第13話 それは突然やってくる
「そこの皿は片付けておくからお前は休んどけって」
「はーい」
病み上がりの雪に無理をさせないため、家事全般を引き受ける。本人は大丈夫だと言うのだが、まだ一日しか経ってないため心配なのだ。
「あー、昨日も熊田さんに挨拶するの忘れちゃった」
「大丈夫だって」
布団に戻った雪が毎朝のベランダでのやり取りを心配する。
「まぁ心配はしてるかもな、俺あとで熊田さんの様子みてくるよ」
「えー、兄さんずっと傍にいてくれないの」
体調を崩してから雪の甘えん坊度が百パーセント増しになっている。
精神的にも大分まいっていたのかもしれないと思い、大目に見てやることにする。
「雪が寝るまではずっといるから」
「じゃあ寝ない」
聞き分けのない子供のように駄々っ子する。これはこれで困ったことになった。
「暇だから何かお話してよ」
「無茶ぶりするな、何もネタがねーよ」
「兄さんの学生のときの話とか聞きたい」
「何も取り柄がない普通の学生だったよ」
本当にその通りだったので自分で言ってて微妙に悲しくなる。
「ふふっ、兄さんっぽい」
「……お前それバカにしてるだろ」
「バカにはしてないよー」
「そういうお前は学校ではどうなんだよ」
俺の話をすると色々とやぶ蛇になりそうだったので雪に話をふる。
「んー?私も普通だったよ?」
「部活とかはどうだったんだよ」
「あー」
雪がちょっとばかりバツが悪そうに目線をそらす。
「部活は全然ダメでした」
「全然、部活の話題とかしてなかったもんな」
「だって、私もせっかく兄さんと同じテニス部入ったんだけどさ、何かチャラい人多くて」
「チャラい?」
「うん、すぐ誰と誰がくっついたーとかそんな話ばかりで」
「中学生の部活なんてそんなもんだと思うけどな」
かくいう俺も部活のときは、友人のそんな話ばかり聞いていた気がする。
「それでね、中二のときに一個上の先輩から告白されたときがあって」
「おっ」
突然、妹から恋バナが出て身内ならではの少しひやっとした気持ちがでる。
「お断りしたら、部活に行きずらくなってそのまま幽霊部員」
「なんで断ったんだよ」
「んー、かっこよくて人気のある先輩だったんだけど全然私のタイプじゃなかった」
「タイプじゃないって、そんな残酷な……」
哀れ先輩、顔も見たときもないその先輩に同情の念を抱かずにいられなかった。
「しょうがないじゃん、タイプじゃなかったんだもん」
「お前って案外面食いなのな……」
「そういうわけじゃないけど」
雪が少しむすっとした様子を見せる。
「私の話はいいじゃん! 兄さんはどうだったの?」
「だから何もないって」
「つまんない」
※※※
ピンポーン。
ピンポーン。
雪がようやく寝た後、俺は熊田さんのところにやってきた。
この前のお礼と雪が心配していたので朝の日課が来れなかったことについて話すためだ。
「あれ? 出ないな、出かけてるのかな」
なんとなく家庭菜園のある庭のほうにぐるっと回りこむも熊田さんの姿は見えない。庭いじりでもやってるのかと思ったが姿は見えなかった。
「寝てるのかな。しょうがない戻るか」
帰路に足を向けた時、念のためポケットに入れてあったスマホが大きく鳴った。
♪タラララララン♪
♪タラララララン♪
((緊急速報です緊急速報です))
不意の爆音にびっくりする。慌ててスマホを開く。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
<緊急速報>
避難勧告
発令内容:対象地域に避難勧告発令
理 由:感染者の行軍が対象地域を通過の恐れ
行動要請:対象地域のかたは落ち着いて避難してください。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「行軍ってどういうことだよ……」
急ぎ足でアパートに戻るのだった。
※※※
「雪っ!!」
雪のいる駆け足で戻る。
「兄さん、これどうしよう」
「起きてたか、良かった」
「こんなスマホの音聞いたら寝てられないよ」
先ほどの緊急速報のスマホ画面をこちらに見せる。
これからどうするべきか思案する。
考えられる選択肢は大きく分けて二つあるが、どれが一番雪に危害がないか考える。
一つ目は下の駐車場にある車に乗ってどこかへ避難すること。二つ目はこのままこのアパートでやり過ごすことだ。
大体、避難場所も書いていなければいつどこからその行軍が来るかなど速報には全く載っていなかった。
それにイラつきを覚える。
どうすればいい、どう動くのがベストか。
「兄さん」
雪がふと声をかける。
「兄さん、怖い顔してるよ」
「そうか?すまんすまん」
雪に焦っているのがバレてしまわぬよう笑いかける。
「私は兄さんと一緒にいられればそれでいいから兄さんの指示に従う、それでどんなことになっても絶対に兄さんのこと恨んだりしないから安心して」
「……それは責任重大だな。分かった」
そう言われて何か腹が括れた気がする。
そこから四、五分経っただろうか。なるべくリスクを避けるやり方はこれしかないと一つの答えが出た。その答えを雪に提案する。
「雪」
「はい」
「少し危険かもしれないが、ここでやり過ごすことにしよう
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