第46話 発見! トイレットペーパー!
今日は、物資調達を目的にクルマを三十分ほど走らせた先の温泉街の近くの商店に来ていた。
クルマの燃料は残り半分を切っていた。度々遠出はできないので、今日はできるだけ物資を調達して、クルマに積み込まなければならない。
昔ながらのおじいさんおばあさんがやっているような個人経営っぽい商店が多く、商品棚はそのままになっているところが多かった。
今、そんな商店の一角で物資漁りをしていた。
「歩ー! トイレットペーパーいっぱいあったよ! ご自宅に取り残されてるのもあるし!」
「良かったな。紙が見つからないと幸がそろそろ手で拭くはめになるとこ……ぶっ」
勢いよく、こちらにトイレットペーパーが飛んできたが、間一髪でなんとかキャッチをする。
「普通に危ないんだけど!」
「ふんっだ! 今のは歩が悪い!」
「今のは兄さんが悪いよ」
クルマに荷物を積み込んでいた雪も淡々とこちらに声をかける。
「誰も味方がいなくなってしまった」
そんなやり取りをしつつ、物資をできるだけ詰みこむ。
自宅と一体型になっている商店だったので、大変申し訳ないがご自宅のほうの物資も調達させていただいていた。
手あたり次第、根こそぎクルマに積んでいてく。
歯ブラシや洗剤などの生活用品はもちろん、ライターや衣料品、はては筆記用具などもできるだけいただいていた。
「兄さん、本とかも持っていっていい?」
「あぁ、まだまだ積めるからいっぱい積んでけよ」
雪が、本棚にある本を片っ端から詰みこんでいく。本のジャンルなんてお構いなしだ。
「案外、色々残っててよかったね」
幸が、奥の荷物を引っ張り出しながらこちらに声をかける。
「山奥だからかな。こっちにまで人の動きはないみたいだな」
とは言っても長居は無用だったので、急いで物資を詰め込む。
カップラーメンやご当地ものの調味料なども結構残っており、手あたり次第に次々とクルマに入れていた。
そんな中、入り口近くのお土産用のアクセサリーの棚が目がうつる。
子供のときは、こういうのがやたら魅力的にうつってやたら欲しくなったなぁと少しだけ昔を懐かしむ。
「さすがに、そこのはいらないでしょ」
そんな俺の視線を見てか、幸が俺に声をかける。
「まぁね。少し懐かしくなって見てただけ」
「あーなんかそういうのって旅行とかに行くと記念で欲しくなるのよね」
そんな話をしていたら一個だけ、あるアクセサリーが目に止まったのでそれだけは拝借していくことにした。
※※※
「やったね、兄さん。リストアアップしたのは大体見つかったよ」
「そだなー、電池もいっぱいあったし。しばらくなんとかなりそうだな」
足早に帰宅し、荷物を家におろしていく。
火事場泥棒をやっているよな気もしてやや気が引けるが、緊急事態なので許してくれることを願う。
「これ電池式のランタンかな。夜簡単に使えそうだな」
電池を取り付けるところをパカパカやりながら使い方がよく分からないので色々試してみる。
このあたりは田舎の温泉やキャンプ場が近いらしく、その手の用具がやたら充実していた。
懐中電灯や手回し式の充電器なども見つけることができた。
あとは、このあたりの使い方をマスターするのみだ。
「あっ、ほらよ幸」
ノートと筆記用具をいくつか幸に渡す。
「ん? なにこれ」
「スケッチするのに使わない?」
「おー、さすが歩」
パラパラとノートをめくって、少しだけ幸が嬉しそうにする。
「星野さん、私も一冊もらっていいですか?」
「いいよー、何に使うの?」
「折角なので日記でも書こうかなと」
「おー、いいじゃん」
この前、倉庫で荷物を出したのもあいまって家の中はごちゃごちゃと物資でごった返していた。
「明日は片付けかなぁ」
そう言って、座卓につく。
「そろそろお湯くらい沸かせないとな」
カップラーメンの箱を見ながら、そう呟く。
「ってか落ち着いたら山菜とかそういうのも覚えないと。めっちゃ栄養かたよってるじゃん」
幸が早速ノートに何かを描きながらこちらに訴えかける。
「そうだなー。任せたぞ雪」
「えっ、兄さんも一緒にやろうよ」
「熊田さんのマル秘手帳に色々書いてあるんだろ」
「んー、文章だけじゃよく分からないのばっかりだしなぁ」
雪が熊田さんの手帳をパラパラとみる。
「まぁ、そこらへんはおいおいということでいいだろ」
どさっと和室の真ん中で横になる。
どうせ、時間はいっぱいあるのだから何かを急いでやる必要はないのだ。
幸はそのままノートにスケッチをはじめ、雪は調達した本をめくりはじまり、各々時間がはじまった。
ゆっくりと時間が過ぎていく。
スローライフってこういうことを言うのかなと思いつつ、やってきた睡魔にそのまま身を任せた。
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