第二十四話:闘争
私の心に大きな傷ができた翌日。
蛮族のような集団をまとめているノーマン伯爵家の戦士達。最強は我らだというアングル公爵騎士団。アルが率いた騎士と魔物の混成騎士団が睨み合ってた。
私の脳はすでに考えることを放棄していた。
「塵芥どもがッッ、我らが気高き覇王はマリーお姉様のみッッ」
アルが大きく飛び上がり、味方であるはずの帝国のアングル公爵騎士団に突っ込む。
「ふっ。真なる勇者すら見分けがつかない蛮族の王国、我らの魔の神マリー様を称えろ」
ウィルが髪をかき上げれば目から二つの黒い光線が放たれ、アングル公爵騎士団の半分がふき飛んだ。
私の脳が溶け始めていた。
「やるじゃないか! 小童!」
同じ帝国の仲間のはずである壮年の男性と殴り合うアル。
「貴様ッッ、やるなッッ。さすがは先代アングル公爵ッッ」
え?!
あの人、先代だったの?!
驚愕の事実に私の脳が引き戻された。
た、確かに顔つきはシモンさんと似てるけど……。
なんで前線で戦っているのよ。
「隙ありだ! 第七皇子アルフレッド!」
絶句する私を他所にアルの後方から、シモンさんがバーベルを振りかぶっていた。
私の脳が天に飛んでいった。
「ふんッッ、これしきのことでッッ!」
アルは身体に力を入れると、筋肉が膨張して身に付けていた鎧が吹き飛ぶ。
「やるな、さすがは第一騎士団か?」
マリーの脳が戻ってくる間に代わりに状況を説明しよう。
先代アングル公爵のグレンは昨夜からずっと、ネチネチと第一騎士団を軟弱者の集団だと言ってアルを煽り続けていた。マリーがなんとか抑えたが今朝になってアルは混成騎士団を率いて参戦した。
「ふん。俺を忘れたか、雑兵ども!」
岩ほどの大きさがある鉄塊を持ったマリーが言うイケおじが、彼ら三人の中に割って入った。
「ノーマァァン!!」
現当主シモンが歓喜するように震え、鉄塊を殴って粉砕する。その横から先代当主グレン・アングルが回し蹴りをノーマン伯爵の腹へ決めた。
だというのにノーマン伯爵はカカカと笑って上半身を脱ぎ捨てた。
「筋肉こそ愛、愛こそ筋肉!」
おそらくみんなは知っているだろうが、ボディービルダーの技であるダブルバイセップス・フロント、両腕を顔の横で曲げて筋肉を見せつけるポーズを決める。
「「ぐぅぅ!」」
アングル公爵の先代と当代は、ノーマン伯爵の素晴らしい筋肉にうめき声をあげた。
「貴様らァァッッ、我を忘れているぞッッ!」
上空からアルが飛び降りてサイドチェスト、体を横にし片膝を折り曲げて握り拳を作る技を披露した。
「「「ガッハァァ!!」」」
アルの神ともいえる筋肉を直視した三人は失神した。
「フン、ハッ!」
アルはどんどんポージングを決めていき、ノーマン伯爵の戦士やアングル公爵の騎士達を気絶させていく。
ハッ!
やっと天から脳が戻ってきたマリーが我に返る。
……ア、アルが元気いっぱいでお姉ちゃん嬉しいわ。
私はそっとアルから目を逸らした。
目を逸らさないでください。あれ、あなたの弟ですよ。
◆◇◆
数時間後。
「すぅ……ハァァッッ!!」
アルの拳圧でアングル公爵とノーマン伯爵の豪邸が吹き飛んでいった。それを見て満足げになったアルが一言。
「覇王は誰だ?」
「「「ア、アルフ……」」」
アルの顔が悪鬼の顔と変貌していく。
「アァッッ!?」
アルは羅刹のような声を場に響かせた。まさしく悪鬼羅刹がごとくの姿に、歴戦の騎士や戦士たちがひぃぃっと情けない声を上げる。
「「「マ、マリー様です!」」」
アルは一人一人の顔をゆっくり舐めるように見ていき、目を細める。
「そうだ、それでいい」
強く頷いたアルが言う。
「お前たちッッ! これ以上ッッ、マリーお姉様を困らせるなッッ!」
「「「は、はいぃぃ!」」」
お、お姉ちゃん困ってないから大丈夫よ、アル。
あなたが一番覇王らしいですよ、アルフレッドさん。
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