第3話 私はユイ。 12人の魔女の生き残りですっ。



夜の港。 船着き場を歩いていると、塩の香りが鼻をツンとさす。


海沿いに並んでいるプレハブ小屋の一つから漏れる明かりの下で、

見覚えのある帽子を被った男性が大量の長靴を磨いていた。

(あれ、あの人・・・)


近寄る前に少しだけ深呼吸して、よしっと気合を入れた。


「あのー。 こんばんは。人違いだったらごめんなさい。

さっきはありがとうございました。食い逃げ犯になるところでした。」

近づき声をかけると、ちらっとこちらを見ただけで何も言わなかった。


「財布はですね、見つかりました。 カバンの底に隠れてました。」



「あと、聞きたいことあるんだけど質問いいですか?

私、この国の元国王を探してるんですけど、なんか知らないですかね?」

私の問いに少し間を開けて、男性は作業をしながら話し始めた。


「お嬢さん。あんまり夜遅くに一人で知らん男の人に話しかけるものではない。」

「あ、はい。ごめんなさい・・・」


「・・・・・・・・」

「・・・・・・・・」



「君が探している人は私だ。 何しにきた? 冷やかしならそんなこと突っ立って

ないで帰ってくれ。 サボってると思われたくないのでな。」

はーっとため息をつき、元国王だと名乗ったその人は、ぶっきらぼうに答えた。


「ほんと!?。 じゃあ手短に最後に一個質問いいですか?

  ”魔女”を匿ったっていうのは本当・・・?  ですか?」


こちらの質問に作業をする手を止めず、ひたすら靴を磨いてる。

(むむむむ。 会話って難しいな・・・・ あれ?これって・・・)


「んじゃ、質問代えます。その指についてるものはどこで? あっ、手に入れました??」

私は着ているシャツに隠していたペンダントを見える位置に出して、それを見せながら話した。


「君、なぜ・・・同じもの??」

その人は驚いた表情でペンダントを見つめていた。


「知ってることを教えてほしいです。 情報交換したいです。」


「・・・・・・・・」

「・・・・・・・・」


「・・・いや、無理な話だ。」


少しの沈黙の後、後ろのプレハブ小屋の扉が開き、

スーツを着た青い髪の同じくらいの年の女性が出て来た。

手にはハンドナイフを持っている。


「??  誰? これはだめだよってこと??」


「そういうことだ。」

男性は女性と入れ替わるように小屋へ入っていった。


「おわっ! ・・・やめてください!」


女性が突き出してきたナイフを交わし、その手首を掴んだ。

こちらの質問に、女性はこちらをじっと見つめたまま答えない。


掴んでいた手振り払われてすぐ、背後に気配を感じて、

思わず横っ飛びで距離を取った。


すると、いつのまにかその女性が後ろに回り込んでいた。

(速い・・・  いや、これは違う。)


「超速度か。 すごいね。その力、被術胎??」

「ひじゅつたい? 私は普通の家系の子よ。」


(消えた・・! 砂、 上か!!)

後ろに飛んで、頭上からの攻撃を寸前で躱した。


「重力による落下スピードには、干渉できないんだね。それでも・・・」

「なんのことだかさっぱりだわ。」


「そう・・・ じゃあ話し戻すね。  なんであの石を庇うの?」

「ただの仕事よ。 生きていくために。」


それを聞いて私は両手を上げて、抵抗しない意思を表した。


「私は別に力づくで奪いたいんじゃないよ。あなたにも手を出さない。

 戦う理由がないし。

 ただ、私はほかの魔女に会いたいだけなの。

 あなたからでいいから、あの人に聞けないかな??」



「話を聞こう。  君、名前は?」

小屋の扉が開き、姿は見せず男性の声だけが聞こえた。



「私はユイ。 12人の魔女の生き残りです。」

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