第25話 入居者募集中
「なんで昨日来なかったのよ!」
朝食にありつこうと避難所に行き、配給コーナーに雪と並んでいたら幸が声をかけてきた。
「悪いな。昨日はスイッチがオフだったんだ」
「相変わらず、スイッチのオンオフがぶっ壊れていること」
なぜか、今日は幸の機嫌があまりよくない様子だった。
「なんだよ、何か昨日あったのか?」
「べっつに~」
こうなるとこいつめんどくさいんだよなぁ。言いたいことがあるならはっきり言えばいいのに。
「星野さん寂しかったんですよね」
「ゆ、雪ちゃん……!」
思わぬところから攻撃が飛んできて、声が上擦る幸。
「なんだ寂しかったのか。そうとならそう言えばいいのに」
「そ、そういうわけじゃ……」
幸と雪の共通点を見つけてしまった。
こいつら二人そろって、人のことはいじりたがるくせに逆襲されると自分自身の防御力はへなへななのだ。
「頭でも撫でてやろうか?」
調子に乗って,幸にそう提案してやる。
「うぅー馬鹿にされている気がする。こうなったのも雪ちゃんのせいだ!」
「私だってこの前やられたのでお互いさまです!」
「私,何かしたっけ?」
「《なんとか避け》とか兄さんに言ってたじゃないですか!」
あーその件かと,幸があっはっはと思い出し笑いをする。
ってか,いつの間にかこの二人言い争いするほど仲良くなってたんだ。
「お前ら,案外仲良かったのな」
「「そんなことない!!」」
なぜか,二人同時に声を出し,否定されてしまった。
※※※
「ってか,お前どこで寝てるの?」
三人で2階の休憩スペースに行き,今日の配給のおにぎりを食べていた。ふと,星野がどこを居住スペースにしているのか気になったので聞いてみる。
「後ろの従業員の社員休憩スペースってところ。そこ改造して寝床になってるよ」
「へぇー。そっちは行ったときなかったから知らなかった」
「そりゃそうだよ。だってそこ男子禁制だもん」
まぁ,女性が寝るところだからそりゃそうだろと思う。
「風呂とかはどうしてるんだ?」
素朴な疑問を幸に聞いてみる。
「・・・なんか変なこと考えてない?」
隣の雪がギロっとこちらを睨む。何か黒いオーラも出ているような気がする。
「・・・考えてません。単純に気になっただけ」
「兄さんのえっち」
雪がいらぬことを言ってくるがあえて無視する。
「・・・従業員のシャワー浴びるところあるからそこ使わせてもらってるよ。ここのショッピングモールって割とそういうのは充実してるみたい」
「へぇー。割としっかりしてるんだな。水の使い方とか厳しいのかなと思った」
「ライフラインは充実してるからねー。割とシェルターに行った偉い人とかが出てきて,外の整備とかしてくれてるのかなってすら思うよ。電気とかずっとここつけっぱなしだし」
幸の言った通り,シェルターに行った人たちも割と外の世界の人間がちゃんと暮らしていけるように気にしてくれているのだろうか。そういう動きがあってもおかしくないなぁとは思う。
「ってか歩たちはどうしてるのさ。アパートって水とか電気とか大丈夫なの?」
「全然普通。全部使えるし,毎日お風呂にだって入ってる」
「へぇー,それはいいなぁ。何か共用スペースで暮らしてるとなんとなく疲れちゃって」
「俺はここで暮らす無理だなぁ」
「でしょでしょ。私の隣で寝てるおばさんなんて宗教とかやってるみたいでさ。何か寝る前にいつも唱えてるから気になるし疲れるし」
「それは気の毒に・・・」
いつの間にか洗脳されてそうで幸のことが心配になる。
「うちの部屋の隣,空いてるよ?」
雪がきょとんとした顔で幸に声をかける。
「えっそうなの?」
「だって皆シェルターに行っちゃったから。うちの部屋以外,全部空室だよ」
雪が幸にそう告げる。
「あーそういえばそうだったな。幸も良かったら隣来るか? って俺のアパートではないんだけどさ」
「そりゃ魅力的な提案だけど,雪ちゃんいいの?」
「全然大丈夫ですよ?」
雪がなぜ私に確認取るんだろうって言った顔をしている。
「はははっ,さすが歩の妹だ。そういうところすごい似てるよ。後悔しても知らないぞ~」
そう幸もよく分からないこと言ってきた。
※※※
「アパートってさ、いま家賃とかどうしてるの?」
「未払い」
「やっぱし」
幸が生真面目に家賃のことについて聞いてくる。
「仕方ないだろ払う方法がないんだから」
「そりゃそうだけど、なんとなく気が引けない?」
「もし、いろいろ元通りになったら大家さんにまとめて払うよ」
「じゃあ、私もそれでいいかな?」
「いいんじゃないか。そんときは一緒に謝ろう」
これから入居予定の人物を無理矢理、賃料未払い仲間に引き込む。
「ふふっ。ちょっとそっち行くの楽しみだな」
「そうか? 普通のアパートだぞ」
「そうだけど、楽しみなものは楽しみなの」
幸はその話をした以降、ずっと上機嫌だった。
「雪ちゃんも引っ越し手伝ってね」
「はーい」
雪がそう返事をする。やっぱり仲いいじゃないかと思ったが,言うと怒られそうなので黙っていることにする。
「荷物結構あるのか?」
「全然ないよ。着替え少しとスケッチブックは持っていきたいかな」
幸からスケッチブックの話が聞けて少し嬉しくなる。
そんな話をしながら避難所を歩いていたら,
バチッ!!!
と,急に大きな音が聞こえて目の前が真っ暗になった。
突然の停電であった。
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