第33話 鍵探しミッション

「もう今更な感じしない?」


 今日は幸の(になるだろう)部屋の鍵探しに来ていた。


「そんなこと言ったって、俺たちも言った手前があるじゃんか」

「そんなの気にしなくていいのに」


 ここのアパートの管理会社は、ショッピングモールから歩いて十分くらいの位置にあり、今三人でそこの管理会社にカギを探しに向かっている途中だった。気配は感じないが、あまり来ない道のためゾンビもとい感染者対策のための木刀などの武器は一応持ち歩いていた。


「っていうか地味に遠いよね」


 雪がそうぼやく。

 運動不足なのもあって、歩いていくには嫌な距離間の位置にその管理会社はあった。


「まぁ、お散歩みたいでいいじゃない」


 幸が明るく手を振って歩く。


「雨宮兄妹、ちょっと運動不足じゃない?」

「そんなこと言ってもなぁ、避難所に行くまで基本引きこもりだったし」

「じゃあさ、今度皆でバドミントンとかやろうよ。そういう遊び道具って基本誰も持っていかないからきっと避難所にラケットとか残ってるよ」


 幸がぶんぶんと腕を振り回し、スマッシュを打つフリをする。


「えっ、ちょっと楽しそう」


 意外にも雪が乗り気で返事をする。


「負けた人が罰ゲームとか楽しそうじゃない?」

「いいですね、兄さんに何やってもらおうかな」


 何故か俺が負ける前提で話をする雪。


「なんで、俺が負ける前提やねん」

「だって、兄さんあんまり得意じゃなさそうだし」

「元テニス部なめんなよ」


 自信はないけどスマッシュとかは割とテニスと同じ感覚でできるはず・・・だと思う。


「あれ? そう言えば、雪ちゃんって部活なにやってたの?」

「兄さんと同じテニス部ですよ」

「兄妹そろってテニス部だったんだ」

「幸さんよ、これで誰が一番不利だか分かったかね」

「えっ、なんで?」

「我々兄妹はラケットの扱いはある程度慣れているはず。そこの美術部員はどうかね?」


 あ~しまった!と幸が声を出す。


「幸に罰ゲーム何やらせようか考えとこうな雪」

「そうですね、兄さん」


 クスクスと雪が笑いながら言う。


「えーーー! なんかずるくない!」


 幸がそう悲鳴を上げるのだった。


  


※※※




 三人でそんな話をしていたら思ったよりもすぐ着いた。

 平屋の小さい事務所で、壁一面の窓ガラスには土地や賃貸アパートの広告がびっちり張ってある。


「普通に入れるかな」



ガチャガチャ



 鍵がかかってるようで正面入り口からは開かなかった。

 裏の従業員専用と思われる入り口にも回ってみる。こちらもノブを回してみるがやはり鍵がかかっていて入ることはできなかった。


「これ、どうしよっか?」


 幸がドアノブをガチャガチャやりながら聞いてくる。


「無理矢理壊したら怒られるかな……」

「まぁ、こんな状況だから怒る人もいないと思うけど」

「そうなんだけど、あんまり好き勝手やるの抵抗あるなぁ」


 と言いつつも、このままでは埒が明かないので「えいっ」と窓ガラスに向かって近くに転がっていたコンクリートブロックを投げつけた。



ガッシャーーン!!



 ひときわ大きい音が近隣に響き渡る。


「びっくりしたーー」


 思ったよりも音が鳴ってしまったので雪が耳を塞いでいる。


「あとで弁償するって書置きしていこう」


 心の中で本当にごめんなさいと謝りながら店内に入ることにした。


「雪、幸、ガラス片気をつけろよ」


 ガシャガシャと割れたガラスを踏みつけながら窓から店内に入る。アパートの鍵ってどこかでスペアがあるはずだが、どこに入っているのかは全く分からない。シラミ潰しに店内を見ていくことしかできなかった。


 店内には作業デスクが置いてあり、デスクごとにはパソコンが備えつけられている。どこかその光景に懐かしさを感じてしまう。


「歩ー。せっかくだから他に使えそうなのあったら貰っていこうよ」

「おー、そうだな」


 案外ちゃっかりしてる幸。

 かたや雪は物珍しそうに店内を物色している。


「とりあえずあんまり離れるなよ、声が聞こえる範囲で各々行動すること。あと鍵を一番最初に見つけたやつが、鍵見つけられなかったやつに一つ命令できるってことで」

「えーー、急に何かはじまった!」

「よーし」


 焦る幸。意気込む雪。

 そうして、鍵探し競争が始まった。

  



※※※




 三人でとぼとぼと帰路につく。

 結果から言えば、結局カギは見つからなかった。

 大量のカギは見つかったには見つかったのだが、どれがどこのアパートの鍵だか俺たちには全く分からず、結局幸の部屋のカギを見つけることができなかった。

 全部持ってきて、片っ端から部屋のカギ穴を試していくという方法も思いついたのだが、同じような人がいたとき困るだろうなということでそのままにしたのだった。


「こういう場合って誰が罰ゲームになるの?」

「そりゃ幸だろ」

「なんで私!?」


 ちなみにその大量のカギを最初に見つけたのは雪だった。


「これは引き分けでしょ! 引き分け! まぁ、鍵については私はある意味これで良かったかなって感じかな」


 幸が笑いながらそう言う。


「えっ、なんで?」

「また三人で暮らせるじゃん」

「まぁ、お前がそれでいいならいいんだけどさ……」

「ぜっっったい星野さん下心あると思う」


 雪が割ときつい言葉で幸に声をかけるが、特に気にした様子もなく、


「あっはっはっ、それはどうかな~」


 と、茶化して返す。


「もー」


 そう言われて雪は仕方ないなぁと言った感じでため息をつく。


「しかし結構いいのあったね」

「飲み物やらお茶菓子やら手のついてないのいっぱいあったな」


 念のため持っていったガラガラだったリュックサックは、今は中身がいっぱいになっていてずっしりと重かった。


「まぁ、今日は収穫ありってことで良しとしますか」


 そう言いながら俺たちの2DKのアパートに帰ることにした

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