第9話 術お披露目 ☆ライトミドル☆


4両目に入ると、夫婦とみられる2人のお客さんの間で、女性乗務員さんが血を流して倒れていた。

「・・・何があったんですか!?」


「そこの席に座ってたでかい男が立ち上がり、 急にそこにいた彼女を撃ったんだ。」

女性を抱えていた男の人の顔は、悲壮感であふれている。

(いきなり?? 統率が取れてない? それとも内部分裂・・・?)


私は撃った犯人がどこに行ったか聞くと、後ろの車両を指さしたので、

急いで5両目に向かった。



「・・・これって!」

4両目の後ろの扉を開けると、5~8両はすべて貨物車両であることが分かった。

(この車両は臨時列車って言ってたけど・・・これ、何が入っているんだろ。 

 乗客が乗せられたのってカモフラージュ?)



4両目に戻り、前方にいるアオイちゃんと合流しようとすると、ガコン!!

と大きな音が私のいた車両に響いた。

(なに!? なにが起きたんだろ・・)


窓を開けて、車両の上に出ると5両目から後ろが切り離されていて

私の立っている車両との距離が、どんどん遠ざかっていた。

(さっきの音はこれか。    あれは・・・!)


離れていく車両の先頭に、大柄な男が経っているのが見えた。

「あいつ・・・!!  もち!!!!」


足元に”もち”が現れ、ポンっと飛ぶと弓矢に変わった。

(よし! まずは当たり・・・!)


「力を与えよ。  イラカジタク イチウソ。」

弓を引いて狙いを定め、私のつぶやいた言葉が赤い文字で空中に浮かび上がる。

(まずい、 赤、強い・・・)


「・・・緑! まずい!! 避けて!!!」

続いて、胸元のペンダントが緑に光り、矢がオーラを纏いレーザーのように飛んで行く。



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」



ごオオっという轟音とともに飛んでいき、その矢の通り道には跡形もなく、

何も残っていなかった。



「・・・なにしたの!?」

「・・うわああ!!」

後ろからアオイちゃんに声を掛けられ、思わず飛び上がった。


「あの車両の上半分を消したの・・・?? なくなってるじゃない。」

彼女の指摘通り、5両目に上半分が消えたようにすっぽりと消えている。


「あの、これは私の術で・・・その・・・」

「話はあとで聞くわ。 とりあえず列車のコントロールは奪ったから、

貨物車両の回収は警察に任せましょう。 車掌さんに伝えてくるわ。」

彼女は下へ降りて、スタスタと歩いて行った。





「・・・はあああーーー。 やっちゃった。」

私は座っていた席に戻り、盛大に落ち込んだ。

(ついカッとなっちゃうんだよなぁ。 やっぱり私は”ライトミドル”扱えないのかなあ・・・)


「ご苦労さま。とりあえず私たちはあと何もしなくていいわ。

 犯人の目的は、後ろに積んでたレアメタルの強奪だったようね。」


私は俯いたまま彼女の話す言葉に聞いていた。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「はい。」

私の視線の先に、サンドイッチがにゅっと差し出された。



「食べなさい。 

励ますつもりはないけど、あなたが動いても動かなくても私が行ってたわ。

人命が奪われてたんですもの。

私たちは聖人君主じゃない。 世界が終わったわけじゃないでしょ。」

「うん・・・」


「食べなさい。 好きでしょ、これ。」

「これ、アオイちゃんが買ったやつ・・・」

「一緒に食べるとおいしいんでしょ? ほら。」


差し出されたサンドイッチを食べると、おなかだけじゃなく

心も満たされた気がした。

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