精神について
『布団の中の男曰く、精神とは最大静止摩擦力のことなり?』
○
精神って何ですか? と聞かれたら、自分の身体のどの部分を想像しますか? 私は頭、とりわけその中身である脳をイメージしますが、多くの方も同じように脳が精神にあたると思われるでしょうか。もしくは胸にそっと手をあてる方もいらっしゃるかと思います。
ちなみに私は脳科学者でもなければ精神医学に精通しているわけでもありません。さらに私は実験嫌いが高じて科学の道をドロップアウトした経験があり、とてつもなく顕著な科学アレルギーを持っている人間なので、なおさら詳しいことは分かりません。
しかし、『精神とは何か』を考える時、僕はいつも不思議に思うのです。
ブラジルのパンタナルのような湿地帯と化した布団の上で、べとつく足の毛も厭わずに僕はいつも自問自答を繰り返します。
「今日のお昼は何食べる?」
——「ファイトケミカルスープかな」
「明日の仕事、大変だけど頑張れそう?」
——「うーん、ちょっときついね。退職願を出すまでじゃないけど……」
「今日の晩ご飯はどうしよう?」
——「そうだな、やっぱりファイトケミカルスープの残りだね」
こんな具合に日常の中で何回も何回も自分と話し合いをするのです。
その相手こそ僕の精神なのでしょうか?
もしくは僕本体が精神で、答えているのは僕の何かしらなのでしょうか?
考えれば考えるほど分からなくなり、大阪環状線のようにぐるぐるグルグル頭の中を堂々巡りするのです。大阪駅のやしきたかじんを何回も耳にしては、ぐるぐるグルグル。
しかし、ごく稀にですが、天王寺から旅立つ大和路快速のように、思考の輪からひょいと抜け出る時があるのです。
「精神とは、思考しているという行為そのものから生じるのでは?」と、少し哲学をかじったように閃いてみせるのですが、その選んだ道の終点でようやく、「自分が何を言っているのか分からない」ということに気がつきます。ちなみに終点は奈良駅です。
そしてまた疲れた頭で環状線へ戻ります。
これを繰り返すのです。
○
精神、というとやはりどこか裏付けのできない『不確かなもの』という認識になってしまいがちですが、改めて考えてみると、人を動かすものは精神的な力だと思われるのです。
例えば、僕が小説を書く時のことをお話しいたします。
布団の中で、世の中には全く良い意味を成さないイメージをふっくらと膨らませて、「こんな事を書きたいな」とか「あんなストーリー面白そうだな」などなど、汚い臭い環境でも(汚い環境だからこそ?)色々な構想が巡ってくるのですが、いざ書こうと思うと少々エネルギーが必要なのです。
ストーリーの細かい設定や、書き出し、ある程度のプロットなどを考えていると、途中で「もういいや」と投げ出してしまいがちです。
布団でだらだらと過ごしすぎた結果、僕の静止摩擦係数は異常に膨れ上がり、初速を生み出すのに大きな原動力が必要となってしまいました。
その原動力こそ、精神力なのです。
「きっと書いたら面白いよ」、と子供をあやすように言い聞かせ、僕は答えの無い布団の中で己と格闘します。
「何を書けばいいのか分からない」
——「何でもええよ。好きなん書き」
「小説なんて書く必要ないよ」
——「必要、不必要で始めたんか? 書いてたら楽しいから始めたんやろ?」
どちらも本物の僕で、葛藤が続きます。
それでも僕の中で何かしらの変化が起こるのです。
「じゃあ、ちょっと書いてみようかな」
そして、僕のうちなるエネルギーが最大静止摩擦力相当の力を発揮して、ようやく書き始めるのです。
書き始めてしまえば、そのあとは勢いとリズムで書いていきます。
精神力をある程度維持できれば、書き続ける事ができるのです。
○
未完の小説がある僕は、「まだまだだね」とテニス少年に声をかけられる存在ではありますが、何者かイマイチわからない『精神』と向かい合い、日々精進していこうと思う、そんな今日この頃なのであります。
布団の中にて我思う メンタル弱男 @mizumarukun
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