第43話 トイレの紙がない!
翌日
「作戦会議を開こうと思います」
幸が、朝イチで座卓に俺と雪を正座させて作戦会議を開く。
正面に幸、隣に雪が座っている状態だ。
「今、我々は緊急事態におちいってます!」
「はい」
なにやら、ノリノリでやっているようなので適当に相槌をうつ。
隣の雪は、何やら目をキラキラさせて楽しんでいるようだった。
「トイレの紙がありません。これは緊急事態でございます」
一応、水洗トイレ自体は使えるには使えたのだが水の出力が弱くてなんとも使いづらい状態でもあった。そこに、紙問題が襲来したのだ。
「議長いいでしょうか!」
「はい、なんでしょう。歩くん」
「最悪、手とか草でふけ……ぶっ!」
隣から思いっきり、背中を叩かれた。
「さいってー」
「さいてー」
正面と隣から、冷たい視線がそそがれる。
「……議長続きをどうぞ」
背中をさすりながら、幸に声をかける。
「バカは放っておいて、話を続けます」
幸が座卓をわざとらしく、机をバンバンと叩く。
「我々には解決すべき問題がいっぱいございます」
「はい」
雪が今度は相槌をうつ。
「紙問題は申し上げた通りですが、その他にもお風呂問題もあります」
「そこらへんの川で水浴びでもしてこいよ」
バァン!
また、隣から思いっきり背中を叩かれた。
背中に紅葉ができそうなくらい割とマジで痛かった。
「そんなことしたら兄さん絶対のぞくでしょ」
「のぞきませんのでご安心を」
「あやしい」
こいつの俺のイメージどうなってるねんと思わず心の中でつぶやく。
「あ、あははー。私はそれはありかなと思った……」
幸が目線をそらしながらそう呟く。
「お前もしや」
「……なーに?」
「もうやっただろ、まだ三月なのに冷たくなかったのかよ」
「そりゃすごい冷たかったけど慣れれば案外平気……ってなんで知ってる!」
「あー、やっぱり。どおりで濡れたタオルがいっぱい干してあるなと思ったんだよ」
「あーーーしまった! 引っかかったー!」
「星野さん……」
雪が、今度は幸に冷たい視線をそそぐ。
「ゴホン、ゴホン」
わざとらしく、幸が咳ばらいをする。
「と、とりあえず物資調達はいずれ行かなければなりません、生活用品に服も少しだけしか持ってきていないのでそれも必要です。あとはお風呂問題もとい燃料問題をどうするかがあります」
「食料だけはしこたま持ってきたから今のところ何とかなりそうだな。溝口さんからもらった米もあるし。っていってもいずれ山菜とかそういうのも調達できるように考えないといけないなぁ」
雪が、座卓の上に先日の地図を広げる。
「とりあえず、ここのあたりって温泉街でもあったみたいで、商店とかはあったみたい。湯小屋? とか言うのは歩いていけそうな位置にあるみたいだけどどうなんだろ」
こことここにと雪が地図上を指をさす。
まぁ、当然といえば当然だがやはり山奥だということもその商店らしきものは、クルマで走らせてもそれなりの時間がかかりそうな位置にあった。
「車の燃料問題もあるから、あんまりちょこちょこは走らせられないな。とりあえず、良さそうなところをリストアップして、調達は一気にできるようにしよう。けど、その前に」
外にあるトタン屋根の大きい倉庫を指をさす。
「あそこ、農業用の倉庫だろ。あそこで使えるものがあるか探してからにしよう」
そう言って、二人を連れて外に出た。
※※※
「おー、結構色々あるじゃん」
ホコリにまみれた倉庫を三人で捜索する。
大きい戸棚にはみっちり残留物があり、ここを一つ一つ捜索するのは骨が折れそうだった。
主に農機具ばかりだったが、使えそうなスコップやノコギリなどが色々出てきた。
使えそうなものはとりあえず、外に出しまとめていくことにした。
「あっ、この食器とか使えそうだよ」
雪がホコリにまみれながら段ボールをこちらに持ってくる。
中には食器ひとつひとつが新聞紙にくるまれており、大小さまざまな皿や器が入っていた。
「おー、これは使えそうだな。でかしたぞ雪」
「うん」
そんな使えそうなものを俺たちは兄妹は続々と見つけていくが、約一名苦戦しているものがいた。
「へー、農家の倉庫ってこうなってるんだ」
興味深そうに倉庫の構造や残されたコンバインなどまじまじと見ており、全く作業が進んでいるように見えない。
「そこの星野さんやい」
「んっ? なーに?」
「全然、物を探しているようには見えんのですけど」
あはははーと笑ってごまかす幸。
「やー、何かこういうところちゃんと見るの初めてで楽しくてさ」
「あとからいくらでも見れるんだから、手動かせよ」
「はいはーい」
そう言ってようやくこちらの作業に合流する。
「しかしこういう作業していると、あとからさっぱりお風呂は入りたくなるよねー」
「まだ川の水は冷たいんだから風邪はひくなよ」
「いつまでもその話引っ張らないで!」
少しだけ恥ずかしそうにして、幸が声を荒げる。
「けど、私もそろそろお風呂入りたいです」
雪が向こうから段ボールをかかえて幸に声をかけた。
「そうだよねぇ。そこの誰かさんと違って清潔にはしてたいよねぇ。雪ちゃんだって女の子だもん」
「はい」
なんか凄く刺々しい言い方をされた気がしたがあえて無視をする。
そりゃ、俺だって風呂に入ってさっぱりはしたいけどさ。
「おっ、これなんていいんじゃない」
幸が、大きな袋を外に出す。
テントと飯ごうなどが入ったキャンプ道具だった。
「おぉー、これはありがたい!」
「大分汚れてるけど、洗えば使えそうだよ」
焚き火台や網、段ボールに入った大量の炭なども出てきて本格的にキャンプができそうだった。
「けど、ここにキャンプとか得意な人がいないのが悔やまれるね」
雪の一言がぐさっと突き刺さる。
そうなのだ、引きこもり体質の俺にとってここの道具はある意味未知の道具だったのだ。
「……頑張って使えるようにします」
「ふふっ、一緒に頑張ろうね」
雪が明るい表情でこちらにほほ笑みかけた。
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