睡眠について
『布団の中の男曰く、睡眠は社会生活の縮図なり』
○
「よく眠れたー」という朝は、なかなかやってきません。
これが日頃の疲れのせいなのか、はたまた腐った玉子のようなにおいのする布団のせいなのか、僕には判断できないのですが、いつも身体の痛みと憂鬱な気分を伴って朝を迎えてしまいます。
そして僕はよく悪夢を見ます。たいていは朝起きた瞬間から、0に収束する関数のように夢の記憶がおぼろげになっていくのですが、そのイメージの残像がひらひらと頭の中で揺らぎ、「なんだか嫌だなぁ」という独り言を吐かせるのであります。
ところで今朝見た悪夢はなんとなく覚えていて、ざっとこんな感じでした。
大きな塔の中心を貫く螺旋階段が目の前にありました。おそらくビル100階分くらいの高さがあったと思います。
そんなシチュエーションの中、僕は最上階から階段を降りていきますが、進んでいくごとに何か違和感がありました。その違和感がなんなのか判別できないまま、カレンダーをめくっていくように階段を一段ずつ着実に降りていきます。そこですれ違う人は皆、僕の背後に目をやり、痛々しそうな表情を浮かべます。
そうすると、僕も段々自分の背中……いえ、お尻の辺りに違和感があることに気がつきます。そして、その違和感は階段を降りていくにしたがって痛みへと変わります。ピキッと割れるような痛み。擦れるたびに顔を歪めるほど、しつこく粘っこい痛み。そして何か不穏な予感……。
僕はこの痛みを知っていました。
痔です。血がちょろちょろ出る痔です。
僕がそれを悟った瞬間、螺旋階段は音も立たずに崩れ落ちました。「ああぁ!」という惨めな僕の叫び声だけが響きます。
そして僕は突然目が覚めました。さっきの叫び声は夢の中だったのか、実際に声に出していたのか、よく分かりませんでした。
「痛てて……」現実世界でもお尻は痛みます。そっと優しく手で触れてみると血が出ていました。
そんな悪夢から現実への見事なバトンタッチはいらないのですが、要するに目覚め前の夢は、現実ととても相関のあるものなのだということです。
少しグロテスクな話をしてしまったのですが、睡眠をしっかりと取り、悪夢にうなされることもなく、健康にいるためにはどうすれば良いのでしょうか。『布団を変える』という最終手段以外で良い意見があれば、教えていただきたいです。
僕の痔ですか?心配ありません。
長年付き合って来た、腐れ縁ですから。
○
さて、睡眠について最後にもう少しだけ深く考えてみましょう。
有名なスポーツ選手が言っていました。
「睡眠が一番大事です」と。パフォーマンスを十二分に発揮するためには、練習やトレーニング、食事だけではダメです、と。睡眠にできる限りのコストをかけて、完璧なフィジカルコンディションを維持するのです。
それはよく分かっているのですが、早く寝てしまうと『一日の時間が短くなってしまうんじゃないか?』という感覚が切迫してきます。タイムパフォーマンスなどという、いかにも現代人ぽいことを言っているのではありません。もっと後ろ向きな、哀しい感覚。まるで両手ですくった水が指の隙間からポタポタと溢れてしまうように、時間が逃げていってしまう。そんな寂しさを感じるのです。
なので毎晩毎晩、意味もなく夜更かしをしてしまうのですが、決まって朝に後悔します。「なぜ、早く寝て今日に備えなかったのか」
そんな言葉を何度自分に浴びせたことか。
それなのに夜になると再び睡魔と格闘してしまう。夜という時間を風船ガムのように膨らませようと試みるのですが、いつもパンとはじけて無に帰すのです。
これはまるで、日頃の仕事への取り組み方が如実に表れているようで、僕は生産性を追求しない自分を変えなければならないのかもしれませんね。
でもそれは、またいつか今度にしましょう。ややこしいことは後回しにして、「とりあえず考えない」というのも時には得策といいますし。
僕はまた布団の中で飽きもせず、後悔必至で、寝る前に小説を書くのです。
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