第2話 君臨

次に目を覚ましたとき、散らばっていた食い物は片付けられ、いい匂いのする草と透明な水が置かれていた

天井は薄い布で覆われ、外からは人間の話し声がわずかに聞こえてくる

オレの家より居心地が良いように思えた

一つずつ状況を整理しているのは、目の前にいる小さな人間から気をそらす目的もある

先程から、顔を変な風に歪めながら、やたらとオレに話しかけてくる

言葉はもちろんわからない

だが何度も3つの音を出すのだから、これが鳴き声なんだろうということはわかった

たまに2つの音を出すとき、しゃがれた二人も似たような色を伴って決まった3つの音を出していたことを思い出す

いつか意味がわかるのだろうか


景色が変わってからどれくらい経っただろうか

ここは暑い日がなく、たまに少し寒いなという日は厚い板に近づけば問題がなかった

草でできた行き止まりのトンネルは体を丸めて寝るのにちょうどよく、腹が空けばそのまま齧れるのもいい

毎日綺麗な水が飲めるのも、真新しい草が食べられるのも気に入っている

初日と比べても随分と居心地の良くなったその空間は、オレの新しい家と呼んでやってもいい

いや、なんなら城と呼んでやっても良いとまで考えている

オレが甲高くひと鳴きすれば慌てた様子で薄い黄緑の瑞々しい茎を持ってくる

何口か囓れば満足なので踏みつけて脇に放置する

そうすれば勝手に人間が回収していくのを知っているのだ、あらかたオレの食べ残しを有難がっているのに違いない

王様にでもなったかのような気分だ

少し家を留守して散歩に出掛ければ、その間に清掃が完了している

特別うまい草を食べている間に爪が短くなったのはなにかの魔法だろうか


小さい人間も、たまにだが赤くて美味いのを寄越す

オレはあの赤いのが好きだ

いつもコソコソと食っているので、オレを共犯にして罪を免れようとしているのだろう

仕方のないやつだ

頭に触れる不敬も許した

1度気持ち良くなって目を閉じてから、同じリズムで触れてくるのだから、オレでなきゃ堕ちてしまうところだった

本当に、仕方のないやつだ

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