効果を追跡調査し、問題点を改善すること。


「船頭多くして、船、山に登る」という諺があるように、とかく専門家集団におけるチームワークは難しい。

多様な専門職の集合体である病院においては、個々の専門職チームワークを尊重しつつ、それらを集合体として管理することが求められている。

単なるまとめ役ではなく強いリーダーシップが必要であることは、病院長をdirector(指図する人)ということからも納得できよう。



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