第30話 寝ぼすけたちの翌日
「お前ら、さすがに今日は寝過ごすわけにはいかないぞ」
「おー、珍しく兄さんのやる気スイッチがオンになってる」
「昨日散々寝だめしたからな!」
今日は寝過ごした日の翌日。
昨日はそのまま自堕落に一日を過ごしてしまった。さすがに,散々寝たせいもあって今日は早く起きることができた。
「まず、幸の部屋のカギを探しにいかなきゃいけない。あとは、避難所に行って溝口さんに幸の件について報告しないと」
もしかすると、幸がいなくなったことについてすごく心配しているかもしれないし。
「それだったら、まず挨拶の方優先にしようよ。カギなんていつでもいいし」
ふわふわヘアーの星野 幸がそう答える。
「やること決まった? っていうか兄さんお腹すいたよー」
イスに座っている雪が,足をパタパタさせながら言ってくる。
「じゃあ、とりあえず避難所に行ってメシもらってくるか。そのついでに溝口さんに報告ってことで」
「「はーい」」
二人が仲良く声をそろえて返事をする。
・・・こいつら仲良いの悪いのかよう分からん。一緒に住むとなって,この二人の関係性は大分不安だったのだがどうなることやらだった。
※※※
三人で避難所に来た。
……のだが、何やら人の気配を感じない。
電気も復旧していないようで、まだ午前の早い時間帯だったが店内は薄暗い様相だった。
「あれ? 誰もいない感じだね」
幸が店内をぐるぐる見回すが誰も見当たらなかった。
異常なのが、まばらにだがある程度残っていた店内の商品が荒らされたのように根こそぎなくなっていた。
「こりゃ何ごとかあった感じだね」
幸が電気のボタンをカチカチとやるが、店内の電灯に反応はない。
「二人とも、あんまり離れるなよ」
店内の異常事態を察して警戒心を強める。
「溝口さんはどこいったのかな」
「あー、それならちょっと屋上探してみるか」
「屋上? なんで?」
幸が不思議がっていたが、とりあえず屋上の喫煙所に向かってみることにした。
※※※
「あー、いたいた」
屋上の喫煙所に行くと、溝口さんがコーヒー片手にタバコを吸っていた。
「こんなところがあったなんて……」
幸が目を丸くして驚く。
「あー……星野ちゃんに俺の特等席バレちまったか」
そう、溝口さんがいつもの調子で言うがどこか覇気がなくなってしまっていた。
「あれ? 他の皆さんどこいったんですか?」
「……それはなぁ」
どことなく言いづらいのか言葉が淀む溝口さん。
雪がいるからなのか、まだまだ長いタバコを灰皿に押し付け火を消した。
「あのあと、電気系統詳しい人に見てもらったんだわ。五十嵐電機の五十嵐さんにさ」
知ってるだろ?という風に名前を出されても全く知らない人たちだった。
「まぁ、半日かけて色々やってもらったんだけど、復旧できなくてよ。そうなると、電気も通ってないところにいられるかって!各々どこかに行っちまったわけさ。まぁ、行くアテのない何名かはまだ下に残ってるけどな」
「そんなことがあったんですか……」
俺たちが、アパートでだらけている間にそんなことがあったとは……。
「いや、雨宮くんたちいなくて良かったぞ。こんなに話大きくなったのも例の宗教家の大和田さんがメインで動いたからだな」
「げっ」
思わず、その名前聞いて思いっきり顔に出してしまう。俺も先日の騒動以来、大分あの人に対して苦手意識が強くなっていた。
「で、近くの体育館だのに大和田さんチームは行くんだとさ。下の売り場見てみ?根こそぎ商品なくなってるぜ」
「あー、それで荒らされた感じになってしまったんですね……」
溝口さんのことを考えると、気分が暗く沈んでしまった。この人は、この避難所を維持するために身を削って頑張っていたのに。
「まぁ、仕方ないさ。電気回りがお釈迦になったのも、こういうことになっちまったのも運がなかっただけさ。誰も悪くない」
「溝口さんはこれからどうするんですか?」
「とりあえず、俺もまた新しい避難所に行かないとな。俺の知り合いが、隣町の公民館を避難所にしているからそっちに行ってみるさ」
「そうですか……」
「あんちゃんらはどうするんだ? 行くあてないなら一緒に行くか?」
「あ、俺たちは自分の家があるのでそっちに戻ります。星野も一緒に」
「くっくっく、そういうことかい」
溝口さんがようやくいつもの笑顔を見せた。
「そうだ、公民館の場所教えとくよ。何かあったらここに来てくれれば力になるぞ」
「……ありがとうございます」
そう言って、溝口さんはジーンズのポケットにしまっていたメモ帳を取り出し、そこの場所の地図と住所を書いて俺に渡してくれた。
「一応、あんちゃんたちの家の場所も聞いていいか?」
「あ、俺たちの家は」
溝口さんにうちのアパートの場所を教える。律儀にメモを取っていた。ちらっと見えたそのメモには色んな人の名前が書いてあった。
「じゃあ、とりあえず解散だな。また何かの機会で会ったら酒でも飲もうや」
そう言うと、溝口さんは下の階に戻っていった。
「なんだかなぁだな」
「うん」
幸にそう声をかけると、幸もどこか元気がなくなってしまっていた。
「兄さん、熊田さんはどうしてるんだろ?」
ここの避難所で、ある意味一番お世話になった人の名前を雪が出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます