第16話 ふわふわの女

 星野 幸は俺と同級生だ。


 中学一年から同じクラスで隣の席だった。


 っていうか俺の中学時代はほとんどが幸の近くの席だった。


 何故か席替えをしてもいつも隣同士もしくは近場の席になってしまい、なし崩し的に話すことも多くなっていった。


 愛嬌があり、明るい性格で誰とでも友達になれるようなやつだったので、俺とも他のクラスメイトと同様にそれなりに仲良くなっていった。




※※※




「歩じゃん! シェルターに行ってなかったんだ」

「星野ちゃんの知り合いかい?」

「えぇ、そうなんですよ同級生で!」


 溝口さんと呼ばれた男と、星野幸がややテンション高めにそんな話をする。


「溝口さん、その男使えますよー。何かと器用ですし」

「おい! 余計なこと!」

「まぁ、星野ちゃんと熊田さんの知り合いなら無下にはできないねぇ」


 何やら我々兄妹を置いて話が進んでいく。


「おっと自己紹介がまだだったね。俺は溝口みぞぐち春樹はるきって言う者だ。ワケあってここでリーダー的なのをやっている。困ったことがあったら何でも言ってくれ」


「私は 星野ほしのさちって言います。まぁ、そこの歩くんは知ってると思うけど」


「……雨宮歩です」


「雨宮雪です。ご迷惑おかけしないように頑張ります」


 そんな傍で、熊田さんがニコニコと笑っている。

 言えねぇ……この状態で帰りますって言えっこない。


 そんな俺を横で見てか、雪が非難めいた目をこちらに向けてくる。


「あれ? 葉月はづきちゃんじゃなかったんだ。そうだよね、もっと大きくなってるはずだもんね」


 星野幸はそう俺に声をかける。

 こいつ、生半可にうちの事情を知ってるだけにやっかいな存在だ。


「……こっちは下の妹の雪。葉月はづきすすむは親父と一緒にシェルターに行った」

「へー、それで今は雪ちゃんと一緒にいるんだ。初めまして、よろしくね雪ちゃん」


 そういって、雪に握手を求める。

 星野は他にも色々聞きたそうな顔をしていたが、隣にいる雪に遠慮をしてかそれ以上は聞いてこなかった。


「はい、よろしく願いします、星野さん」


 雪も握手に応じる。

 星野の顔はニコニコと笑っていたが、雪の顔は笑ってはいなかった。


「今まで二人はどこにいたんだい?」


 溝口さんもといリーダーが俺たちに声をかける。


「えぇと……すぐ近くのアパートで二人でいまして」

「そうかい、兄妹二人だけじゃ大変だっただろうに」


「いえ、別にそんなことはありませんでした」


 何故か雪が食い気味に会話に割って入る。


「ふふふ、ホントに仲のいい兄妹でね」


 熊田さんがほほ笑みながらリーダーに話しかける。


「雨宮くんたちは寝室の確保は大丈夫かな?」

 

 リーダーが俺たちにそう確認をする。


「えぇ、近くにアパートがあるので寝るときはそちらに戻ります」


 そうかとリーダーが返事をする。


「ここでやっているのは、食料の分配がメインだ。あとは、帰るところがないやつの寝室とかそういったものを休憩室などを改造して作っている。まぁ、あとはこの前の行軍にそなえて施設の補強とかやらなきゃかな、雨宮君にはそっちの補強とかを手伝ってほしい」

「僕たちも食料分けてもらえるんですか?」

「もちろん。ただ働かざるものは食うべからず、それなりの労働力は提供してもらうからな」


 リーダーが俺にニヤッと話しかける。

 別に食料に困っているわけではないのだが、ここで分配してもらってうちのアパートの食料を備蓄に回すというのは悪い考えではなった。


「分かりました。作業があるときは言ってください」


 折角、紹介してくださった熊田さんの顔を立てるという意味合いもありその作業のことを承諾する。


「歩もここに出入りするようになるんだ。楽しくなりそうだね!」


 星野がニコニコと話しかけてきたが、俺にはそうは思えなかった。




※※※




「優柔不断」


 アパートに戻ってきてから、ずっとご機嫌ナナメの雪をなだめていた。


「あんな安請け合いしちゃってさ、仕事押し付けられてるじゃん」

「そうは言っても、あそこで断ると熊田さんの顔つぶれちゃうんじゃん」

「それはそうだけどさ、むー」


 避難所にいたときは表情がほとんど変わらなかったくせに、アパートに戻ってきてからはコロコロと表情が変わる。


「食料も分けて貰えるらしいし、とりあえずアパートの食料は備蓄にするようにしよう」

「ところであの女の人だれ」


 食料について話をふったが思いっきり無視される。


「あー星野のことか、ただの同級生」


 昔、付き合ったことがあるというのはあえて黙っておく。

 余計な詮索がされると面倒だ。


「ふーん。ただの同級生には見えなかったけど」

「ただの同級生以外に何があるっていうんだ」

「だって葉月さんのことも知ってたし、兄さんとも親しげだったし」

「そりゃ中一のときからの同級生だから、半分幼馴染みたいなもんだし」


 全く納得いってない様子の我が妹。珍しく大きな目が吊り上がっている。


「兄さんって、ああいう髪型ふわふわの女が好きなのかと思った」

「そんなんじゃないわ」

「ふーん」


 今日の雪は中々手ごわい。

 一向に引き下がる気配がない。


「で、明日はどうするの?」

「とりあえず食料はもらいにいくか。その後の作業とやらはリーダーの溝口さん?とやらに聞いてどうするかだな。嫌なら雪は来なくていいぞ」

「やだ、私も一緒に行く」


 そう、かたくなに言う雪。


「あーあ、引きこもり生活できなくなっちゃったね」


 一番俺にダメージがでることを雪が呟いた。

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