第8話 天使 〜 2つの生態 〜

ある日の夜、私は、一人屋上にいた。




「…………………」




「待ち人は来ない」




ビクッ


振り返る私。




「…悠…鬼…君…?」

「なあ…そんなに天使に会いたいの?」



「………………」



顔をそらし、背を向ける。




「堕天使には興味ない…帰って!」


「夜の街はイタズラやり放題だからさー、帰る気、更々ねーし」


「あっそ!だったら私が帰る!!さようならっ!」




グイッ

引き止められた。




「や、やだ!何…離…」




キスをされる私。


ドン



押し退ける私。




バサッ


私の目の前の翼の色が月明かりに照らされる。




「…天…使…?」



「想いが1つじゃないキスは何の異変もおきはしない。真実の愛のキスが人生を変える」


「悠鬼…君…」


「君が悪魔だという事は知ってた」


「…えっ?」


「今度会えた時は、お互いの想いが1つになればいいね」




グイッと悠鬼君を引き止めた。



「…待って!」



「…………………」



「…どうして…?」



「………………」



「…私に…正体を…?」

「…いずれバレるのも時間の問題…それに…」





振り返る悠鬼君。




スッと両頬を優しく包み込むように触れる。



ドキン…



「人間である仮の姿の悪魔の君には…知ってほしいと思ったから…それじゃ…」




飛んでいく悠鬼君。





まさかの偶然


運命のイタズラ




堕天使と天使が


1つの身体に


2つの生態が


存在していた






ある日の夜。




「よー、悪魔さん」

「あら?堕天使さん」

「ご一緒してもいいですか?」

「もちろん!だけど、それだけで満足?」

「それは…誘惑してんの?」

「クス…さあ?それはどうかしら…?」



堕天使は、悪魔にキスをし、深いキスをし、首筋に唇を這わす。




「や…やだ…何…?」


「チッ!」



舌打ちされた。




ズキン…



「水城かよ!あー!イイ所だったのに!邪魔すんなよな!」


「…悠鬼…君…」


「……なあ…あんた、今の状況把握出来てんの?」


「えっ…?」


「…その反応…知らない感じのようだな?だったら教えてやろうか?あんたの今の状態」



「………………」



「人間である水城悠漓の寿命は…縮んでんの」

「…えっ…!?」


「もちろん…俺の中にいる、もう一つの生態の天使も人間である悠鬼 雪那もな」


「…嘘…」



「悪魔は更に進化して、堕天使の俺と相思相愛。つまり想いが1つだから、お互いのパワーが増幅してんだよ!…あんたらが消滅すんのも時間の問題じゃね?」



「…………………」



「自然消滅したりしてな…だってさー、前に比べて明らかに衰弱してる感あるし。あんたら…どうなるんだろうなー?」




バサッ バサッ…



私の前から去る堕天使の悠鬼君。




「………………」





私は羽をしまう。



まるで絶望的に生きる気力を失うかのように


私は真っ逆さまに落ちて行きはじめる。




「………………」




フワリと宙に浮く。





「何を…泣いてるの…?」




ドキン




「…悠…鬼…君…?」




私をとある建物の屋上におろす。




「…っく…」

「…水城…?」

「…ごめん…何でもない…気にしないで…」



私は屋上から去ろうとした、その時。





「水城」



グイッと私の腕をつかみ背後から抱きしめる。




ドキン…




「悠鬼…君…?」

「…俺さ…時々、怖くなるんだ…」

「えっ…?」


「気付いたら…って事が多くて…記憶が…何処かで途切れていて…まるで…落としてきたみたいで…」


「…悠鬼…君…」

「悪い…」



 去り始める悠鬼君。




「待って!」



足を止める悠鬼君の背中に抱きつくと顔を埋めた。



「…今のあなたと…私の想いが1つになればいいのに……」


「…水城…」




向き合う私達。





「好きという想いがないと…私達…」

「一生…仮の姿のまま…」


「そうなんだよね…でも…その前に消滅してしまうかも…」


「…水城…」

「…ごめん…」




グイッと抱きしめられた。



ドキン



抱きしめた体を離すと、まさかのキスをされた。



ドキッ



「…っ…」



ドサッ


倒れこむ悠鬼君。




「…悠鬼…君?悠鬼君っ!」




堕天使と天使が出たり消えたりと交互に現れる。



「悠鬼君っ!!」

 

「あーー!ウザーーっ!」



「…悠鬼…」

「悪魔出しな!俺の女を出せ!」



「………………」



「つーか…二人とも馬鹿?」



「………………」




「あんたらの心、そのうちボロボロになるぜ。悪魔の仮の姿で近付くからだろ?天使の俺に近付くなら水城悠漓という人間のありのままの姿で近付けよ!」



「…………………」



「コントロールも出来ね―し、悪魔の水城悠漓は、堕天使の俺に心に奪われてんだぜ?人間の水城悠漓は悪魔に進化しはじめてる。人間の心が悪魔の心にも変化してるって事…あんた…マジ中途半端なまま死ぬぜ?」



「…………………」



「つーか…もう既に遅いかもな…人間の水城悠漓さん…自分の心の想いもコントロール出来ねーんじゃ…人間の水城悠漓は消滅し、悪魔の水城悠漓が存在する俺にとっちゃ好都合!」




「……………………」



「天使は俺が自分のこの手で抹消する!もちろん…悠鬼雪那もな!悠鬼雪那は、天使と堕天使が存在すんだよ!」





薄々は気付いていた


悠鬼君の性格が違うことも


ハッキリとした明確さはなかったけど


今ハッキリとした


悠鬼雪那には


2つの生態が存在し


そして


人間である


悠鬼雪那がいる


3つの魂が心が存在するのだと――――








「堕天使と天使…?やだ!そんな事ってあるの?」



ビクッ


振り返る視線の先には、見覚えある女子の姿。




「本当、それってタチ悪くない?」


「…長田…さん…」




私達の所におりる。



「その前に水城さん、悪魔だったんだ!大人しい顔して実は、もう一つの顔?ちなみに私は見ての通り小悪魔の血を引いてるの。あなたの邪魔をしてあげるわ。天使の想いと唇は私が奪う。あなたは一生悪魔になってしまいなよ。水城悠漓は…抹消!」





そう言うと飛び去って行き、悠鬼君も飛び去って行った。




残された2枚の羽


堕天使と小悪魔


私の人生は狂い始める





























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