第20話 カレーとボッチな元カノ

「雪! 今日の食事は当たりだぞ!」

「兄さん子供みたい」


 今日も雪と食事にありつくため避難所に来ていた。


 本日のメニューはなんとカレーだった。

 俺は、レトルトじゃないカレーを久々に食べる感動でテンションが上がっていた。


「ほら、雪もいっぱい食べろって!」

「兄さん恥ずかしいって」


 二階の休憩スペースで食事を取る。

 今日も制服で来ていた雪は相変わらずここに来ると余所行きクールモードになっていた。雪もカレーは嫌いではないはずだが羞恥心が手伝ってか、あまりがっつり食べようとはしてない。


 ちなみに俺はおかわり二杯目、雪は未だに一杯目をちまちまと食べていた。


「あらあら、今日も仲良しさんね」


 そんな俺たちを見かけて、熊田さんが声をかけてきた。


「熊田さんこんちわー」

「こんにちは熊田さん」

「はい、こんにちは。私もご一緒してもいいかな?」

「「どうぞ、どうぞ」」


 雪と声がハモる。

 どこぞのお笑いトリオみたいなノリになってしまった。


「今日のカレーは私が作ったのよ」

「マジっすか。ホント美味しいです。サイコーです」


 もぐもぐと食べながら話す。


「あらら、そんなに喜んでもらえると嬉しいわね」

「兄さん、もう二杯も食べてるんですよ」

「いいじゃない、雪ちゃんもいっぱい食べてね」

「はーい」


 心なしか雪の表情も明るい。

 前から思っていたが、雪は熊田さん相手だとそんなに人見知りをしなくなる。


「そういえば、熊田さん今こちらで寝泊まりしてるんですか?」


 素朴な疑問をぶつけてみる。熊田さん宅がボロボロになってしまったから、雪の朝のべランダのやり取りはなくなってしまったからだ。


「いいえ、ちゃんと家に戻ってるわよ。いくらボロボロといえど、ちゃんとお部屋はあるからね。こっちだと落ち着かなくて」


 ニコニコと答える熊田さん。


「けど、今こうして考えるとベランダであんなことしなくても良かったわね。段々外に出るのも慣れてきちゃって今はこうして別のところにいるんだもの。そうしたら雪ちゃんたちとももっと早く仲良くなれたのにね」


 その件に関しては、俺も同じことを思っていた。

 想像以上に外に対して警戒しすぎていたのかもしれない。

 実際にここ数日は、毎日こちらの避難所に雪と徒歩で来ていたがその間の道で何か危険なことがあるわけではなかった。


 当初は、車の中にあった木刀を持ち出し警戒しながら歩いていたが、あまりにも何もなさ過ぎて正直拍子抜けの状態だった。


 今思えば、あの行軍もウソみたいな感覚に襲われる。


「さてと、私はあっちの家戻るわね。雪ちゃんたちにお皿のお掃除任せてもいいかしら」

「分かりました。兄さんと私に任せてください」


 しっかりと兄さんとを強調する雪。


「ふふっ。それじゃよろしくね」


 そう言って熊田さんは自宅に戻っていった。


「雪って熊田さんの前だと素直なのな」

「えっ? そうかな?」

「明らかに星野とは違うぞー」


 その名前を出した途端少し表情がむっとする雪。


「そんなことないと思うけどなぁ」

「熊田さんって亡くなったおばあちゃんに少し似ていると思わないか?」

「あー! 思った思った。だからかな? お話していると少し懐かしい気分になるんだ」


 ここでいうおばあちゃんとは俺のれっきとした血の繋がったおばあちゃんだ。


 俺の親父と雪の母親の花さんは新婚で二人で遊んでばかりいた。


 それこそ雪をほったらかしにしてだ。


 そんなときにいつも雪が預けられていたのが俺のおばあちゃんちだった。

 俺も子供のときは、親父が遊びだの飲みだのにしょっちゅう行くものだから、よくおばあちゃんちに預けられていた。

 そんな俺をおばあちゃんはいつも優しくしてくれてたし、そんなおばあちゃんが俺も大好きだった。

 

「ご近所さんだしなるべく熊田さんのことは助けてあげられるといいな」

「うん、そうだね!」


 俺がそう言うと、雪が笑顔で俺に相槌を打つのであった。




※※※




 雪と総菜コーナーの作業場でカレーの皿洗いをしていた。


「俺、食ったあとのこの作業一番嫌いかも……」


 なんせ、他の人の食べたあとも片付けているものだから数が多い。

 しかもカレーだからしっかりこすらないと汚れが取れず尚更時間がかかっていた。


「気持ちは分かるけど、きびきびやってよ兄さん」


 雪が隣で黙々と皿洗いを続ける。生真面目なやつめ。


「ごちそうさまでしたー」


 そうやってると星野が皿を置きにやってきた。

 ピクリと一瞬止まる雪。


「あれ? 歩と雪ちゃん今日は見ないと思ったら片付け当番だったんだ」

「まぁそんなところ」

「私手伝おっか?」

「いいよ、俺らの仕事だし」


 雪が隣でうんうんとうなずいている。


「ってか何でいつも星野は一人なんだよ」

「歩くーん。この前の約束はもう忘れちゃったのかな?」

「……幸はなんでいつも一人なんだよ」

「えへへー、よくできました。ご褒美に手伝ってあげる」


 そう言って無理矢理作業に割り込む星野……あらため幸。

 

「なんでって言われても、私今ボッチだもん」

「――そうなんですか?」


 珍しく雪が積極的に話に入ってくる。


「そうなんだよ~、住むところもないからここの居住スペース使ってるんだけど何かコミュニティみたいの出来上がってるから中々そっちには馴染めないし」

「へー、リーダーとは仲良さそうだったけどな」


 ここに来た初日のことを思い出す。


「ほら、溝口さんはリーダーやってるから色んな人に気を使ってるからさ。色んな人に声かけまわってて大変そうだよ。だから私だけ特別ってわけじゃないし」

「星野さんって明るいからお友達いっぱりいるものだと思ってました」


 雪が率直な感想をもらす。


「それがぜーんぜんなのよ。そういうわけで雨宮兄妹、そんな可哀そうな私と仲良くしてあげてね」

「はいはい」


 俺がそう言うと、雪も静かにコクンと頷いているのが見えた。

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