第二十六話:勇者アンデルス・シュテルン
勇者アンデルス・シュテルンの独白。
くははは!
なんと! 偶然巻き込まれた神とやらのせいで転生できることになったぜ!
俺はさっそくイケメンでオレツエーを求めたら、なぜか強く何度も頷いていたけど……なんでだ?
まぁいい! ハーレムを作ってやるぜ!
あるぇ……最強になったはずなのに、俺より強いやつばっかなんですけど。
というかなんでどいつもこいつも筋骨隆々なの? すげぇ怖いんだけど。
や、やっと王国騎士に任命された。訓練がしんどくて何回逃げ回り追いかけられたか、覚えてねぇよ……。
なんなのあいつら、犬並みの嗅覚かよ……。
チッ。早速、最前線に配置されたか……。
ちょうどいい、王国騎士の俺様がオレツエーするぜ!
あるぇ……なんか敵対している帝国の公爵家強すぎない? 殺す気で剣を振ってるのに二本指で掴まれるってということだよ……。
というかなんで先代の当主さんが最前線にいんの?
だ、だめだ! 俺には腕っ節でオレツエーじゃなく、参謀としてオレツエーしてやる!
あるぇ……なんでみんな言うこと聞いてくれないん?
なんでそんなに馬鹿正直に雄叫びあげて突っ込むの? 死にかけてたのに翌日にピンピンしてるのはなんなんですか?
も、もうやだ! 誰か助けてくれ!
お、王様から勇者に任命された。り、理解ができない。何もしてないぞ、俺。
勇者に任命されたせいか、その日から俺がいる場所ばかり、公爵家が血眼になって襲ってくる……。
くそ! 何が勇者だ! 貧乏くじじゃねぇか!
オーガに捕まった。
「なぜできぬッッ……小間使いシュテルンッッ!」
「ア、アルフレッド様、無理です!」
「舐めてんのか、てめぇは! 小間使いごときが『はい』以外しゃべっていいと思ってんのか!」
顔に大きな斜め傷がある身の丈二メートルを超えた大男が、アンデルスの胸ぐらを掴み上げる。
どこか原作ゲームの勇者に似ている顔立ちと声だが気のせいだろう、うん。
彼の腕は木の幹のような分厚さで、持ち上げられたアンデルスは息ができなくり体をジタバタする。
「おろせッッ」
「はっ!」
アルの声にアンデルスは地面に落とされた。
そしてアルはゆっくり屈み、凍えるような瞳でアンデルスを見つめる。
「『無理』、『できない』、『いいえ』……じゃない。やるんだ、いいな?」
「う、うぅ……はいぃぃ……」
アンデルスは涙目になりながら、五百キロはあるだろう大きな岩を両腕で持ち上げようとするが無理だった。
当たり前です。
俺はイカれた訓練についていけず逃げた。
数十分でオーガに捕まる。
女神様ぁぁ! 助けてくれぇぇ!
懇願すると、女神様から次はないと言われ……意識が飛んだ。
「我らは!」
「「「最強の帝国第一騎士団!」」」
「覇王マリー様は!」
「「「神なり!」」」
俺は喉が潰れようとも大きな声で叫んだ。同期の騎士見習い達も、それはもう死にそうな顔だった。
「本日の訓練終了!」
「「「お疲れ様です!」」」
王国勇者だった俺は国王陛下に帝国騎士団へ売られた。
俺は枕を濡らした。それはもうびしょびしょに濡らした。
「ふぅ、疲れたな……シュルテン騎士見習い、飯行こうぜ」
「はぁ、おう。お疲れさん、ウェベール騎士見習い」
俺はアングル公爵家に仕えている子爵家と同期になっていた。意味がわからないがもうどうでもいい。
俺には癒しと同期との絆がないと死ぬ……。
ある日、俺に面会者がやってきた。
帝国と神聖国に知り合いなんていないし、まったく誰だよ……。
俺は頭を捻りながら面会所へいくと聖女を自称する変な女がいた。
「なんでわざわざ休日に呼んだんだ? 呼ぶなら平日のきつい訓練時にしてくれよ……」
「あんた、誰よ。勇者を呼んだはずだけど?」
「はぁ? 何言ってんだ、お前」
「お前って何よ、失礼なガキね」
「ガキはお前だろ、ガキ」
「こいつ……まぁいいわ、で勇者はいつくるの?」
「俺だよ」
自称聖女の変な女は目玉がこぼれんほど開けた。
横にはこれまた変な女がいてハァハァ言って興奮していたが、意識から消す。
「あ、あんた……あっ、待って。イラリアさんちょっと彼と二人にしてもらってもいい?」
「ダメですぅぅ! エレナ様ぁぁ! もしそいつがぁぁ……」
「お願いよ、イラリアさん」
なんか目の前で百合百合しいことをおっ始めるが、ヘトヘトの俺は早く横になって英気を養いたかった。
「帰って良いか?」
「だめよ。イラリアさん本当、ちょっとだけよ」
「うぅ……本当にちょっとだけですよぉぉ!」
可愛らしい声を上げるかと思えば、俺の耳元に口を寄せた。
ん?
「おい、わかってんだろうな? ウジムシ……」
変な女はゾッとするような声で呟いて出ていった。
「どうしたの?」
「い、いやなんでもねぇよ」
俺はブルっと身体を震わせると、自称聖女が怪訝な表情をするがすぐに戻して、口を開く。
「あんたも転生者ね」
「ん?」
今こいつ「も」って言ったか?
「お前も……か?」
「そうよ」
「お、俺と立場を変わってくれぇぇ!」
「な、何よ。いきなり、近づかないで!」
「ひぃっ」
俺が自称転生聖女に縋ろうとしたら、ドアの隙間から見えた血走った目に俺は悲鳴をあげた。
「す、すまなかった」
一度謝罪して椅子に座り直し、転生者の部分は小さな声で言う。
「転生者……だけど、俺たちだけじゃなく、探したらもっといるんじゃねぇか?」
「さぁ、もうすでに原作から変わりすぎて誰が転生者かわからないわよ」
「原作?」
「そうよ?」
俺が頭を傾けると自称転生聖女が「えっ」と言って、何かに気づく。
「あんた……ここ、ゲームを舞台にした世界よ?」
「へぇ」
「へぇって……」
すっごい今更の情報を言われてもな……。
俺はここから出られればなんでもいいんだが。
「ふぅ……レンナルト・ベンクトソンって名前に聞き覚えない?」
な!
俺は急いで不動の姿勢を取った。
「な、なによ。いきなり」
「き、教官の名前だ……です! もしかして教官とお知り合いの方でしたか?!」
「ち、違うけど?」
「はぁ、んだよ……」
俺は身体を弛緩して椅子に倒れこんだ。
「無駄に緊張しちまったじゃねぇか。で、それがどうしたってんだ?」
「本来の勇者よ」
「ゆ、勇者……ま、まぁ勇者かもしれんな」
顔に斜めの傷が入っている歴戦の勇者顔が思い浮かぶ。
「うん? それこそ美青年の勇者よ」
「そ、そうだな……人が見れば美青年かもしれない」
屈強な身体に丸太のような腕に掴まれる恐怖が呼び起こされた。
「さっきから何よ、めんどくさいわね。話戻すわよ、本来の聖女が外で聞き耳をたててるイラリアさんで勇者はレンナルト・ベンクトソンって人だったのよ」
「あ、あぁー……つまり、俺たちが聖女と勇者の立場を奪っちまったから、原作? だっけか。から話が逸れてるってことか? それがどうしたんだよ」
「そこが問題なのよ」
自称転生聖女が真剣な顔で言った。
「時間通りなら今年……魔王が現れるのよ」
「まおうー? ははは、それがどうしたってんだよ。うちには化け物の第一騎士団がいるんだぞ?」
「はぁ、確かに化け物に強いわね。原作から、かけ離れたレベルの強さでね、でも問題はその第一騎士団が敬ってる相手よ」
「ん? マリー様のことか?」
「そうよ。その人が魔王の妃になって世界を地獄に落とすのよ……」
……え? 今なんて言った?
「マ、マリー様が? あの?」
「そうなのよ……」
俺は身震いを起こした。
あのお方が魔王の妃になるってことは……そのままそっくり第一騎士団から戦闘狂のノーマン伯爵とアングル公爵も魔王陣営になるってことだよな。
「終わったな、世界終わったな」
「そうね。もう無理よ、世界は魔物の世界になるわ」
「魔物?」
俺はつぶやきながら外を見ると魔物と人が肩を並べて、談笑しながら歩いていた。
「すでに帝国に魔物なんて、あふれてるじゃん」
「あっ」
自称転生聖女が今気づいたかのように声を上げて、ポカーンと間抜けな表情になった。
「なぁ? 今日会った女ってお前のこれ、か?」
「うるせぇよ、ウェベール」
自称転生聖女に会ってから同期のウェベールが執拗に聞いてくるせいで、俺はノイローゼを起こしそうになっていた。
俺は枕元から深夜食べようとしてた秘蔵のおにぎり取り出し、ウェベールの顔に投げた。
「いて……んだ? これ」
「それやるからお前は黙って寝てろ、まじでしつけぇぞ」
ウェベールのうるさい咀嚼音と同期のいびきにイライラしながら横になっていると。
「貴様らぁぁ!」
突然、教官の怒声が響いた。
俺たちはベッドから飛び上がり、廊下に出て不動の姿勢を取る。
「これは……なんだ?」
顔に斜め傷がある恐ろしい勇……ベンクトソン教官が一冊のエロ本を持っていた。
ふざけんな! 持ち込むなら、バレんじゃねぇよ!
俺は持ち込んだ同期のバカを殴りたかった。
ベンクトソン教官は俺たちに本の中身をパラパラ一枚一枚、見せつけるようにして長い廊下を行ったり来たり歩く。
「お前達は訓練だけじゃ物足りなくて、アソコの訓練もしているのか? うん?」
なぜか俺の前でベンクトソン教官が立ち止まった。
な、なんで俺の前に止まるんだよ……ちくしょうめ!
「どう思う? シュルテン騎士見習い?」
「き、教官の言う通りであります!」
「そうか。お前もそう思うよな? 全員! 装具一式全て身につけ、グラウンドに五分後集合だぁぁ!」
ベンクトソン教官に、騎士見習いの俺たちは今日も扱かれるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます