#「遥か彼方、覚める事のない空の向こう側に。」

@itihara_kyabetsu

完全版

……最初に……

はじめまして、市原きゃべつです。はじめましてじゃない方は、久しぶりだなァ…!私がム〇カ大佐だ。あなたがこれを見ているということは、今頃僕は……はい、ちょっとやってみたかったです。やめて、だまって。そんな冷たい目で僕を見ないで、、興奮してくrrrr……はい。調子に乗りましたね。さて、今回の物語ですが以前からまっつんの様な渋カッコイイキャラクターを作りたかったのですが、それがようやく叶いました。そして、まっつんを全身全霊で演じてくれそうな演者といえば僕の中ではAsh(@waruikoe)しかいなかったのでAshにキャラクター性を寄せてみました(?)。作中で普段彼が使いそうな言葉遣いだったり、こだわったシーンがいくつもあるので彼を知っている人は是非、探してみて下さいね。


毎度の事ながら、注意喚起等はありません。

配信内で使ってもいいし、アドリブを沢山入れても構いません。ただ、一緒に演じる方の迷惑にならないよう、例えば配信前に相談する等してみんなで決めて下さい。


「こういった風に解釈して欲しい」なども特にありません。無限の解釈があると思っているので、好きなように表現して、好きなように読んで見て下さい。物語が歩いていく上で、作者だろうが神様だろうがそれを咎める権利はないと僕は思います。


僕の物語の数少ない訪問者のあなたが、ごゆるりと過ごせるように祈っています。


……登場人物……

松田魁星 ♂

age 27。

本作の主人公。適当を好む性格、言葉遣いや気遣いを最低限度は守るが殆どの場面でしない。過去に割り切れない程の大きなトラウマがある。忌み子を人間扱いしない世間が大嫌い。


なつき ♂

age 11。

忌み子、世間に追われ各地を転々としている。ひねくれた性格だが、仲間想いのいい奴。


るり ♀

age 11。

忌み子、世間に追われ各地を転々としている。元気で明るい性格だが、根は気の弱い子。


坂口緋衣菜 ♀

age 25。

ホープの捜査官。”楽しく忌み子を裁く”事を心掛けている。


北塚大志 ♂

age 25。

まっつんの同期。よくまっつんに絡む。女遊びをよくする。

京華と兼役。


立花京華 ♂

age 30。

ホープの捜査官。実は重度の機械オンチ。まっつんと過去に繋がりが……?


椎名茜 ♀

age 30(去年)

ホープのエージェント。6年前にとある事件で死亡している。男勝りのワイルドな性格。


配下a ♀

age 不問。

茜役と兼役。


キャスター ♀

age 不問。

茜役と兼役。


……Prolog story……

こちらは本編の番外編です。合わせて読んでも読まなくてもどっちでも大丈夫です。


魁星M:”あの日”から、堕ちてばっかの人生だ。


0(都内、居酒屋にて)


魁星「ああぁぁあ」

大志「おい、まっつん。ちょっと飲み過ぎじゃないか」

魁星「…たまには、こうゆう日があっていいだろ。そんな気分なんだ」

大志「そ、そうかぁ?」

魁星「(ため息)…………なぁにやってんだろうなぁ、俺。だっせーの。」


0(場面転換)

0(帰りにて)

0(大雨の音)


大志「うっわ!すげぇ雨風!そういや台風来てんだっけかぁ……おい、まっつん!?」

魁星「……あぁ?」

大志「傘もささずに、なにしてんだよ!」

魁星「タクシーで帰りゃいい、平気だ」

大志「平気って……」

魁星「……んだよ。雨うるせぇなぁ。」


……本編……

魁星『遥か彼方、覚める事のない空の向こう側に。』


0(大雨の音)

0(2022年、都内の外れのとある教会前。)

0(墓標の前に立つ魁星)

0(”椎名茜”の墓を、無気力な目で見つめる魁星。傘をさし煙草を吸っている)


魁星「……(煙を吐く)」


魁星M:いつからこうなっちまったんだろう。

魁星M:いいや、”違う”か。

魁星M:最初からこうなる運命だったのかもしれない。


魁星:「なぁ、先生よ。テキトーにしか生きれない俺は、どう生きるのが正解だったんだろうな」


0(間)

0(雨の音だけが鳴り止まない)

0(場面転換)

0(小雨の音)

0(同じく2022年、時刻は16時頃)

0(東京都板橋区にて)


キャスター:「昨日夜20時頃、東京都渋谷区にある佐野パークタワーの1室で”呪怪(じゅかい)”を発症したとされる忌み子が暴動を起こし。6名の重傷者と13人の怪我人を出した事件が発生しました。加害者の忌み子は現在も行方をくらませており、現在も警察は100人体制で捜索を続けています。周辺に住んでいる地域の一般市民は警戒体制を怠らないよう、呼びかけると共に……」

大志「うぇ〜!やになるねぇ。世の中さぁ?”忌み子、忌み子”って。物騒ったらありゃしないぜ。なぁまっつん?」

魁星「(ため息)」

大志「まっつん?」

魁星「その呼び方をやめろ。ここで下ろすぞ」

大志「んだよ。釣れねぇなぁ、、乗ってくれよぉ世間話くらい。なぁってば」

魁星「……」

大志「ちぇっ。ノリわりーの!世間は”忌み子”の騒動で持ち切りだし、天候は梅雨真っ只中でさぁ、オマケにまっつんは全然かまってくれない。鬱になりそおぉ〜。あ、りんちゃんメール返してくれたかなぁ…っと」


0(大志、くつろぐ)


魁星「お前ドラレコに声入ってるからな。てか、また出会い系かよ」

大志「お前もどうだよ?けっこうマッチングしやすいんだぜこれ」

魁星「会社に報告してやろ。」

大志「おおい、待てよまっつん!減給だけは嫌だぞ俺!」

魁星「うっせぇ。黙って乗ってろクソ野郎」

大志「えぇ……」


0(間)


魁星M:世界から魔法が消えて数世紀。

魁星M:人類は進化し続ける科学と共に、平和な生活を取り戻した。……らしい

魁星M:魔法ってのはなにかというと、ゲームとかアニメでよく見るいわゆる”アレ”だ。ほら、火吹いたり雷を意図的に降らしたりっていうの。

魁星M:これもおかしな話なんだが、本当に魔法が人類にあったらしい。なんでも魔法が原因で内乱や戦争が起こったんだとか。


0(場面転換)

0(ゴミ捨て場につく)


魁星「よし、ついた」

大志「げぇ…すっげぇ、雨。濡れたくねぇ〜」

魁星「そうもいってられないだろうが」

大志「はいはい。これ終わったらよ。コンビニで飯買いに行こーぜ」

魁星「おう」


0(間)


魁星M:ある日。

魁星M:一般市民が魔法の覚醒遺伝とされる”呪怪”と呼ばれる怪病にかかった

魁星M:自我を保てなくなり暴徒と化したそいつは、大勢の死傷者を出す大事件の引き金となった。翌日に警察と自衛隊が協力して事の解決には至ったが、その事件を皮切りに各地で呪怪を発症する者が現れ始めた。

魁星M:結果、世界中が大パニックに。

魁星M:呪怪を発症した彼らは”忌み子”と呼ばれ世間で恐怖の象徴となった。


魁星「ほんと、クソッタレな世界になったよなぁ」

大志「ん?なんか言ったか?」

魁星「なんでもねぇ」

大志「そーか。これで最後だな。よいしょっ…っと!よーし、飯買いに行くぞぉ!!」


0(大志、ゴミ袋を収集車に入れる)

0(手をパンパンと叩いてホコリを払う)


魁星M:そこで人類は、忌み子に備える武器や対策を行う忌み子専門の特殊警察組織”ホープ”を結成し…。あーだこーだあってだな。

魁星M:兎に角。人類はいつ呪いを発症するか分からない恐怖を抱えながら生きなきゃならなくなった。


0(コンビニを目指す大志と魁星)


魁星M:まぁそんな怯えながら過ごしてもどうしようもないわけで。

魁星M:呪怪だろうがインフルだろうがかかる時はかかるし、死ぬ時は死ぬ。

魁星M:俺にとっては、どうでもいい話。


魁星「(欠伸)」

大志「あらどうした。眠いのかい?」

魁星「煙草吸いてぇ」

大志「ははは、そーか。じゃあ一服やってくかぁ」

魁星「おい、まて北塚」

大志「んぁ?」

魁星「あの橋の下、誰か倒れてる」

大志「あぁー?なんだって?」


0(河川敷の広場が)

0(そこには2人の人影が見えた。)


魁星「なんだあいつら……」

大志「よせよせ。大方、どっかで万引きでもしたクソガキだろ。マッポでもまいてんじゃねぇのか?普通に雨宿りしてるだけかもしれねぇけどさ。いずれにせよ…”触らぬ神に祟りなし”ってやつd……っておい!」

魁星「倒れてんだったら、放っておく訳にもいかねぇ。」

大志「へいへい。真面目さんなこってぇ」


0(2人、橋の下へ向かう)

0(場面転換)

0(どんどんと雨が強くなっている)


なつき「るり。大丈夫か?今包帯を変えた。少し待ってろ。食べれる物を盗ってくるから」

るり「な、つ…」

なつき「どうした。」

るり「置いて、いかないで……」

なつき「大丈夫だ。すぐ戻ってくる」

るり「あ。うぅ…」

大志「まっつん。こりゃただゴドじゃなさそうだぜ」

魁星「…ああ」

なつき「……っ!?お前らは!なんだ。」

大志「そっちこそ、そんな所でなにやってたんだ?その子は…」

なつき「オマエには関係ない!」

大志「いや、いやいや。ちょっと待てよ少年!!」

なつき「僕たちに近づくな!一歩でも近づいたら…ころすっ!」


0(間)


魁星M:そこには、2人のガキがいた。

魁星M:顔つきから見て10、11歳くらいだろうか。内1人は血相を変えて倒れている。…重体だ。あとの1人は重体のガキ程ではないが、左腕に大きな傷をこしらえている。


魁星「…!待て。んな事よりこいつら。」

なつき「……(睨む)」

大志「どーする、まっつん」

魁星「北塚。頼みがある」

大志「なんだ」

魁星「お前は会社に戻って、報告してこい」

大志「まっつんは?」

魁星「俺がこいつらをなんとかする。」

大志「はぁ?なんとかって?」

魁星「ただの応急処置だ、早く行け。時間が勿体ねぇ」

大志「あ、ああ!あとでな!!」


0(大志、車に戻る)


なつき「なにを話してる!!」

魁星「おい、クソガキ」


0(魁星、2人の元へ足を進める)


なつき「こっちに近づくな!おい…!警告はしたはずだぞ!」

魁星「……(黙って歩みを進める)」

なつき「あああああああああ!!!」

魁星「ふんっ…!」


0(なつき、襲いかかる)

0(魁星、瞬時になつきの頭を地面に叩きつけ、押さえつける)


なつき「ぐあっ!!くそ。なんだ、離せよ!離せえぇ!!ころしてやるっ!!」

魁星「暴れるな!話を聞け。俺は敵じゃない」

なつき「なんで僕が、お前なんかの話を聞かないといけない!」

魁星「いいから聞けって!」

なつき「はなせえぇ!!クソジジイ!!!(暴れる)」

魁星「お前ら、忌み子だろ。」

なつき「は。どうして、その事をオマエが知ってる」

魁星「大方兄妹で呪怪を発症して、どっかから逃げ出してきたんだろ。まだ初期症状みたいだがな」

なつき「…だったら、なんだ。僕たちをどうするつもりだ!また暗い場所に連れていくのか」

魁星「んな事しねぇ!…その、なんだ。うちに来い。手当してやるから」

なつき「はぁあ!?何言ってる!信じられるわけがないだろ!!」

魁星「じゃあここでくたばんのか?言っとくがそこで伸びてるガキは、死ぬぞ。ちゃんとした応急処置をしなければな。傷の化膿が酷い」

なつき「うるさい!!僕がなんとかする!!オマエはこの手をどけろ!」

魁星「はっ。手段なんて選んでる暇があるか?力じゃ勝てない大人を前にして……このままじゃそいつは死ぬし。俺が政府に連絡すればお前らはパクられるんだぞ。」

なつき「卑怯なやつ…!」

魁星「俺より卑怯な奴はごまんといるさ。マシな方だよ、お前らにも益があるんだから。……すぐ向かうぞ。幸い俺んちはすぐ近くなんだ。」


0(魁星、手を離す。そのままるいを抱える)


なつき「意味が、分からない…」

魁星「あ?」

なつき「なんで僕たちにそこまでするんだ。お前らにとって忌み子は…人間じゃないんだろ」

魁星「……」

なつき「答えろ。何が目的だ。見返りは」

魁星「クソガキが。背伸びしたような事聞くな」


0(間)

0(場面転換)

0(都内某所、廃ビル中にて)

0(下は血の池になっている)

0(数人の忌み子の死体が)


緋衣菜「んー。雨が、強くなってきましたね。どうしましょう、雨具は持ってきてないのですが。」

部下A「八代様。こちらも片付きました。車を向かわせましたので。もう少々お待ち頂けるでしょうか。」

緋衣菜「ありがとうございます。気が利きますね、あなた」

部下A「それが私の仕事でございますので。それよりも八代様。」

緋衣菜「はい?」

部下A「雨具どうこうより、服に付いている血の方が気になります。要らぬ心配かもしれませんが……」

緋衣菜「あら本当だわ!何故かお仕事の度に忘れてしまうんですよねぇ。これも頑張っている証拠なのでしょうか」

部下A「最近の仕事数は、日に日に増えていく一方ですからね。たまに休日をとるのもお忘れなきよう」

緋衣菜「大丈夫です。私このお仕事、とってもとっても好きなので!!」

部下A「…八代様、どうやら丁度今車が到着したようです。向かいましょう。こちらの現場は、使いの方が処理いたしますので。」

緋衣菜「はい、了解です。」


0(歩み始める緋衣菜)


緋衣菜「ふふ。ふふふ。めいっぱい”断罪”してあげましょう。死は、救済なのです。」


0(間)

0(場面転換)

0(板橋区、魁星の家にて)

0(手当を受けたなつき)


るい「(傷が痛む息遣い)うっ!!…なつ」

なつき「るい!大丈夫か!?」

魁星「平気だとは言わねえが、命に別状はねぇ。ともあれ時間が一番の薬だ。安静にさせとけ」

なつき「ああ、分かった。」

るり「なつ。ありがとう」

なつき「…僕じゃない。」

魁星「おいガキンチョ。お前の方も、傷を見せてみろ」

なつき「いや、僕はいい。るりが心配だ」

魁星「(舌打ち)いいから見せろ。意地を張るな意地を。」

なつき「必要ない!お前なんかに手当して貰わなくても自分で……!」

魁星「おら(魁星、なつきの腕を触る)」

なつき「いってぇ!!くそやろう!オマエ急になにするんだ!!」

魁星「だあぁあ!!うっせぇな!いちいち叫ぶんじゃねぇ!」

なつき「ころすっ!!!」

魁星「手元狂うぞコラ!(無理やり手を抑える)」

なつき「ばっ!!お前ェ…!!」

魁星「黙ってろ。傷は深い。細菌が入れば最悪腕を切断することだってあるんだぞ」

なつき「……」

魁星「…ったく。最初から大人しくしてりゃあ……」

なつき「……どうして」

魁星「あ?」

なつき「どうして、そこまでするんだ。僕たちは”忌み子”だ。次にいつ呪怪の症状が出るか分からない。お前ら人間にとって、怖くて。存在するだけで、許せないんだろ?」

魁星「……(黙って作業を続ける)」

なつき「何とか言ったらどうなんだ、人間……」


0(魁星、手を止めて、なつきの目を見て答える)


魁星「いいかクソガキ。俺はちっとも怖くねぇ。てめぇらが人類の敵”忌み子”だとしてもだ。そんじょそこらの近所で遊んでるようなガキンチョと何が違う?」

なつき「それは症状が出てないだけで!」

魁星「こんな小せえガキ。症状が出たところで何もできやしねぇよ。調子に乗るな」

なつき「……お前は、馬鹿だ。…………こんな馬鹿な大人、今まで会ったことがない。」

魁星「ほら、終わりだ。(最後に包帯を縛る)」

なつき「いって!!!オマエやっぱ嫌なヤツ!!オマケに馬鹿だ!!」

魁星「だから、急に叫ぶなってよ……」

なつき「僕は知ってる!忌み子を家に匿ったら、どうなるのかを。僕の友達が言ってたんだ。”呪怪”は、人から人へ感染する。だから呪怪を発症した時そばいたやつは、一緒に死刑にされるって」

魁星「難しい事をよく知ってるもんだな」

なつき「もし僕たちが捕まったら、道ずれにでもなるつもりなのか、オマエは…」

魁星「あのな、そんなの迷信だ迷信。感染なんかしねぇよ。世の中の薄汚ぇ大人たちはさ、自分の保身のためなら嘘だって吐くし、なんだってやる。自分がよけりゃそれでいいって考えてるクソ野郎しかいねぇんだよ」

なつき「……」

魁星「とりあえず、お前らの傷が治るまでは好きにろ。その代わり、俺もここに住むからな。ホテルとる金の余裕もねぇ」


0(魁星、ベランダへ向かう。)


なつき「おい、どこに行くんだ」

魁星「煙草だ煙草。そこのガキの面倒でも見てろ」


0(間)


なつき「あいつは、なんなんだ?どうして僕たちなんかに…」

るり「なつ…」

なつき「なんだ?」

るり「わたしたち、助かる…?」

なつき「大丈夫だ。とりあえずはな。何かあったらすぐ逃げればいい。オマエは休んでろ」

るり「うん…わかった。」


0(間)

0(場面転換)

0(ベランダにて)


魁星「ったく。どいつもこいつも…(ため息)本当の悪魔はどっちだってんだ。」


0(煙草を吸い始める)


魁星「……」


0(ふと昔の事を思い出す魁星)


魁星:「そーいや。昔もこんな事あったかな。…はは。懐かし」


0(間)

0(場面転換)

0(とある墓標の前に立つ京華)


京華「……」

部下a「やはりここにいましたか、立花さん」

京華「命日なんだ。先生のな。どうした」

部下a「八代様より伝言です。”今から支部に戻ってきて”と。任務の打ち合わせだそうです。」

京華「それだけの為に俺を探していたのか?メールか電話を入れればよかったろ」

部下a「携帯をお持ちでないようだったので……」

京華:「……忘れてた。気を付ける」

部下a「はい。外で車が待ってます」

京華「ああ」


0(間)

0(場面転換)


魁星M:そうして俺とクソガキ2人との共同生活が始まった。

魁星M:最初はめんどくせぇ事も多かったが。

魁星M:慣れとは怖いもんで、数日経つ頃にはこのガキンチョ共もすっかり馴染んじまったようだ。

魁星M:気付いた頃には、3週間が経っていた。


0(場面転換)


るり「オッサン!!オッサンオッサンオッサン!!」

魁星「随分と元気になったなおい」

るり「オッサンはどうしてオッサンなの!?」

魁星「……オッサンだからだ。」

るり「へぇ!」

魁星「名前はちゃんとあるからな」

るり「オッサンにも名前があるの!?」

魁星「オッサンをなんだと思ってやがる」

るり「るりは、るり!こっちはなつき!」

なつき「おい、勝手に……!」

るり「オッサンは?聞かせて」

なつき「…聞いてやってもいい」

魁星「松田魁星だ。」

なつき「かいせい……?」

るり「変な名前ー!」

魁星「ほっとけ。」

なつき「かいせいのオッサン。はらへった。なにかないか」

るり「るりもへったー!なにかないか!」

魁星「あぁ?そこら辺にあるもん適当に食えよ」

るり「カレー!ハンバーグ!オムライス!」

なつき「…麻婆豆腐」

魁星「は?」

るり「にく!!」

なつき「すし」

魁星「……」

るり「ねぇーえ?かいせいオッサン!まだー?」

なつき「かいせいのオッサン、非常事態だ。頼む。」

魁星「やっぱ追い出してやろうかな。こいつら。…買い物に行ってくる。ここで待ってろガキンチョ共」

るり「やったー!」

なつき「はやくしてくれ」


0(数日後)

0(台所にて)


なつき「かいせい、こうか?」

魁星「そうじゃねぇ。いいかガキンチョ。まず左手は猫の手で抑えろ」

なつき「ああ」

魁星「そして、一緒に切っちまわない様に気を払いながら…こうだ。やってみろ」

なつき「ねこの、手。で……ふんっ!!」

魁星「おい!なんて高さから包丁を落としてる?」

なつき「え?じゃないと、切れないだろ。」

魁星「もういい。座って待ってろ」

なつき「あ、ああ」


0(場面転換)

0(居酒屋、カウンターにて)


大志「ははっ!それでそれでぇ?その後はどうしたんだよ?」

魁星「バカにしてんだろ、北塚お前」

大志「してねぇって!……まさか、あのまっつんがねぇ?」

魁星「あー。それでだな、実はそのガキ共が忌み子だったんだが」

大志「ぶーーーっ!!(口に含んでいた酒を魁星にかける)」

魁星「おいクソ野郎、汚ぇぞ!!」

大志「お、おおおおい!まっつん!」

魁星「あ?」

大志「な、なんてもん拾ってんだよ……!?」

魁星「なんか問題あるか?仮に襲いかかってきたとしてもあんな小さいの。モップで返り討ちだ」

大志「そ、そーゆー問題じゃねぇだろ!まっつん!…わりぃことは言わねぇ!捨てちまえ!それかー!こっそり政府にチクるとか……!このままだとよ。まっつんの身にまで何があるか……」

魁星「知るかボケ。俺にとっては自分の目で見て、耳で聞いたもんだけが全てだ。社会常識とか知らん。」

大志「お前よく就職できたな……いや、そうじゃなくだな!親代わりにでもなるつもりなのか?忌み子のよ!」

魁星「……うちにそんな余裕はねぇ。傷が治るまでだ」

大志「なぁ、まっつん。俺は心配して言ってるんだぞ?今世間にとって忌み子っていうのはな!」

魁星「やめろやめろ、その手の話はもううんざりだ。たかがガキ相手に怯える必要はねぇよ。」

大志「話通じねぇ〜。一方通行だぞこれじゃあ!」

魁星「あ?」

大志「ほんとまっつんはさ。意地っ張りっていうか頑固ってゆーかよ…(机に突っ伏す大志)」

魁星「頑固で悪かったな。余計なお世話だ」

大志「なぁ、まっつん…じゃあ最後に一つ教えてくれ。なんでそんな面倒事持ち込んだんだよ…?らしくもねぇ。」

魁星「俺は……。自分でも分からん」

大志「そーか」

魁星「”昔の俺と似てたから”…かもしれないな」

大志「……」


0(グラスの音)

0(魁星、虚ろな目で氷を眺める)


魁星「大体ガキが、そんなもん背負う必要はないはずなんだ。」

大志「まっつん……、」

魁星「…今度はなんだ。」

大志「……飲み過ぎて吐きそう、あとの事は頼んだ」

魁星「は?」

大志「うっぷ。……うっ、」

魁星「おいてめぇ!このクソ野郎!!」

大志「(自主規制音。……好きに演じてください)」


0(間)

0(場面転換)

0(同時刻)

0(魁星、自宅にて)

0(本を読むなつき、絵を描くなつき)


なつき「なぁ、るり」

るり「なに?なつ」

なつき「いつまでここにいるつもりだ。かいせいの家は、いつまでもいられる訳じゃない。そろそろ考えないか」

るり「やだ」

なつき「…どうしてだ」

るり「べつに。このままでいいよ。一緒に暮らせば。」

なつき「そういう訳にもいかない。僕たちは、本来ここにいてはいけないんだ」

るり「いやだ」

なつき「って言ってても仕方ないだろ?るりだってわかってるはずだ。いつかは、この生活にも終わりが来るんだ」

るり「なつだって、分かってるはずだよ!あのオジサンは、施設にいたおとなのひとよりずっとずっといいひとだって!!優しいひとだって!!だから……ずっと一緒にいよう?なつき」

なつき「僕だって、願うことなら。このままでいたいよ。でも、駄目なんだよそれじゃあ。」

るり「いーやーだ!!」

なつき「どうして分かってくれないんだよ!」

るり「なつこそ!!」

なつき「僕たちは”忌み子”だ。化け物なんだ。どこまで行っても、結局…!」


0(チャイムが鳴る)


なつき「ん?」

るり「オジサンが来たんだよ!るり、行って説得してくる!」

なつき「おい、勝手に出るな…!」


0(扉を開ける)


るり「かいせいのオジサン!!あのね!」

緋衣菜「あら、子供……でしょうか。」

るり「だれ…?オジサンじゃない」

なつき「るり!」

緋衣菜「ふ。ふふ、ふふふ。そういうコト、ですか。粋なことしますね、あの人も。」

なつき「……!!」


緋衣菜「はじめまして。可愛い可愛い忌み子さんたち。おまわりさんです」


0(緋衣菜、2人に笑いかける。)

0(間)

0(場面転換)

0(魁星、帰路にて)


魁星「あー、気持ちわる。くそ……。調子に乗って、飲みすぎちまったな。……そういやガキンチョ共は……あぁ、なんか買ってやるか。」

緋衣菜「”先輩”。大事なものは、ちゃんと守った方がいいですよ。また、壊れちゃいますから」

魁星「あ?」


0(魁星、振り返るがそこには誰もいない)


魁星「誰だ!?どこから!!…飲み過ぎて、幻聴が。とかじゃないよなアレ。確かに今。俺の素性を知っているのか?それに……」


0(魁星、走り出す)


魁星「っ…!」


0(間)

0(場面転換)

0(魁星、自宅にて)

0(扉を開ける)


魁星「ガキンチョ共!!!」


0(なつきとなつきはいない)


魁星「なつき、るり!!どこだ!返事をしろ!なぁ、おい!!…くそっ!!」


0(壁を叩く)


魁星「やられた……!!」


0(テーブルの上には置き手紙が。)

0(間)

0(場面転換)

0(ラミエルサール協会前)

0(墓場の前にて)


緋衣菜「また、雨……ですか。やはりこの時期は嫌いです。梅雨が早く終わればよいのですが……」

魁星「……はぁ、はぁ。」

緋衣菜「あら、さっきぶりです。」

魁星「おいクソ女…どういうつもりだ」

緋衣菜「はい?」

魁星「とぼけてんじゃねぇ。あいつらは。ガキ共はどこへやった…!」

緋衣菜「松田さん、貴方にはがっかりしました。”白鬼”と恐れられた貴方が。まさかこんな犯罪行為をしていたとは」

魁星「あ?」

緋衣菜「これも、かつての師…椎名茜の影響ですか?」

魁星「おい。なんであの人の名前が出てくる」

緋衣菜「あらぁ、地雷でしたか?」

魁星「もういっぺん言ってみろ。てめぇのその口、ぐちゃぐちゃにひしゃげてやるからよ」

緋衣菜「怖い怖い、堕ちる所まで堕ちましたねぇ先輩?」


0(緋衣菜、ゆっくり立ち上がる)


緋衣菜「ふふふ。…さぁて、本題に入りましょうか。」


魁星M:いつから、こうなっちまったんだろう。

魁星M:いいや、”違う”か。

魁星M:最初からこうなる運命だったのかもしれない。


緋衣菜「松田魁星さん、貴方には”忌み子秘匿の罪及び証拠隠滅の罪”がかけられております。なので、今この場で。私が”断罪裁判”を執り行おうと思います。…ふふふ。逃がしませんからね」


0(緋衣菜、長槍を魁星に向ける)


魁星M:俺がどう生きれば……

魁星M:ガキ共が正しく生きれたんだ。

魁星M:教えてくれよ、先生。


0(大雨の音)

0(続く)



0(過去編)


魁星M:8年前。

魁星M:両親がいなかった俺は19歳になるまで施設暮らしをしていた。

魁星M:ある日。その施設で事件が起きた。

魁星M:施設で暮らす子供たちの中に呪怪を発症した奴がいたのだ。

魁星M:生き残ったのは俺ともう一人の子供だけ。

魁星M:その後政府に預けられた俺は”どうせこいつも忌み子だろう”と馬鹿みたいな理由で各地を転々としていた。

魁星M:そんな時。一人の女性と出会った。


茜「やぁ少年。いい目をしているな」

魁星「あ?なんだ、お前」

茜「全てが憎いか?お前の目からは、”憎悪の闘志”を感じた。」

魁星「何訳わかんねぇ事言ってやがる」

茜「おおそうかそうか、気に入った。少年、私と一緒に来い!!」

魁星「は?」


魁星M:彼女の名は椎名茜。

魁星M:対忌み子組織”ホープ”に所属する特別捜査官だった。


0(その数日後)

0(警察道場にて)

0(吹き飛ばされる魁星)


魁星「くっそ。また負けた…!」

茜「ははは。踏み込みが甘いなぁ、魁星。」

魁星「何回やっても勝てねぇ。」

茜「諦めるか?」

魁星「なわけねぇだろ。もう一回。」

茜「はは。そうこなくてはな!」

魁星「おおおおっ!」

茜「来い!!魁星!!」


0(茜、魁星の竹刀を防ぐ)

0(魁星、茜。目を合わせて軽く笑う)


魁星M:身寄りは勿論、夢も。特にすることもなかった俺は。この人に着いていこうと決めた。

魁星M:なによりこの人だけは。俺という存在を認めてくれていた様に思えたからだ。


0(間)


魁星M:その後俺は勧められるがままホープに入った。

魁星M:俺を忌み嫌っていた政府の下に付くのは正直嫌だったが、先生がいればそれでよかった。

魁星M:”俺たちで政府を内側から変える”なんて息巻いてたのを覚えている。

魁星M:いつからか。先生と共に前を向いて歩くことだけが、何よりも生きる意味になっていた。

魁星M:だが…”あの日”。

魁星M:先生は忌み子を庇って殉職した。

魁星M:悔しかった、情けなかった。俺の人生がどうしようもなく、くだらなく思えた。

魁星M:この腐った世界のせいで、呪怪なんてもんがこの世にあったせいで。


魁星M:先生は、死んだ。


0(間)

0(場面転換)

0(現代に戻る)

0(ラミエルサール協会、墓場の前にて)

0(大雨の音)


緋衣菜「さて、”断罪裁判”を、執り行いましょうか。」

魁星「……」

緋衣菜「松田さん?どうかしたんですか?急に黙ってしまって。あ、もしかして怖くなったとか……」

魁星「うるせぇよ。俺ァ今、すこぶる機嫌が悪いんだ。口の聞き方には気を付けろ」

緋衣菜「ふふ。あなたは、そんなタマではありませんでしたね」

魁星「ガキ共はどこだ。答えろ」

緋衣菜「協会の中で拘束しています。殺してはいませんよ?ちゃあんと生きてます。勿論、教えたからといって、ただで通す訳にはいきませんが。…私の事はご存知で?」

魁星「知らん。」

緋衣菜「そうですか。では簡単に自己紹介しますね。対忌み子特別編成組織”陽季隊”の副隊長を務めさせて頂いております。八代緋衣菜です。以後、お見知り置きを。」

魁星「陽季隊……」

緋衣菜「貴方もホープに所属した事があるなら、聞いた事くらいあるんじゃないんですか?忌み子を掃討する為であれば法律すら無視し。どんな事だってやる組織の存在を…ね」

魁星「知ってるよ、てめぇらの存在はな。残虐非道、狂人の集まりだったよな。」

緋衣菜「ふふふ。よかったです。」

魁星「で、クソ女。何しに来た?目的を話せ。」

緋衣菜「勿論、お仕事です。」

魁星「はっ。…ほんと、イカれてやがるよお前ら。ガキ相手だぞ?」

緋衣菜「子供だろうと忌み子は忌み子です。その事実は変わりません。」

魁星「(舌打ち)…だったら、なんでこんな周りくどい事してんだよ?お前らの権力と武力なら、俺の家に多人数で押しかける事だってできただろうに。俺にだって奇襲してよかったはずだ」

緋衣菜「確かにそれは簡単です。ですがぁ…ふふ。それでは、”面白くない”のでね。」

魁星「は?」

緋衣菜「そこで提案です。今からゲームを始めましょう。私と、あなたたちで。」


0(緋衣菜、手を叩いて楽しそうに提案する)


魁星「……」

緋衣菜「ルールはいたってシンプルです。今ここで、私と松田さんが殺し合いをします。松田さんが勝てば…教会の中に捕らえられている2人を解放してあげます。ですが……私に負ければ、あの2人も殺します。どうでしょう?」

魁星「てめぇ…」

緋衣菜「はい?お気に召しませんでしたか?いいルールだと思うのですが。」

魁星「一体何のためにそんな提案をする?」

緋衣菜「言ったでしょう?ただの略奪は”面白くない”って。私はいつだって、楽しくお仕事をしたいのでね。ほら、あなたの獲物です。」


0(緋衣菜、魁星に剣を投げる)


魁星「こいつは(黙って剣を拾う)」

緋衣菜「当時あなたが愛用していた獅子王(ししおう)です。大変でしたよ、仕入れるの。とりわけ特殊な素材を使っていましたよね。」

魁星「……」

緋衣菜「どうですか?勿論本物です。ふふふ、どうしてそこまでするのか、教えてあげましょうか?あなたに興味があったんですよねぇ。私が政府に入る前…”白鬼”と恐れられていたあなたがどれだけの強さだったのか、どうです?あなたとっても私は……」

魁星「ふんっ!!!」


0(魁星、急に斬りかかる)

0(緋衣菜、槍で魁星の剣を防ぐ)


緋衣菜「あらあら。不意打ちとは…卑怯な事をするんですね」

魁星「お前の話には乗ってやる。ただ…!」

緋衣菜「……っ!」


0(槍が薙ぎ払われる)


魁星「きっちり殺すからな、クソ女」

緋衣菜「ふふふ。どうぞお手柔らかに。」


魁星M:腹が立つ。全てに対して。

魁星M:身の安全しか考えてねぇ野郎も、

魁星M:ありもしない噂をそのまんま信じて疑おうともしない野郎も。

魁星M:だからこんなクソ野郎が牛耳る様に暴れて、どうしようもない世界になったんだ

魁星M:だから俺は、剣を握ったんだ。


魁星「おぉおおおおぉおおぉ!!!」


0(刀を握りしめ特攻する魁星)

0(間)

0(場面転換)

0(ラミエルサール教会の中にて)

0(拘束されているるりとなつき)


なつき「くそっ!!どうなってるんだコレ!ちっとも動かない!…外は、どうなってるんだ」

るり「ねぇ、なつ。」

なつき「ん?」

るり「大丈夫、だよね」

なつき「……」

るり「私たち、捨てられたのかな」

なつき「そんな訳ない。かいせいは、僕たちの味方をしていたはず、」

るり「ケーサツに通報されたのかな」

なつき「いい加減に…っ!いや、分からない。確かにかいせいには、僕たちを匿う理由がなかったはずで…。それどころか損にしかならない」

るり「……」

なつき「あいつが味方にしろ、敵にしろ。ここまで来たら、もう戻れない。どうにかしてここから逃げなきゃいけない。」

るり「あ!でもオジサンが私たちの味方なら助けに来てくれるはず、だよ。それまでさ…」

なつき「無理だ。ケーサツに見つかった以上かいせいはきっと罪に問われる。僕たちは、”忌み子”なんだ。」

るり「”忌み子、忌み子”ってみんないう。なつだって…もう聞き飽きたよ、ソレ。」

なつき「は?何が悪いんだよ。事実だろうが」

るり「…私たちは、普通に生きたかっただけなのに」

なつき「僕も、そうだよ…でも、仕方ないんだ。世間は、世界は僕たちの存在を絶対に許してくれないから」

るり「……なつ」

なつき「今度はなんだよ」

るり「誰か来る」

なつき「はあ?なんで分かっ……た」


0(扉がゆっくりと開く)


京華「よう。お前らが例のガキ共か」

なつき「なんだ、お前は。あの女の仲間か!」

るり「なつ…!」

京華「警察だよ、ただのな。」

なつき「…っ!?なんだよ、僕たちをどうするつもりだ」

京華「あー…どうもこうもしねぇよ、安心しろ。」

るり「え」

なつき「信用すると思うか!」

京華「信用なんてしなくていい。俺はお前らに用があっただけだ」

なつき「は?」

京華「交換条件だ。俺の条件を呑むならここから解放してやる。」

なつき「先に条件を言え…!話はそれからだ。もっとも、話を聞いたからといって乗るわけじゃないぞ。考えてから決める」

京華「分かってるよ。……お前らの話を聞かせろ。それだけでいい。って言っても質問は1つだがな」

なつき「なにを……」

京華「松田魁星が、どうしてお前ら”忌み子”を拾ったのか、その訳を教えろ。」


0(間)

0(場面転換)

0(戦煙をあげ戦う緋衣菜と魁星)


魁星「うらぁあおぉおぉおおお!!!」

緋衣菜「ははは!いいですねぇ!見込み以上ですよ先輩!」


0(距離をとる緋衣菜)


緋衣菜「ねぇ、折角ですし教えてくれませんかぁ?どうしてあなたが、そこまで必死になってあの忌み子を守るんですか?義理なんてない、のに……!!」


0(急に斬りかかる魁星)


魁星「うるっっせええんだよ!!どいつもこいつもっ!!てめぇみてぇなのがいるから、先生はっ!」

緋衣菜「”聞く耳持たず”…ですか。まるで暴れ牛のようですね」

魁星「おぉおぉおぉおお!!」

緋衣菜「ですが…ふふ。少し単調過ぎますよ」


0(勢いのある突きをくらう魁星)

0(瞬時に受け流すが吹き飛ばされる)


魁星「どあああっ!!…くそがぁ!」

緋衣菜「あら、堪え性のない…どうやら威勢だけみたいですねぇ。私はあなたを過大評価し過ぎていたのでしょうか」

魁星「はぁ、はぁ。」

緋衣菜「それとも、これが”松田魁星の限界”…なんですかね。これなら椎名茜の技も、たいしたことありませんね」

魁星「……っ!!!」


0(魁星、飛びつくように斬りかかる)


緋衣菜「ふふふ。一心不乱ですねぇ。いいですよ、バカみたいで。その”目”。意地でも服従させてあげたくなります」

魁星「(だんだんと息が荒くなっていく)」


0(魁星の目には、”かつての闘志”が)

0(間)

0(場面転換)

0(教会の中にて)


京華「分からない…?」

なつき「ああ。どうして、僕たちにそこまでしてくれるのか。”忌み子”…なのに。」

るり「なつ……」

京華「そうか」

なつき「もういいだろ。さっさと解放してくれ。そういう”条件”なんだろ。オマエの質問に答える代わりに、僕たちを…」

京華「そう焦るな。すぐ解放してやる。そうさなぁ。俺からも1つ教えてやろう」

なつき「……なんだ」

京華「”あいつの過去について”だ。」

るり「オジサンの過去…?」

なつき「オマエ…あいつとどういう繋がりが。」

京華「元同僚だよ、もう6年も前の話になるが」

なつき「同僚…?」

京華「ああ。松田魁星…奴は元々。政府にいた人間だった」

なつき「は…!?始めて聞いたぞ、そんな話!」

るり「オジサンが、警察だったってこと!?そんなの…」

京華「言わねぇだろうな、あの堅物は。きっとお前らを気遣っていたんだろうさ。なにも騙してたわけじゃあねぇ」

なつき「……」

京華「そして奴の師、”椎名茜”。彼女も政府に身を置いていた人間だったんだが……彼女の影響だろうな。」

なつき「どういうことだ?」

京華「彼女もまた、”忌み子”を庇護していたんだ。」

なつき「……」

京華「相当な変わり者だった…あの人は。俺もあの人と任務をこなしていたから多少は知ってる。

呪怪をただの病気扱いして…政府にいた人間の癖に、忌み子に不当な裁きをしているからと、政府を誰よりも嫌っていた。」


0(間)

0(場面転換)

0(勢いに任せて斬りかかるが全ていなされる)


魁星「おらぁ!…ふんっ!ふん!おぉおぉおおおおお!!」


0(場面転換)


京華「施設暮らしをしていた奴は、彼女に拾われ彼女を見て育った。椎名茜がいたから今のあいつがいて。逆を返せば椎名茜がいなかったら今のあいつは、きっといなかった。」


0(煙草を吸う京華)


0(場面転換)

0(8年前)

0(道場にて)


茜「さーて、任務だ。行くぞ魁星」

魁星「はぁ、はぁ。…おう」

茜「お。どーした、疲れたか?一休みするか」

魁星「逆に、なんで汗の1つもかいてねぇんだあんたは…!」

茜「ふっ。体の使い方が違うのさ、私とお前とではな」

魁星「んだよそれ……」

茜「禁煙したらどうだ?」

魁星「あんたこそ。」


0(2人、煙草を吸う)


魁星「ほら、行くんだろ。先生」

茜「おお!…はは。暑っついなぁ、バカみたいにいい天気だ」

魁星「先生、よしのや行きてぇ」

茜「は?お前……昨日も一昨日も行ったろ。その前の日も」

魁星「牛丼しか勝たん」

茜「今風の中高生みたいなことを言うな!まったく。よし、双葉に行くぞ!」

魁星「まだやってねぇーよ!ていうか、任務前に飲もうとするな酒を!」

茜「えぇ〜……」

魁星「間をとってすき家だな。決まりだ。先に行ってる」

茜「どこの間もとってねぇよ!おい、魁星!魁星ってば!!」


0(間)

0(場面転換)


るり「その人、今は?」

京華「死んだよ、6年前に。今の状況と酷似している。忌み子を庇って政府のエージェントに消されたんだ。はっ、どうしてこう上手くいかないもんかね。あのあと奴はすぐさま政府を辞め一般職に就いたと、風の噂で聞いていた…が、まさかこんな形で相対するとはな。皮肉なもんだ」

るり「じゃあ、オジサンは……」

京華「椎名茜の影を追ってるだろうな。奴には、彼女しかいなかったから。嘘でも政府に黙って従う…んな器用な事できやしねぇだろ。今も…お前ら”忌み子”を守る為に戦ってる。世界を敵に回して」

なつき「は?なんて、言った。あいつ…来ているのか!?」

るり「どこにいるのか知ってるの!?」

京華「知ってるもなにも、ここの教会の外にいるぞ。」

なつき「……なんで。」


0(間)

0(場面転換)

0(フラフラとしながらもまだ踏ん張る魁星)


魁星M:あぁ…頭が痛い。体が思うように動かない。血を、流し過ぎた。

魁星M:アイツらは、もう逃げたかな。

魁星M:弱くて小さい癖に、心はずっと強いからなあ

魁星M:なんとかなってりゃいいんだけど。


緋衣菜「はぁ、はぁ、はぁ。」

魁星「……」

緋衣菜「松田さん、あなた。立っているのもやっとでしょうに。一体なんなんですか…?」

魁星「…あ?」

緋衣菜「何度も何度も何度も…!潰れては立ち上がって!あなたは、椎名茜に何を教わったんですか。どうしてそんなに命がけで……」

魁星「はは…どうかな。」

緋衣菜「答えて下さいっっ!」

魁星「……はっ。お前こそ。瞳孔開いてんぞ、クソ女」

緋衣菜「なにを!!……私には分からない。何故他人の為にそこまでできるのか、ましてや”忌み子”なんて!人類の敵のはず…!」

魁星「なるほどな。ずっと感じていた違和感が解けたよ」

緋衣菜「は?」

魁星「お前はきっと、相当にいい教科書を読んで、社会の…大人の思い通りに生きてきたんだろ。まるで人形みたいに。」

緋衣菜「あなたに私の何が分かるんですか……」

魁星「ちっとも分からねぇさ。優等生のやる事なんざなぁ。だけどお前今。楽しいかよ?楽しくてこの仕事をやってんのかよ…?」

緋衣菜「今更何言って……」

魁星「分かんなくなっちまったんだろ、自分が。なにが正しくてなにが間違ってんのか……だから”こういう楽しみ方”しかできなくなったんだろ。この戦いを提案したのだって」

緋衣菜「黙れっ!!私は、間違ってない!!間違っているのは”忌み子”で、それに与するあなたも。人類の敵…!理由なんてそれだけで充分でしょう。」

魁星「……そーかよ。はは…カワイソウな奴だ」

緋衣菜「もう、いいです。不愉快です。消えて下さい”我、ここに命ず。禁書に宿りし大天使よ。光の誅殺剣を宿せ。”」

魁星「(好きなタイミングで)…っ!!お前それは禁書の……!」

緋衣菜「遅い。”断罪光輪”」

魁星「う"っ!!!」


0(無数の光の刃が襲ってくる)

0(魁星はモロに全身で受けてしまう)

0(魁星、墓に凭れかかる)


魁星「あ"あ"ぁ"ぁぁぁぁあぁあぁぁ!!!」

緋衣菜「禁書の13番。”断罪の光”私はその1枚を有しています。そう、”魔法は消えてなんかいない”。人類は魔法を使う術を失っただけ。松田さん、あなたもよく知っているでしょう」

魁星「……ぅ"。あぁ"…まさかとは、思っ……たが。な」

緋衣菜「”詰み”です、松田さん。」

魁星「…………疲れた。」


0(間)

0(目にはハイライトがない。※息はある。)


魁星M:もういいだろ。もう、時間は充分稼いだはずだろ。

魁星M:少し休ませてくれ。

魁星M:起きたらまた、働くからよ。

魁星M:…そうだ。アイツらが住む場所用意してやりてぇな。いいとこは難しいけど。

魁星M:副業でも始めてみるかな……

魁星M:色々やりたいこと、あるな。けどこりゃあ、無理だ。……もうじき死ぬ、自分でも解る。

魁星M:ま……でも、おれは。

魁星M:碌でもない生き方をしてきた俺は、

魁星M:テキトーに、そこら辺で死ねればそれで……よかったんだ。


茜「魁星」

魁星「……ん」

茜「起きろ、魁星」

魁星「…は。」

茜「起きて戦え。まだ、終わってないだろ?」

魁星「……せん、せぇ」


0(間)

0(場面転換)


なつき「ますます意味が分からない…!」

京華「あ?」

なつき「あいつに、なにか得があるのかよ!!誰が頼んだ、僕たちはなにも言ってない!全部あいつが勝手にやっている事じゃないか!!助ける義理なんか、ない!!そのはずなのに……!あんな馬鹿な大人、初めて会った。施設で暮らしていた僕は、呪怪を発症する前も、した後も。扱いは殆ど変わらなかった…!友達がいなくなっただけで……大人はみんな、僕の敵だった。なのに」

るり「なつ……」

京華「それは本人に言え。俺が聞いたところでどうにもならん。1つ言えるのは。それが松田魁星という男だって事だ」

るり「……助けに行こう、なつ。」

なつき「え?」

るり「この外にいるんでしょ!?だったら、助けに行こうよ!」

京華「お前らが行ったら、なにか変わるのか?死体が2つ増えるだけだろ」

るり「それでも行く!!行くったら行く!」

京華「…いや、そうじゃないだろ。確かにここから解放してやるとは言った。だが、そのまま死にに行くバカがどこにいる。俺が言う義理はないが命の使い方ってうのをもう少し」

るり「いやーだ!行くったら行くもん!絶対行く!ね?なつき!」

なつき「ああ。このままじゃ、終われない…!」

京華「……」

るり「私も分からなかった。オジサンが何考えてるのか、もしかしたら本当は私たちの敵なんじゃないかって!でも、違った!やっぱり、オジサンはオジサンだった!!優しい人だったんだよ!」

なつき「るり……」

るり「早く解放して!助けに行かなきゃ!!」

なつき「そうだ!早くしろ!時間が勿体ない!!」

京華「お前ら……(舌打ち)好きにしろ…!俺に止める権利はない」


0(京華、柱に繋がれていた鎖を斬り落とす)


なつき「よし。行くぞ、るり!」

るり「うん!」

京華「…おう、行ってこい。」

なつき「あ、待て。最後に聞かせろ。オマエの目的は、なんだ?本当に僕たちの話を聞きたかっただけ、なのか?」

京華「別に。恩があったんだよ、俺も。椎名茜にな。…行くなら早く行け。」

なつき「……助かった!」


0(なつき、るり。走り去っていく)


京華「あいつを頼んだぞ、ガキ共。」


0(京華、煙草を吸う、煙は天井に消えていく)

0(間)

0(場面転換)

0(魁星を探するりとなつき)


なつきM:かいせい、オマエ…先生を亡くしてから…1人でずっと戦ってたんだろ?この世界と。

なつきM:1人の寂しさは、よく知ってる。

なつきM:僕もるりと施設で会うまでは、ずっと1人だったから。

なつきM:辛かったよな、苦しかったよな。

なつきM:でも、もう大丈夫だ。僕とるりがいる。

なつきM:僕たちは”忌み子”だ。迷惑ばかりかけてしまうとは思う。


るりM:けど。私たちは、1人じゃないから。

るりM:オジサンならきっと私たちを助けてくれる。だから私たちに、オジサンを助けさせて!

るりM:3人なら、乗り越えられるよね…!


0(間)

0(場面転換)


茜「いつもそうだ。お前は、ここぞと言う時に手を抜く。どうしてなんだ?」

魁星「……あ"ぁ?」

茜「あの子たちを助けたいんだろ。なら立て。何をしている」


魁星M:うるさいな、分かってる。でも……


魁星「か"らだ……が。もう」

茜「馬鹿、甘えた事を言うな。とっとと立てよ。」

魁星「…うるせぇな。」

茜「ほぉら、ここで頑張ったらちゅーしてやるぞぉ?」

魁星「うる、せぇ……!あんた、だって。勝手に……!」

茜「魁星、”お前は誰の為に何を成す?”。」

魁星「……。ったく。」

緋衣菜「さっきからなにを1人でブツブツ言ってるんですか?まぁ、放っておいてもその傷なら。どの道出血多量で死ぬでしょうけ……ど。」


0(魁星、立ち上がる)


緋衣菜「松田さん、あなた…!」

魁星「はぁ、はぁ、はぁ。」

緋衣菜「本当にどうして、そこまで!!潰れた左目、左腕。全身にいくつもの大傷を負っているのに何故まだ、倒れないんですか…!」

魁星「…先生に、100万回は言われてる事があってよぉ。”一度決めた事は、成すまでやり続けろ”って。」

緋衣菜「……!」

魁星「政府だって死ぬまでやるつもりだった癖に辞めたし、煙草も…もう吸わないって決めたけどなぁ!これだけは……これだけは死んでも譲れねぇんだワ。あいつらだけは、ぜってぇ助ける…!」


0(間)


魁星M:あんたこそ、いつもそうだった。

魁星M:俺が中途半端に折れる事は、決して許しちゃくれねぇ…!!


0(魁星の口から笑みがこぼれる)


緋衣菜「厄介な……!」

魁星「へへ。先生がいいもんでなぁ!」


0(間)


魁星「行くぞおおっ!!」

緋衣菜「来い…!」

なつき「かいせい!!」

魁星「はっ!?」

緋衣菜「どこから……!」


0(なつきとるりが現れる)

0(緋衣菜の前に立つ)


なつき「オマエは、本当にバカだな!オマエみたいなバカな奴、僕は今まで会ったことがない!」

るり「オジサン、酷い傷……」

魁星「なんで来た…!」

なつき「オマエこそ何をしてるんだ!誰か頼んだか?ここまでしろって!!」

魁星「そういう事じゃねぇ。お前ら、自分でなにしてるのか分かってんのか!!」

なつき「いいや、そういう事だね!!だから僕たちも、僕たちの意志でここにいるんだ!」

魁星「何言ってる。まだ分かんねぇのか!」

なつき「分かってないのは……!」

るり「分かってないのは、オッサンだよ!!一緒に生きようよ!!」

魁星「……」

るり「私も、私のためじゃなくてなつたちのために生きる。そう決めたの!!」

魁星「お前ら……」

緋衣菜「ふふ、ふふふふ。あはははは!!」

るり「……」

なつき「……」

緋衣菜「慕われてますねぇ、”忌み子”に。」

なつき「オマエがなんと言おうと、僕はオマエを信じるし、着いていくって、そう決めてる。」


0(魁星、かつての自分を2人と重ねる)


魁星「そうか。頑固だな、お互い」

なつき「これでもなにか、言う事があるのか?」

魁星「いや、ねぇな。…ははは。そうかそうか」

るり「なんで笑ってるの?」

魁星「いや、先生もこんな気持ちだったのか」

るり「え?」

緋衣菜「立花さん、でしょうか。あの人の行動は相変わらず読めませんね。でも、もういいです。3人ともに殺す手間が省けただけ、ですからね。ふふふ」

魁星「なんだよ、本調子に戻ったか」

緋衣菜「ええ。お陰様で。…覚悟してくださいよ。刺し違えてでも、殺しますので」


0(緋衣菜、槍を3人に向ける)


魁星「はぁ、はぁ。はは…やっぱ、お前イカれてんなぁ!」

るり「大丈夫?オジサン。」

魁星「あぁ、心配すんなクソガキ。自分の心配でもしてろ」

なつき「勝算はあるのか?それか、闘争の手立ては……」

魁星「ある。」

なつき「…なんだ」

魁星「俺が時間を稼ぐ。お前らは逃げろ。」

なつき「本気で言ってるのか?その傷で……!」

魁星「だー!死に行くわけじゃねぇよ。安心しろ…俺もすぐ行く」

なつき「信用していいんだな」

魁星「勿論だ……ぐっ!?」


0(緋衣菜、急に斬りかかってくる)


緋衣菜「ふふ、流石ですね。今のを防ぐとは。完全に隙を付いたはずだったのですが」

魁星「早く行けェ!!!走れ!!後ろを振り返るな!!」

るり「でもっ!」

なつき「いや、いい。るり。行くぞ」

るり「なつ…!」

なつき「今はただ、信じるしかない。それでいいんだろ」

魁星「ああ!」

なつき「分かった!待ってるぞ!」

魁星「これを持ってけ!その蓋の中に地図がはいってる、印が書かれてるところで落ち合うぞ!!」


0(魁星、ライターを投げる)


なつき「……絶対来いよ、かいせい!」

るり「待ってるからね!オッサン!」

緋衣菜「随分余裕ですね、松田さん。簡単には行かせません。」

魁星「やってみろ!」


0(斬撃戦を繰り広げる2人)


緋衣菜「椎名茜に会わせてあげますよ…!」

魁星「それは光栄だなぁ!後輩!!」


0(走り出すなつきとるり)


魁星「なつき、るり!!」

るり「……!」

魁星「お前らぁ、死んでも、生きろよ。」

なつき「ああ!」


0(間)

0(場面転換)

0(教会付近にて、戦いを見届ける京華)


京華「俺たちは、どこで間違えたんだろうな、魁星。なにか別の道があったのかもしれない。あの”忌み子”たちも、八代緋衣菜も。みんなそうだ。腐っちまった世界のレールに敷かれ、どう足掻いても狂うしかなかったんだ。”6年前のあの日”導火線に火を付けたもんだと気付いた時には、もう遅かった。俺たちは散らばって、お前は。燃え盛る炎に呪われた。」


0(場面転換)


魁星「おおぉおおぉおお!!!」

緋衣菜「はぁあぁああ!!!」


0(間)

0(場面転換)


京華「それとも、最初からこうなる運命だったのかもしれないな。」


京華「なぁ、先生よ。あんたはどう思う?」


0(傍には先生の姿が)

0(間)

0(場面転換)


緋衣菜「く…!しぶとい。いや、それだけじゃない。どんどん動きが早くなってきてる……?」

魁星「…はぁ、はぁ。」


0(刃がせり合う)

0(2人とも、後ずさりする)


緋衣菜「松田さん、あなたにだけは負けられない!」

魁星「…あ?」

緋衣菜「政府の…!正義のために。悪は絶やさなくてはならない。それが、ホープのエージェントだから!」

魁星「はは、ははは。上等なもん掲げてんじゃねぇか。だが、俺のが上だ」

緋衣菜「何を子供じみたことを…!」

魁星「…来いよ、クソ女。次で終わらせようぜ。俺のお前の世界(エゴ)の押し付け合いをよ。」

緋衣菜「ええ…!そうしましょう。」


0(間)


魁星「(大きく息を吸う)俺は、対忌み子特殊警察組織”ホープ”の保安官、椎名茜の弟子にして……!その右腕!松田魁星だ!!!ここを通りたくば…俺を殺してでも行けぇ!!」


0(緋衣菜の目にはかつての魁星の姿が映る)


緋衣菜「…!これが、かつて白鬼と呼ばれた男の覇気ですか。素晴らしいです。であれば私も全力を出さなければ、無礼というもの。覚悟して下さい、死は…救済なのです」

魁星「おぉおおおぉおおおおおお」

緋衣菜「”断罪、天使”」


0(間)

0(場面転換)

0(8年前)

0(都内某所、展望台がある公園にて)

0(綺麗な桜が舞っている)


茜「なぁ、魁星。お前は誰の為に何を成す。」

魁星「は?」

茜「おい、やめろその冷たい目。場が冷えるだろ…!私はやばい奴じゃないぞ。」

魁星「充分やばいだろうが……」

茜「いやそういう話をしている訳じゃなくてだな!!」

魁星「あ?」

茜「私がいいたいのは、お前の腹の底だ」

魁星「いや。は?」

茜「お前は何がしたいんだ?魁星」

魁星「だから、俺は、あんたに…」

茜「違う。そうじゃない。それは、”私に言われたから”だろう?お前の意思じゃない、よって不正解だ」

魁星「……」

茜「私に何か言われたとして、自分もこうしたい、こうなりたい。ってのがお前にあるんならそれは正解だ。」

魁星「……」

茜「なんでこんな事を言うと思う?私はな、お前に自分本位で生きて欲しいんだ。」

魁星「自分本位で…」

茜「もう一度問うぞ、お前は誰の為に何を成す。」

魁星「俺は……」


0(場面転換)

0(魁星の腹に緋衣菜の槍が貫通している)


緋衣菜「はぁ、はぁ、はぁ。」

魁星「…まぁた、懐かしいのが。はは、走馬灯ってやつかァ?」

魁星「う"。…がはっ!」

緋衣菜「不可避でしょう。魔氣を音速で術印式に流し、織りの様に重ねて生まれた”光の槍”。…どの道、最初からこうするつもりだったのでしょう。松田さん」

魁星「……」

緋衣菜「もう、眠ってください。」

魁星「俺が…」

緋衣菜「…?」

魁星「俺で存り続けるために。あいつらを、守る。そう、決めたんだ…!なぁ、そうだろ先生。まだ終われねぇよなぁ」


0(魁星、槍を”刺させて”緋衣菜に向かっていく。)

0(間)

0(場面転換)

0(街を走るなつきと、るり)


なつき「はぁ、はぁ、はぁ。」

るり「はぁ、はぁ。」

なつき「ここまで来れば、大丈夫だろ……!」

るり「…うん。なつ、ライターの中の手紙は」

なつき「ん?…あぁ。」


0(なつき、ライターを空けるが地図は出てこない)


なつき「……ない。」

るり「え?」

なつき「地図が、ない。どこかに落としたかも!!」

るり「はぁ!?え、どうしよ。探す?」

なつき「戻るしかないだろ!!」


0(2人、来た道を戻る)


なつき「はぁ、はぁ、はぁ。こっち……!」


0(曲がり角を曲がるが、そこにはなにもない草原が広がっている)


なつき「……は。」

るり「はぁ、はぁ、はぁ。」


0(るり、遅れてやってくる)


るり「なつ……!」


なつき「どこだ、ここ。僕たちは…一体どこから」


0(間)

0(場面転換)

0(魁星、また倒されている)


魁星「……」

緋衣菜「これで起き上がってこられたら、素直負けを認めてあげますよ。私も、余力が……。禁書の力は、やはり応えますね。さて、あの子たちを……」


0(魁星、緋衣菜の右足を掴む)


緋衣菜「……!」

魁星「……」

緋衣菜「無意識、ですか。であればせめて私の手で……いや。止めておきましょう。本部に戻ることにします。では…さようなら、松田先輩。お見事でしたよ、あなたの意地。なかなかに楽しめました。ふふふ」


0(8年前)

0(間)

0(場面転換)


茜「私にとって、忌み子が?どうって?」

魁星「ああ。」

茜「何故そんな事を聞く。」

魁星「…少し気になった。」

茜「ふぅん。…はは、そーかそーか。魁星は私の事が知りたいか!!可愛いヤツめ!よしよししてやる!」

魁星「やめろ!暑苦しい!!」

茜「…別に、深い意味なんてないさ」

魁星「は?」

茜「忌み子だって、元々は人間として普通の生活を送っていたはずなんだ。まぁ、先天性の奴もいるがな。体内にある魔氣(まき)が何らかの異変を起こして狂ってしまう。それが呪怪だ。普通ののビョーキだよ、ビョーキ。それなら治す方法だって、あるはずだろ。そう思わないか?」

魁星「……」

茜「まぁ世間は、調べてないのに”治療方法不明”だとか”全員即刻死刑”…だとかほざきやがるがな。狂ってるのは、明らか政府側だ。人間を人間扱いしないなんて…」

魁星「そうか」


0(魁星、タバコを吸い始める)


茜「って、お前聞いてたか人の話!」

魁星「あんたにだけはそれを言われたくないが…!聞くまでもなかったんだよ」

茜「はぁ?」

魁星「俺は先生に着いていくだけだ。そう決めてる」

茜「魁星……」

魁星「なんだよ」

茜「お前、いいやつだな!!あはははっ!!」

魁星「は!?」

茜「よーしよーし。暴れるな暴れるな。今だけは撫でさせろ」

魁星「わしゃわしゃするな!!おい!」

茜「よーし、共に”世界の夜明け”を目指そうじゃないか、少年よ!」

魁星「意味わかんねぇし!なんだよそれ」

茜「まずは飲みに付き合えっ!ははは、語り明かそうぜー?朝までなっ」

魁星「やだよ。毎回酔いつぶれるくせに!介抱するのだれだと思って……!ってぇ!人の話を聞けぇえ!」

茜「はははは!」


0(茜、実はすでに酔っている)

0(間)

0(場面転換)

0(魁星、椎名茜の墓の前で凭れかかっている)

0(目にはハイライトがない。※息はある。)

0(思い出し笑いをする魁星)


魁星「……ふふ」

京華「よう。1人で笑う趣味があったのか、お前は。気色悪ぃな」

魁星「お。……その声は、京華か。丁度いいところに来た。火くれねぇか」

京華「人を何だと思ってやがる。俺がトドメを刺してやろうか…ったく。ほら」

魁星「(煙草を吸い始める)」

京華「満足は、できたのか?」

魁星「…あ"ぁ?まぁ、好き放題やったさ。あいつらにもとびきりの”魔法”をくれてやった。1ミリも後悔してねぇ」

京華「そうか。お前らしい答えだ」

魁星「ただ……」

京華「ん?」

魁星「あいつらがどんな大人になるのかは、見届けてやりたかった、な」

京華「はっ。ヤケに素直じゃねぇか、お前らしくもねぇ」

魁星「ほっとけ。強い大人になって欲しいな、決して俺たちみたいにはならないで欲しい。」

京華「…そーだな」

魁星「まぁ、余計なお世話だろうけどよ。でも、心配でさ。こんな世間じゃ肩身も狭いだろ?だから、さ。」

京華「……」

魁星「俺が、傍にいてやりたかったんだけどな」


0(魁星の目から涙が溢れてくる)


魁星「あれ。なんだ、これ。なんだ……なんで今更こんな涙(もん)が……」

京華「……」

魁星「だけど、な。俺は……よく、やれた方だと。思うぜ?あいつらのためって考えたら、不思議と力が湧いてきてよぉ…!先生もこんな気持ちだったのかな。女の癖に男勝りで、声だってでけぇし。ケチだしいっつも酒くせえし、煙草の趣味だって合わねぇ。あと、それから…はは。死ぬほど出てくるわ。けど、あんな人でもさぁ。俺なんかのことを愛してくれていたんだなって、そう思ったよ…!」

京華「魁星……」

魁星「あぁ。死にたくねぇなぁ……死にたく、ねぇなぁ。最期くらい、あいつらの頭を撫でてやれればよかった。どうして、こんな時ばっかり……!!」

京華「……」

魁星「おかしいだろ。普段は照れくさくて、絶対言えねぇのにさ。」

京華「そーゆう所が、不器用だって。いつも言ってただろうが。このクソ義弟。」

魁星「……はは、そーだったなぁ。なぁ、京華」

京華「どうした。」

魁星「あとは、頼んだぜ……?あいつらの事は、お前に任せる。この腐った世界で…生きる術を、あいつらに……」

京華「最期まで他人の事かよ。ほんっっと、呆れる奴だ。クソみてぇな呪い言を遺しやがって…!毎週来ててめぇの墓場、灰皿にしてやるからな」

魁星「…ぷっ。くっは、ははははは!!!はは、は。…そいつは、傑作、だ。」


0(魁星、息絶える)


京華「……長い雨が明けたな。魁星」


京華「ほら、見ろよ。虹がかかってる」


京華「先生によろしくな」


0(間)

0(場面転換)


茜「……」

魁星「よう、先生。久しぶりだな、来たぜ」

茜「……」

魁星「あー。その、なんだ。こんな早く来るつもりは、なかったんだが、な。」

茜「よくやったな、魁星。」


0(茜、魁星を抱き締める)

0(茜の目には大粒の涙が)


魁星「先生…」

茜「ごめん、ごめんな、魁星……!私の教えを、お前、カンペキにやってくれただろ?でも、それは間違っていたかもしれなくて。諦めるなって、決めたことから逃げるなって!!お前には、強く育って欲しかった、から!!!だから、本当に、ごめんなぁ。もっと…自由に生ききたかったよなぁ」

魁星「そんな悲しいこと言うなよ、先生」

茜「え……?」

魁星「俺はあんたを亡くしてから。ずっと苦しみしかなかった。全部テキトーでいいと思うようになった。あの日から、堕ちてばっかの人生だって。でも俺幸せだったぞ。」

茜「……」

魁星「椎名茜に出会えてよかった。胸を張って言える。あんたには否定させない」

茜「魁星…!うわあぁあぁぁあぁぁあ(泣きじゃくる)」

魁星「おい、やめろ!みっともない泣き方をするな!!」

茜「がい"ぜぇええぇ!」

魁星「ったく。とっとと行くぞ。ここの案内してくれよ、茜先生!」


終わり。


……epilogue story……

こちらは本編の番外編です。合わせて読んでも読まなくてもどっちでも大丈夫です。


0(6年後)

0(ラミエルサール教会前、墓場にて)

0(松田魁星の墓場前にて)

0(風の音)


なつき「雨雲が近いな。もう梅雨の時期か。ということは、あれから丁度6年って事か。」

るり「なつ〜!!早くしないと、学校遅れる!!」

なつき「ああ、今行く。」


なつきM:まだ終わってないからな、魁星。

なつきM:これからだ、僕の復讐は。


……あとがき……

ご覧いただきありがとうございました、

どうでしたでしょうか、まっつんの生き樣。個人的に超好きなラストを盛り込んでみたりしました。楽しぃ〜!!魁星は死んでしまいましたが、別の物語で沢山出てくる予定(予定)ですので楽しみにしてくれると嬉しいです。本編では触れていない禁書や、魔法についてもこの後のシリーズシナリオ「rage/影無き世界」にて明らかになりますので気になった方は僕に連絡下さい。5秒で仕上げます。無理です。ともあれ本当に楽しい創作になりました。Ashには本当に感謝ですね。こいつのキャラクター性というか、性格、いいね。今度からまっつんて呼ぼうかな。いや、ウケるね。それも面白いかも。って事で、数少ないそこの読者のあなた。また会おうz。


市原きゃべつ

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#「遥か彼方、覚める事のない空の向こう側に。」 @itihara_kyabetsu

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