第4話 奪われる唇

「ちょっと、悠漓、お願い…」



母親が部屋を訪ねるも、私の姿はなかった。




人間模様の面白いものが沢山見れるからだ。


悪魔にとっての大好物な光景はない


人の不幸を楽しむのが私の楽しみなのだから――――




「夜の街に出掛けるのは良いけど…あの子、コントロール出来ているのかしら?」





「クスクス…恋人同士の喧嘩っておもしろーい。幸福か不幸か…一層の事、別れちゃえば良いのに」




私は、不幸になる魔法をかけた。




「別れましょう!」

「あー、そうだな!」



「ハハハ…儚い人間達…クスクス…」

「あんた…悪魔?」

「えっ?誰!?」

「君の敵の堕天使」



「えっ!?」


「せっかくだし、これも何かの縁だし、キスして俺とイイ恋しない?」


「何言って…それには応え…」




スッと背後から抱きしめられる私。



ビクッ




「やだ…ちょっと…何す……」



顎をクイッと掴まれた。



「い、いや…辞め……」



スッと私から離れると私は振り返る。




「なーんて…ちょっとからかってみた」



そう答える後ろ姿の人影。




「………………」




「俺は…堕天使。そして君は…悪魔。そうだよな」

「…それは…」

「それじゃ、また」



去り始める人影。




「待っ…待って!!あなたは…どうして…?堕天使ならキスくらい平気で……」


「確かに、そうだけど、まだタイミング悪すぎだから」


「えっ?」



「時折、目を疑う時もあれば、自分自身を疑う時もある」


「えっ?どういう事…?」


「一人の中に、2つの魂がぶつかり合っているから」




スッと消える人影。




「ちょ……えっ…?消え…た…?」




そして、遠くから私を見つめる人影。




「天使と堕天使…。そして、堕天使の俺は天使の存在を知っている。…だけど…天使は俺の存在を知らない…」





ある日の放課後の事だった。




「水城さん」



長田さんが、声をかけてきた。




「水城さんって…冴えない人よね」

「えっ?」


「…でも…冴えない人程、裏で何してるか全然、分からんないんだよねー」


「長田さん?」




グイッと胸倉を掴まれた。



「長田さん…?暴力は…」

「私!冴えない人、大っ嫌いなの!」



「………………」



バッと離す長田さん。


そして、長田さんは帰り始め、ふと、足を止める。




「ねえ、水城さん。あなた…悪魔とか天使って信じる?」


「えっ…?」


「私、母親から話を聞いた事あるんだー。そして、それを邪魔する堕天使と小悪魔が存在するの」


「そ、そうなんだ」


「そして…」




振り返る長田さん。




「天使とキスをすると…」



自分の唇に片方の人差し指に触れる姿。


すぐに手を離し、



「仮の生態の姿から人間になれるんだって。すっごいロマンチックな話だと思わない?」




「………………」



「でも…あなたじゃ話にならないわね?だって地味だし、あなたには、そんなロマンチックな出来事なんて、一生ない話よね?あったら、逆に凄いかも…?クスクス…それじゃ」



長田さんは帰って行った。




「…悪魔…か…悪魔は…私なんだよね…だけど…私に、どうして、そんな話を…してきたんだろう?…天使か…天使の存在が誰か分かれば…私…人間になれるのに…」



私は、悪魔の羽を出した。



「…天使とキスする位なら、堕天使とキスしちゃいなよ!」



「えっ…!?」




クイッと顎を掴まれ、羽をしまう隙もなく、一瞬にして唇が奪われた。


ドクン


一瞬体に異変が起きた。



すぐに押しのけ、その拍子に眼鏡が外れ、羽も気付けばしまっていた。



《…何…?今…一瞬…》



「えっ…?…悠鬼…君…?」

「いかにも」


眼の前には、悠鬼君の姿。



「ちょ、ちょっと何す…ファーストキス……」

「そう?それは、ごちそうさま♪」


「ごちそうさまって…私みたいな子にキスするなんて…私、むやみにキスは出来ないの!!」


「えっ…?そうなんだ!そんな事ってあるんだ!」

「あるよ!私は……」

「何?」

「親から駄目って…」

「どんだけ真面目ちゃんなの?」



「………………」



「つーか…訳あり?」

「えっ?」


「君が…人間じゃないっていう事……例えば…伝説の話が絡んでいて、実は何かしらの別の生態が存在する…とか?」


「違う!私は普通の人間!」



「ふーん。そうなんだ。だけど、伝説って存在するって。じいちゃんが言ってたんだよなー」


「私は知らない!ていうか…悠鬼君の口からそんな話、みんな引くから!」


「…あんたは引かないんじゃねーの?」


「えっ…?」


「だって…あんた…悪魔だろ?」




ギクッ



《一瞬…口調が…変わった…?》



「な、何言って…私は…」




バサッと羽が私の視界に見えた。



「えっ…!?…堕…天…使…?」


「堕天使って分かるって事は、伝説の一人だって把握している。そして、あんたは悪魔。探したぜ!悪魔ちゃん。まあ、薄々、気付いていたけど」



「………………」



「…悠鬼…君…堕天使……だった…の…?」


「そうだぜ!もう一人の俺だ!またキスして、あんたを更に悪魔化に進化させてやるよ!」




そう言うと、空に飛んでいった。



「…嘘…」



私は体を崩していく。


油断していた……




まさか……


悠鬼君が堕天使で


偶々悪魔になっていた


私の仮の姿の瞬間


唇を奪われてしまった



体に異変が起きたのは


それが原因だ



私を悪魔と知っていたから?


堕天使となって私に近付いた


隙を狙っていたんだ……





【もう一人の俺だ!】



頭に過る彼の言葉





「…こんなの…ズルいよ……」



 

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