第6話 おいで。モチ!


私は現国王のいる大きな城みたいな建物を視認できる建造物の屋上に登って様子を見ていた。


(お母さん。 力を貸して・・・ ハルチ ウルチ ツヅチ)


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「・・・おいし。」

作っておいたコーヒーを飲んで、夜の冷え込んできた身体をあっためる。

(お部屋でまったりコロネ食べながら過ごしたいなぁ。)


-----カンカンカン-----


物見やぐらに設置された鐘が鳴った。

(びっくりして火傷した・・なにが始まるんだろう。)


鐘の音を聞きつけ、町の人たちがぞろぞろと城の前の広場に集まってくる。


「まもなく!! アル元国王の!!! 国王への暗殺犯の死刑執行を行う!!!!」

物見やぐらから拡声器を持った男の声が響き、 広場に集まった人々を中心に不穏な雰囲気に変わっていった。


「交渉失敗みたいね。」

「¥☆♪%#×→!! アオイちゃん! びっくりさせないでよ!」


音も立てずに後ろから声をかけられて、思わず声をあげた。


「広場で行われるみたいね。 手際良すぎてこの時を待ってたみたい。」


「あ、でもこれって逆にチャンスじゃないかな?」



口元に手を当てて考え事をしている彼女の表情が変わり、何言ってんだという顔をこちらに向ける。


「えーっとね、ごにょごにょ・・・・」

「・・・それって作戦?? まぁいいわ、時間もないし。 こっちは任せて。」


作戦を伝えると彼女は城に向かって行った。



「さて! がんばるよ。」

ほっぺを両手でぺちっと叩き、気合いを入れた。




広場に近づくと、人混みの間からアルさんが十時にクロスした木に手と足を縛られたまま、城から連れ出されてきた。


現国王がアルさんに向かって何か言っているのが見える。

木が固定され、がやがやと物騒な雰囲気に緊張感が張り詰めた。



・・・・・・・・・・・・・・・


1人の顔を隠した男が手に松明を持って、

アル元国王の前に立つ。



「やれ!!」


(・・・・今だ!!)


私は待機していた群衆の中から一気に飛び上がり、

松明の火を木に移そうと伸ばした男の腕を蹴り上げた。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」


広場は一瞬で静まり返った。


(とりあえずOKかな。)


「どうも。 アルさん。 今外しますね。 あ、アオイちゃんが奥様たちの救出に行っ・・・・」

縛られたロープを外そうと手をかけたところで、後ろから殺気を感じて手を離した。


----- ブン -----


(? 完全に避けたとおもったのに掠ってる。)


さっきまで自分のいたところには、自分の身長ほどある巨大な斧を持った黒スーツの男が立っていた。


「あなた、もしかして私を狙って  どわっ!!」

巨大な斧であることを感じさせないほどに、素早く的確に捉えてくる。


「・・あの! うわっ! なんで! 私を・・・狙うんですかね!?」

(動きが読まれてる?? さっきから掠ってる。)



「命令だからだ。」

黒スーツの男はぶっきらぼうに答えた。


「命令だったら、人も殺す・・・・

 ずるい人間ですね。」

「黙れ。チョロチョロと。 じっとしてろ。」

「殺されるのに、じっとしろって言われてするわけないじゃですか。 私はあなたのおもちゃじゃないんですよ。」


「」

目が真っ赤に充血している。


「その目。 かなりいいんですね。 読まれてるようっ  な!」


追い詰められる前に、大きく彼を飛び越えて立ち位置を入れ替えた。


「お前が動こうとしたわずかな初動すら見える。

お前は異常なくらいすばしっこいが、いずれ当たる。」


「分かりました。 私は動かないでおきます。 ・・・おいで、モチ。」


私の呼んだ声に反応して、グレーの毛並みの猫がスーツの男目がけで飛びかかる。

私は回り込むようにして、背後に周り後頭部に手を当てた。


「あんまり女性に、お前って言うものじゃないです。」


男を失神させ、頭から落ちないように服を掴んでそっと地面に置いた。


「・・・ありがとう、君強いんだな。」

後ろからアルさんが手首を抑えてながら歩いてきた。

後ろには人々が続々と続いている。



「紐外してもらえたんですね。」

「ああ、みんながわしを信じてくれてるみたいだ。 このままもう一度ヤツと話そうと思う。 きっちりと。武力でなく。」


「流石にこの状況でもう一回っていうわけにはいかないですもんね。急に死刑にするなんか、さすがにみなさんもめちゃくちゃだった思ったようですし。」


城の方から馬が猛ダッシュて走ってきて、私たちの前に止まった。


「あら、アオイちゃん。 作戦成功みたいだね。 私の陽動完璧。」

「これは作戦じゃないわ。 あんまり引きつけれてなかったし。」


私たちが話している間に、アルさんと王女様であろう方が抱き合っていた。 


「2人ともありがとう。 あとは私たちの仕事だ。」

「いえ、 私はなにも・・」


これからのことを聞こうとしたが、 アオイちゃんが私の前にたった。


「行きましょう。」

「え? でも」


彼女に手を引かれて、私たちは町を離れて

初めて出会ったプレハブ小屋のある港まで戻ってきた。



















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