すり替え。

ボウガ

第1話

 未来のある機械技術にたけた国、その国の首都で起きた話。その郊外では、本当の内臓と、よくできたアンドロイドの内臓をすり替える“すり替え”なる犯罪が、貴族や上流階級の中で流行し、貧困層を対象として横行していた。そうしたものを求めるのは、特に金持ちである。“人のぬくもりが欲しい”というわがままな理想のために、内臓は闇で取引されていた。未来には病気であってもドナーが必要ではないのにも関わらずだ。というのもその時代脳意外の臓器は人工のものですべて代用できるようになっていたからだ。人間そっくりのアンドロイドが作れるほど技術は発達した、もともと、人間を超えるアンドロイドの創造すらもかつては目指されていたが倫理的問題から頓挫した。変わりに人間の平均値よりいくらか低いレベルのアンドロイドが製造され、一部の上流階級の人間に利用されていたのだった。


これはそんな時代の中に起きた悲劇の物語だ。


ある時、大企業Aの社長が大事にしていた子供型アンドロイドが誘拐された。社長と夫人は大騒ぎ、子供型とはいえ、彼を秘書としてつかっていたし、愛着もわいていたようだった。彼らの慌てようは周囲もそのためだと考えていた。自宅に警察が張りこみ家族とともに幾日も捜査が継続された。だが時間がたつにつれ、警察に対するその両親の言葉がおかしな罵声に代わっていった。

“早くアレをつれもどせ”

“あれには大事な役割があるんだ”

などと、まるで実の息子のようにかわいがっていた普段の様子とは似ても似つかない様子に周囲もいぶかしむようになっていった。


しかし犯人は、まったくコンタクトをとってこない。イライラの募る両親。そこへ今度は、彼の親友の大企業Bの息子が誘拐されたという話が入る。彼の息子の捜査も同じ警察署で平行して行われた。こっちの父親は、むしろ冷静だった、病弱だった息子は、時折心臓を特に痛めていたとか、金ならいくらでも出すから、妻が生きていたらとか(妻は事故死している)、命だけは無事に返してくるように頼むとか淡々と警察に対応した。警察がただ一人奇妙に思ったのは彼が冷静すぎたことと、

「死にはしない」

と確信じみた呟きを続けていたことだった。


だが、犯人からのコンタクトは一週間、二週間となく、手掛かりもなく、事件は迷宮入りするかに思われた。


そんなある日、ある郊外で、闇医者によって二人の子供の手術がおこなわれ内臓の取引が行われたという噂がたった。まさかと思い事件に関係する情報かもしれないと警察が急行すると、手術はその時すでにおわっており、子供たちは手術直後らしく麻酔で意識をうしなって、点滴でつながれある部屋でベッドに寝かされていた。あまりにもタイミングがよく、すぐに警察はこの噂が、この犯人によって意図的に流されたという説を仮説建てた。


そして闇医者を厳しく問いただした。だがこの闇医者、闇医者の中では、実績があり、そもそももともと医師免許をもっていたが、倫理的におかしな実験などを繰り返し医師免許をはく奪された人間だった。しかし、その品性や倫理観はむしろ闇医者の中ではまともであり、かつ極めて人がよく供には手をださないし、無茶な事をしない事で有名だった。警察との仲も悪くはなかったのだ。闇医者に警察が何があったかを尋ねる。

「おい!お前らしくない、なぜ子供に手を出したんだ」

と問うと、彼は

「今はいえない、“彼”は、お金だけをよこして手術を要求した、これは義賊の犯行なんだ」

というばかり。


 外傷もなく、麻酔が覚めるまで様子をみようという判断で、仕方なく警察は二人の子供を別の病院に移し、二人が目覚めるのをまった。すると子供たちは、意外にも両方ともけろりとして、元気な様子を見せた。病院での検査の結果“臓器に一切の異常がないことが明らかになった”


闇医者への取り調べの結果、彼がいうには“本来あるべき場所に臓器、心臓を戻した”という。彼はそれからしぶしぶ、深層を語りだしたのだ。そもそも初めから、臓器、心臓は入れ替えられたのだと。大企業Aの社長が、大企業Bの社長の子供の心臓をいつの間にか盗み自分の子供型アンドロイドのものとしていたのだ。すぐに彼はつかまり、取り調べられた結果、さかのぼること10数年前、かつてその社長は大企業Bの新入社員だったころにこの計画を立て、思いついたのだと暴露した。その時カルトに入信していてその教義に今も従っているのだという。だが理由はわからず、警察は金持ちの趣味としての犯行だろうと片付けつつあった。そうして事件はいったんの終わりをみせたのだった。だが、このカルト宗教の真相はわからずにいた。


 その数週間後、やがてこの誘拐犯も自分から警察に出頭した。調べの結果彼は大企業Aにかつて務めていた社員だった事もわかる。そして彼はあっけなくすべての事実を暴露した。なぜこの誘拐犯がこの事実を暴露したかというと、この誘拐犯自身もかつて、内臓、肺を片方盗まれていたからだったという。

「私は、彼らの不正を暴くために今回の事件を起こした、彼らはカルト宗教だ、しかし子供に罪はない、だから内臓をあるべき場所に移したのだ、こうして彼らの不正を暴露できたので私は出頭した」

「“彼ら?”」

彼が出頭してから、警察は念入りに情報を調べ上げた、するとさらに恐ろしい事実が浮かび上がってきたのだった。そしてなぜ、彼が誘拐をして、あの闇医者が彼を義賊だといったのかという事も理解できた。


 かつて大企業のB社長が、そもそも件のカルトを発足し、その教祖をやっていたのだという。警察の一部もこのカルトを黙認していたという話さえもでてきた。そのカルトは信者の臓器を盗み、時には無関係な人間の、知的な人間の臓器を人知れず、あるいは堂々盗み資金を得ていたのだという。


 ではなぜ、AとBの社長は、結託して、あるいはB単独で人の内臓を盗む事を決めたのか。これは何のためのカルト宗教だったのか。これはB社長の逮捕と取り調べによって徐々に明らかになっていく。実は彼らには、世間に秘密にしている突拍子もない、しかしすさまじい技術をもっていた。それはかつて封印された、アンドロイドを利用して、人の内臓から“記憶”を盗みだすという技術だった。アンドロイドを法的にグレーな方法で改造する、するとそのアンドロイドは臓器に移植された情報を、言語化し、抽出できたのだと語る。彼に言われた通り、動物を利用した調査の結果、それは確からしい事がわかり、つまり彼らは人から“情報や記憶”を盗みとるために彼らの内臓を利用したらしいのだ。そうして彼らはライバル企業やら、知的な人間の内臓から情報を盗みとっていたのだという。


 信じられない話だが、現代でも、人の内臓を移植した人間が、ドナーとなった人の記憶や個性を受け継ぐ事があるという話もあるように、この時代、彼らは、それはもっとはっきりとした情報として読み取る方法があるという事を発見して、それを実行していたのだった。


 もちろんこの事件で、一番迷惑な想いをしたのはこの大企業の息子だった。まだ中学生だったが彼は、調べによると小学生の頃に知らず知らずにB社長の友人のA社長に心臓をぬきとられていたのだ。


それもさかのぼること、10年以上前に、父親がカルト宗教をたてて、Bに技術を教え、そして結託して人さらいをしたからだ。Bはそれを模倣したのだった。


 そもそも、なぜB社長がカルト宗教をたて、大胆な計画をたて実行したのか。彼いわく、かつて人々が技術的特異点を嫌悪して、ロボットを人間を超える知能を持たないように制限をかけたことで、かつてその関係の会社で働き、自分の特異分野だった知性的ロボットの開発が断念された。そのことでB社長は人を憎むようになった、そして、その成果としてこっそり計画していた、“人の内臓から記憶を盗む技術”だけが手元に残ったのでこれを利用することを考えていた。しかしそれも、人間のつくった倫理観に邪魔をされ、異端として扱われ、相手にされなかったので、現実に利用しうる技術として利用されることも普及されることもなかった。自分は歴史に名を残す機会を失ったのだ。という。


そもそもこの社長も、取り調べを受けるうちに奇妙な事をいいだし、もともと自分が専門分野の知識を得たのも、あらゆる発明を得たのも、子供の頃に悪魔と契約したからだと言い出す始末。そしてその悪魔には息子の内臓を差し出す契約をしたのだと、たしかに彼は成功したが、自分が悪魔と契約した“歴史に名を残す”ことはかなわなかったのだと不満を垂れた。この話の真相はもちろん誰にもわからず、定かではないが、“内臓が盗まれ情報を読み取られる”という気味の悪い事件として、人々は震えあがった。


その後、A社長の余罪も世間に判明した。カルト教祖時代に、件の技術を使い多くの人間の内臓をうばい、奪った記憶と知識をもとに、彼の企業を大きくしていったのだということも、巷を脅かす大ニュースとなって報じられた。


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すり替え。 ボウガ @yumieimaru

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