第26話 停電
「雪、幸、二人とも俺から離れるなよ」
急に停電になったので、目が慣れておらず回りが全然見えない。
「わ、分かりました兄さん」
「分かった」
右側には雪が、左側には幸が、俺の腕にしがみついてくる。
避難所の各方向からはざわざわとした声がどんどん大きくなってくるのが聞こえる。
「ど、どうしよっか兄さん」
「とりあえず目が慣れるのを待って、一旦外に出よう」
しばらくすると大分が目が慣れたので、二人の腕を取りながら裏手の出入り口から外に出る。
既に何人かは外に出ており、各々が何かを離している。
その隅に、リーダーの溝口さんと四十代のくらいの女性が口論しているのが見えた。
「あなた! リーダーなんでしょ! 早く電気なんとかしなさいよ!」
「そうは言われてもね。私も電気屋さんじゃないから詳しくは分からんのですよ。とりあえず今懐中電灯探してくるんで、それ見つけたらブレーカーのとこ見てきますから」
「全く! 早くしなさいよね!」
雪と幸がそのやりとりを見つめる。
「なにあれ感じ悪い」
雪が素直な率直な感想をもらす。
「あの人だよ、さっき言ってた宗教の人って」
「えっ、マジ?」
「ちょっと私止めてくるね」
そう言って、幸がリーダーのところに走っていった。
「大和田さん、落ち着いて」
「あら星野さん。あなたもこの男に何か言ってやってよ」
「溝口さんに色々言っても仕方ないですよ。とりあえず見にいってくれるって言ってくれてますし、それを待ちましょう」
「こういうときにすぐトラブル対処してくれるのがリーダーじゃないの! 今までリーダーだってちやほやされてたくせに!」
幸が間に入っても、大和田と呼ばれた女性は何やらおさまりがつかない模様。
「ちやほやはされてないんですがね……。どれ今ちょっと懐中電灯探してくるんで待っててくださいね」
そう言って、リーダーは駆け足で避難所に戻っていった。
「それにしても星野さん、あなたも私に意見できるなんて偉くなったのね」
「やだなぁ。そんなんじゃないですって」
「少し前までは誰とも話すこともなかったくせに。例の男ができたって噂は本当だったのかしら。溝口さんもかばうなんて、男なら誰でもいいのかしら貴方は」
あははーと笑って誤魔化す幸。
さすがに黙っていられなくなって割って入る。
「ちょっと言い過ぎじゃないですか」
怒鳴り散らしたくなる気持ちをぐっと抑えて、大和田さんと呼ばれた女性に声をかける。
大和田さんは俺の姿を見るなり、目元鋭くこちらを睨みつける。
「あら、貴方が例の星野さんの男なのかしら。貴方みたいなのがいるとここの風紀が乱れるから早く出てってほしいわ」
「こういうときこそみんなで協力しなければいけないんじゃないですか。リーダーに任せっきりじゃなくて皆で手伝うこともできるでしょう」
あくまで、建設的な話し合いができるようトーンを抑えて話をする。
「新参者の貴方のどの口が言えたのかしら。そもそも、制服を着た妹なんて連れてきてておかしいとは思わないのかしら」
「……思わないですね。妹はまだ学生ですから」
「あら、じゃあはっきり言ってあげる。制服なんて着てきて、男に見てもらいたいって欲がすごいって言っているのよ。はしたない」
俺の中で何かがキレた。
「てめぇ!!」
「私は大丈夫だからやめて!!!」
雪が、俺が大和田さんに怒鳴りつけようとしたところに大声で割って入ってきた。
その声を聞いて,他のギャラリーが集まってくる。
「ふんっ、早く貴方たち兄妹はここから出ていきなさいよね。神様は見ているんだから」
そう言って、その場から大和田さんは逃げるようにどこかに行ってしまった。
※※※
「本当にごめん。思わずカッとなっちゃって」
深々と頭を下げる。
「いいよいいよ。助け舟出そうとしてくれたんでしょ」
幸が全然気にしてないと手を横にふる。
「雪もごめん、止めてくれてありがとう」
「ううん、兄さんが喧嘩するのが嫌だっただけだから」
あっはっはっと笑い声が聞こえる。戻ってきたリーダーだ。
「いやーあんちゃん、のらりくらりとしてると思ったら案外根性あるんだな」
どっちがのらりくらりだ! と思わず突っ込みたくなる。
「仲裁に入ったつもりだったのに面目ないです」
「まぁ仕方ないさ。超えてはならないライン軽く超えてくる人もいるんだからさ」
「……リーダーはあんな言われて腹立たないんですか?」
「そりゃ立つよ」
あっはっはと豪華に笑う。全然怒ってるようには見えないのだが……。
「ちょっと何かあったのかい?」
この騒ぎを聞きつけてか、熊田さんもやってきてしまった。
「いやぁ、ちょっと喧嘩というかなんというか……」
「兄さんは悪くないんです」
雪が熊田さんにフォローをする。
「何があったかは知らないけど喧嘩はダメよ」
熊田さんが心底心配そうな表情を見せる。
本当に申し訳ないことしてしまった。
「というわけで、ちょっとブレーカーのとこ見てくるからあんちゃん手伝ってくれるか」
「分かりました。熊田さん、少し雪のことお願いできますか」
「うん、分かったよ。言っておいで」
「よし、いくぞあんちゃん」
そうリーダーが気合を入れた。
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