第41話 到着、田舎の日本家屋
「んーと、次の道を右折かな」
雪が地図を見ながら俺のことを誘導する。
「さすが俺の妹だ。どこかの誰かさんと違って使える使える」
「あんた、着いたら覚えときなさいよ」
幸が後ろから俺の座席をボカッボカッと蹴っ飛ばす。
「兄さん、多分もう少しで着くよ」
「ようやくかー。とりあえず休みたいわ」
二車線の綺麗にアスファルトが敷きならされた道からややはずれ、農道のやや荒んだ道を突き進む。
うまく進まないと、車が跳ねてしまって後部座席にいる幸と一緒にに荷物がぐちゃぐちゃになってしまいそうだった。
そのまま進んでいると、昔ながらの瓦葺きの大きい2階建ての日本家屋が見えてきた。
「……もしかしてここ?」
「住所的にはここみたい」
表札には“熊田”という文字が書いてあった。
大きい倉庫に広々とした庭まである。
庭だけでちょっとした公園のサイズ感があった。
キャンプなりバーべーキューなり何でもできそうだった。
出入口は今来た道一本で、家の奥側は完全に山になっている。家屋の回りは全く手入れのされておらず、荒れた田んぼに囲まれていた。
2DKのアパートに満足にしていた俺たちにとって、それはあまりにも唐突に表れたお城のようなものだった。
そんな家の正面にクルマを止め、とりあえず外に出る。
「広ーーーー」
後部座席でもみくちゃにされていた幸がテンション高めに外に出る。
「もしかして熊田さんってお金持ちだった?」
雪が俺にそう問いかけるが、当然俺にそんなことが分かるわけがない。
思えば、アパートの向かいだった熊田さん宅も間取広めで庭ありのいい家に住んでいたような気がする。
玄関の正面まで行き、熊田さんからいただいたカギを差し込む。
やや固かったが問題なく鍵穴が回った。
ガラガラとやや重い引き違い戸を開けると、昔ながらの広々とした土間がそこにはあった。
ややホコリっぽいが、定期的にメンテされていたのかそこまで室内が荒れている様子はなかった。
「売りとかに出していたのかなぁ」
思わず思ったことをそのまま口に出てしまった。
「どうなんだろね。こうなる前は田舎の空き家対策とかで業界では大変だったみたいだし」
幸が俺の言葉に反応する。
「とりあえず換気しようよ。換気」
雪が勢いよく中に入って、掃き出しの窓などを開けていく。
「とりあえず、そっちは雪に任せて荷物だけ下ろしちゃおうぜ」
クルマを玄関のすぐ近くにつけ、幸と荷物をどかどかと下ろしていく。
「しかし、いっぱい持ってきたようでこの家に入れると荷物が少なく見えるね」
「あー、こう見ると全然荷物足りないなぁ」
主に持ってきたのは食料がメインで、生活用品などが決定的に欠けていた。
「こりゃ、どこかのタイミングで調達いかないといけないなぁ」
「まぁ何日か住んでみて、後から足りないものリストアップしようよ」
幸がクルマに入っていた布団をおろしながらそう言うと、ひととおり換気を終えた雪がこちらに戻ってきた。
「お部屋がいっぱいあって、なんとなく怖くなっちゃった」
「どれくらいあったんだ?」
「んーと、とりあえずいっぱいあるから後で兄さんも見てきてよ」
「へー、あとで見てみよ」
「うん」
そう言って雪がクルマの荷物下ろしを手伝う。
「とりあえず、食べ物はキッチンのほう持ってく?」
「そうだな、適当に置いといてくれ」
なんとなく、荷物を分別しながら次々とこの伝統的な日本家屋に荷物を入れていったのだった。
※※※
ようやく、ひととおり荷物を下ろし終え一息つく。
気が付けばもう日が落ちかけていた。
「さすがに電気は使えなかったか」
「照明とかはそのままになってるのにね」
玄関から入って正面の和室で三人でくつろいでいた。
畳数的には十二畳ほどの大きい部屋だ。
そこのペンダントライトのひもをかちかちとやりながら幸がつぶやく。キッチンにあったブレーカーは上げているが特に反応はなかった。
「まぁ、しょうがないさ。そこのメンテナンスとかも追々見ていくことにしよう」
とりあえず、今日は疲れたので早く休みたかった。
「兄さん、布団引いといたよ」
雪が俺を気遣ってか声をかける。
そちらに目をやると、ここの和室に布団が並んで引いてあった。
「まぁ予想はしてたけど、こうなるのな」
「?」
雪が言っている意味が分からないと言った風で目を丸くする。
「まぁいいや。今日は俺先に寝るわ」
「私も今日は疲れたー」
「私もです」
そう言って、雪も幸も俺に便乗しておやすみモードに入る。
こんなに広くて大きい家にいるのに、結局三人川の字で寝ることになってしまった。
※※※
疲れていて、ぐっすり寝れそうだったのに目が覚めてしまった。
時間は分からず、外を見ると真っ暗だったのでまだまだ深夜帯といったところだろうか。
両脇では二人の寝息がすーすーと聞こえる。
少しだけ外の空気を吸いに外に出ることにした。
玄関から少しだけ歩いて回り見渡す。
真っ暗でひやっとする空気がやけに肌を差した。
人工的な光がなくあまりにも静かすぎるので、ここに一人しかいないような感覚に襲われ少しだけ不安になる。
「――ちょっとここは広すぎるなぁ」
そんな言葉が思わず漏れてしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます