第二十五話:称えよ!
美味しいクッキーなう。
はぁ……リヌが作るクッキーは最高ね! 脳が回復していくわ!
急遽作られた木の神殿で私がパクパクとクッキーを堪能していると、アルが入ってきた。
「マリーお姉様ッッ」
「どうしたの?」
も、もしかしてあの両家また喧嘩?
さすがの私もいい加減イライラしてきて、雷を放出しながら木の神殿を出る。外へ出た私は絶句をしてクッキーをポトリっと落とした。
横にいたウィルが落ちる寸前にすかざず、サッと拾い上げて皿に戻す。
「ふっ、愚かな人間だと思ったがまぁまぁの出来だな」
変なポーズをして悪化したウィルが言ったが、そこに意識はなく私の脳が沸騰しそうだった。
私の視線の先には……ヴァラブレル神聖国にあった神殿よりも巨大な白亜の巨大神殿があり、その前には巨大な私の銅像と片膝ついている華奢な姿の美男子のアルがあった。
そして、混成騎士団と公爵騎士、王国の戦士までもが一緒に汗水を流し、良い笑顔で肩を組んでいる。
「あ、あれは?」
「覇王、マリーお姉様を称える神殿ですッッ」
「そ、そう」
動揺を隠せずにいるとノーマン伯爵が駆け寄ってきて私に片膝をつく。
「寵愛の子にして魔を統べる鮮血の精霊第六覇王、マリー様。我らノーマン伯爵家は覇王マリー様の覇道についていきます」
は、覇道?
それに続き先代グレンさんと当代シモンさんも走ってきて私に片膝をついた。ただ彼ら二人は上半身裸で筋肉をピクピクさせて、ノーマン伯爵に見せつけるようにしている。
「「寵愛の子にして魔を統べる鮮血の精霊第六覇王、マリー様。アングル公爵家一同、覇王マリー様の覇道を作ります」」
ノーマン伯爵はいつのまにか上半身の服を脱いで背中の筋肉を見せるポーズを決める。
「覇王マリー様、王国への道はすでに開けました。今すぐに攻め滅ぼしましょう」
あ、あなた王国の貴族よね? 何言ってるの?
「いや! アングル公爵家が王国を筋肉のみで落として見せましょう」
「ふんっ!」
グレンさんとシモンさんもよくわからないポーズを決めながら言った。
「王国を落とすつもりはありません。ただ……来たる者に対して同盟を組んでいただければ」
や、やっと動揺を落ち着かせられたわ! さすが私!
「「「ハッ! 我ら覇王マリー様の下僕なり!」」」
こ、これで来たる魔王の先兵がまた増えたわね。
暑苦しさだけが増したと思いますよ。
◆◇◆
「……止めなさい」
「ふっ。我らの魔の神マリー様のお言葉だ。お前達、息を止めろ」
何を言ってるのよウィル!
「「「ハッ!」」」
ちょ、ちょっとなんでみんな本当に息止めてるの!
「違うわ……。馬車と悲鳴の元を止めなさいと言ったの」
「ふっ、我らの魔の神マリー様のお言葉だ。豚の息の根を止めて調理しろ」
あんたはどうして、なんでもかんでも曲解するのよ!
私はウィルを無視して馬車から降り悲鳴の元へ急いだ。
「だずげでぇぇ! めがみざまぁぁ!」
豚の丸焼き状態にされ、頭がチリチリになっているアンデルスさんが喚き散らかしていた。
「離しなさい」
「ふっ、我らが魔の神マリー様のお言葉だ。やめたまえ、諸君」
マリーの言葉にオーガたちは涎をポタポタ垂らしながら、恨めしそう表情をして勇者を解放した。
アンデルスさんは本当に勇者なのか疑わしいほど綺麗な土下座をする。
「ありがどうございまずぅぅぅ!」
き、汚いわね。
「どうしてまた捕まったの?」
私はハンカチを渡しながらアンデルスさんに聞く。
「ソイツ、ニゲ、マシタ」
代わりに筆頭オーガが答えた。
「……逃げた? どうして逃げたの?」
「く、訓練が……」
訓練?
それだけでこの人、逃げたの?
「男の子なら訓練ぐらいきちんとやりとげなさい。次、逃げたらもう知らないわよ?」
私の言葉にアンデルスさんは目をぐるんと回して気絶した。
「ふっ、我らの魔の神マリー様の素晴らしさに気絶したか……お前たちそいつを連れて行け」
「ワカリ、マシタ」
筆頭オーガはアンデルスさんを足を引っ張って連れていった。
訓練ごときで逃げるなんて、だめな勇者ね。
はぁ……しょうがない、帰ったらママンに相談しよう。
というより、勇者ってこんな軟弱だったかしら?
説明しよう!
本来、勇者になるはずだった男の子は寵愛の子の噂を聞いて帝国の第一騎士団に入隊した! それはもう屈強になって顔に斜めの傷跡がある歴戦の帝国騎士となっていた! 詳しくはアルの独白を読んでくれ! チラッとだけ、出てくるアルの専属助教官でもあった人だぞ!
以上!
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